その6
次元の隔離を解いて貰ってからが、一苦労だった。村と教練場の水源にウィルスを散布、新作のウォーターボトルと称して試作品を配ると見せかけてウィルス接種させる。
ボトルは即興で作ったけど、評判は良かった。スポーツドリンク用のストローが付いている奴ね。
プルにも納得して飲んでもらった。ちょっと残念そうだったけど、アズ様が解呪したと知ると、躊躇無く飲み干した。
その後は解呪を確認して、アズ様が職員に対して都からの食事を食べないように指導。これで、情報漏洩はなくなるかな。
社長の話だと、まだ二位は現状がよく分かってないらしい。まあ、あいつじゃあなあ。
では何で都に血をバラ撒いたかと言うと、こちらの大規模殲滅後に何やら怪しげな動きをしているのを知って、それを理由にこの地域全体の支配を強めるのが狙いだった様だ。
手始めに都の汚染された平民を奴隷化し、軍隊を組織して武力侵攻という流れだとか。如何にもやりそうな顔をしてたよな。(笑)
社長の事は、アズ様から村の職員に紹介してもらって、信頼できるアドバイザーという事にしてもらった。何しろかなり前に死んだ人の事なので、一般人には判るはずもない。
偽のプロフィールは、小さな商会の会頭さんと言う肩書きだ。まあ、それを社長って言うんだがね。
一応皆にもシャチョウと呼んでね、と言っておいた。(笑) そんな商会あったかな?と、首を傾げていたけど。まさか真祖様とは思うまい。
彼にはその後すぐに都へ行って貰った。と言うか「あれを放置しておけんので、1度帰る。」と言い出したので、言われた通りにした。
都側が我々の情報をどうやってキャッチしていたのかと言うと、呪われた人の感覚を魔法でリンクさせる事が出来るらしい。だが、それが出来るのは一部の魔術師のみだとか。
そこで社長がその魔術師全員に、これから呪いをかけるらしい。リンクしようとすると、二位とリンクしてしまう様にするとか言ってたな。(笑) 社長はブラックジョーク好きらしい。
まったく、あの社長はやることが面白いな。話が面白い御仁だし、これからも良い付き合いが出来るといいな。
そう言えば、あの人はどうやって食事をとっているんだろう?まさか吸血している訳では無さそうだけど。ラヴィ様が深く突っ込むなと言ってた。邪法なんだろうか。
話が変わるが、ナルと俺の結婚は、すぐに狭い村中に広まった。だけど、ナルには悪いけどお祝いとかやっている暇はない。
都が微妙なこの時合いに、時間的余裕はないだろう。大体、あまり自宅に戻っていないしな。それが解決してから、と言うことになった。嫁達とはメッセージでコミュニケーションしてる。
さて、アズ様を解呪してから2日後、都に奇妙な噂が流れ始めた。
「今度開催される武術大会で、優勝した者が都の支配権を獲得できる。」
この噂は、勿論俺が画策したものだ。次第に地域周辺に広まり、人が集まり始めた。屈強の戦士達が、都の宿を数ヶ月借り切って大会までコンディションを整える姿が多数見られるようになった。
数々の問い合わせが殺到し、大会運営窓口は対応に追われていた。運営側で否定しても、皆が都の責任者がそう言っているの一点張りだ。
当然二位の耳にも入ったらしい。怒り狂っている姿が自分目線で見えたと、リンク魔術師が言っていたそうだ。(笑)
それで即刻中止にしようとしたが、都に集まっている各地の猛者と、大会運営が猛抗議をしたらしい。評判が悪くなるのを恐れた二位が、予定通り開催すると公言した。
この時点で、俺達のプランは成功確定になった。しかしまあ、ここまでやるつもりは無かったのだけど、社長がこう言うの超乗り気なんだよね。お祭り好きなんだと思う。
実は、武術大会の開催は2ヶ月後というタイミングだった。二位の取り巻きは、都の汚染があまり進んでいないので、武術大会の後に改めて対策すると報告したらしい。
それ位この大会は毎回盛大に行われ、首脳部も対応に追われる地域のスペシャルイベントらしい。これを止めようとすれば、暴動になると社長が言ってた。アズ様も同意見だ。
何しろ荒くれ者が集まるせいで、治安維持が大変だとか。二位が首脳部のトップになってからは、町の方はまだ監視が行き届いているけど、農村部とかは犯罪の温床になるとか。
因みに、その二位の息子が前回の優勝者らしい。親に似て相当な女好きらしく、10歳でメイドとの間に女の子が出来たとか。
それを爺が成長後に近親相姦したらしく、挙げ句に他地域に追い出したらしい。
何と言うか、社長が嘆くのも理解できる。親は何も言わなかったそうだ。醜悪な世界だ。他にも噂は多数あり、婦女暴行や強姦が絶えないとか。
そんな息子だが、武術というか護身に関しては当代随一の腕前らしい。あの環境だから暗殺とかはないらしいが、異様に神経質なようだ。誰かに悪い噂でも吹き込まれたんだろうか。
今回も参戦予定らしい。アズ様は、何でこんな奴と婚約してるんだろう? 権力欲なんて事は、今迄の付き合いで無いと確信している。親が決めた、みたいな?
アズ様は、今回は参戦しないらしい。前回は準決勝でその息子に負けたんだそうだ。何をされたか分からなかったと言ってたな。気付いたら倒れていたとか。
アズ様の様な人が倒されるんだから、油断ならない人物だな。ま、多分大丈夫だ。手はある。(笑)
マニは、出場するらしい。あんまり都には行って欲しくないんだけど、仕方ないなあ。俺も出場するし、かち合わなければ...フラグ立てるの止めよう。
ナルは、観客席で見ているそうだ。マッチョは嫌いなんだとさ。(笑) いや俺もそれなりなんだがな。そう突っ込んだら「ソフトで毛深くないから良い。」とか言われた。
村は大規模殲滅以降、ほとんど虫の襲来は無くなった。マデュレとサヴィネに治安を任せておくことにした。本人達の希望だ。
マデュレも、銃のお陰で大分自信がついたようだ。マルタが俺に嬉しそうに話してくれたのが、とても嬉しかった。
そんな忙しい最中、ライエがとうとう俺の娘として認定された。子供の家も、村の認定員からも、お墨付きを貰った。これもマニのお陰だな。感謝しかない。
二位が大会中止を諦めた頃に、丁度メリパダから話があった。前世の事情は知らないものの、彼女は「本当に実の親子のよう」と会議で表現したらしい。
マニは、超喜んだ。俺も忙しかったが、その時だけはパーティーを開いてお祝いした。家族の他にアズ様やプルも参加してくれた。
プルは存外ライエを可愛がってくれ、ライエも彼女が好きらしい。「猫姉様」とか呼んでいるが、プルは気に入っているらしい。ま、あいつはそう言う呼び名とかにはこだわらん性格だけどな。
俺に膝だっこをされながら特製のケーキを食べているライエを、アズ様はうっとりした目で見つめていた。マニは既に気付いている様で、フィジカルコンタクトをした時に、
「あなた、いつ巻き込むつもりなの?」
と、聞いてきた。何て言うか、本当に申し訳ない。
「いやあ、言い出し辛いし。それにまだ彼女は二位の息子と婚約解消してないし。」
「...まあ、婚約は解消させないとね。でも、お互いに結構その気あるんじゃないのよ?」
「そりゃまあ3姉妹が嫁になるとか、ドラマチック過ぎて胸熱過ぎるだろう。しかも前世でとか。何て言うか、これで完成なんだなと思う。」
「流石司祭様ね。言うことがスピリチュアル過ぎるわ。」
「やめてくれよう、俺は君がいれば充分なんだよう。前次元なら、結婚した時点で社会的引きこもりで確定路線なんだよな。」
「あたしのヒモになるつもりだったの?」
「いや、そういう環境で仕事ができる人だったから。」
「ふうん、訳がわからないわ...ああそうか、医者ならそうなるわよね。」
「そうそう。社長なんてもっとワケわからん事をやってたからね。大量虐殺を煽動してた張本人の1人だから。」
「えっ、そうなのね。あなた、そんな奴と付き合ってて本当に大丈夫なの?義父様の話では、油断ならないとか。」
「うーん。彼はね、子供なんだよ。アズ様が言った通り高潔な精神ではあるんだけど、成熟された大人はそう言うのは求めないものだと思うのさ。」
「そうだわね。大体、信念とか信条なんて、ろくな結果を生まないと思う。そういう固い意志が、前次元では戦争とかにつながったのでしょ?」
「そうだね。大人なら、むしろそこは流動的であるだろうな。そして当たり前の事として、霊的法則や真理があるんだと思うのさ。」
「あなたの解釈はいつも的確に聞こえるわね。如何に哲学を続けてきたか、よね。」
「深く考えれば良いってもんじゃないけど、浅すぎるよな。やっぱりバランスが重要だと思うよ。なんだろう、君とこんな話ができる日が来るとはね。人生は水の如し、だね。」
「ブルース・リーだっけ?彼の自伝を見たわ。」
「次元部屋の御利用、ありがとうございます。(笑)」
この間0.5秒!(笑) 見た目では、マニが俺に密着してライエを見ているシーンが2秒位とか。
それを見ていたアズ様も、ため息をついた。ま、今は仕方ない。もう少し我慢してね。
このパーティー以降、ライエはマニと一緒に次元部屋と外を往復する生活を、暫く続ける事になった。
イベント日までは俺達も冒険者を装い、農村部の治安を守る活動に専念することにしたからだ。
近くに置いておけば、何かと守り易いから。冒険者として、俺達と一緒に行動するようになった。
プルもお守りをしてくれるし、ナルとも仲が良い。ライエは賢いな。パパは嬉しいよ。アズ様は、大会までは都の責任者として村に常駐する事に。
村長とフロートジョイの各セクションの候補地を選定して、工事区画のブループリントを製作中だ。
当然、魔導研究所の区画も決めないと。そう言えば、研究所って何処にあったのだろう?
都の中では見当たらなかったのだがなあ。ま、今はやめておこう。目の前の荒くれ者をふん縛る方が先決だな。と言っても、簡単なんだが。
「何だテメエ、文句あっかコラア!」
村娘を強姦しようとしていた男達だったが、マニが有無を言わさず超々弱めに唱えたショックの魔法で、スタンガンを食らったみたいに全員が倒れ込んだ。パチン!と一撃。(笑)
「殺して無いよね?」
「何で当たり前の事を聞くわけ?」
「や、あれで虫も一捻りだったじゃない。人間如きなら、死んでもおかしくないかなと。」
「加減してますよーだ、マサの馬鹿。」
「ん、1人死にかけ。」
ナルが脈を見ている。ショックが強すぎたのか、脈拍が低下しているな。電撃による内出血も疑われる。
「す、少し位失敗はあるわよ...」
マニが小さくなった。それをナルがよしよしと頭を撫でている。どっちが妹なんだか。(笑)
クラフトモードスキャンで大腿部動脈が内出血。大量出血によるチアノーゼだね。はい、修復。そのまま駆けつけた衛兵に引き渡した。
全員が気絶しているから、後ろ手にされて親指をクラフト品の結束バンドで縛られて、荷車に冷凍マグロをぶっ積んでいるかのように男達は積まれてドナドーナされて行った。南無。(笑)
プルは半裸の女性2人を保護している。破かれた服を見て、俺を呼んだ。
「マサ、何か着るものをくれにゃ!」
「ほい、それ。」
俺は瞬時に麻の服を二枚出した。女性用にゆったり目に作ってある。
「...お前のその早さには、いつもびっくりするにゃん!大道芸人か手品師だにゃん!」
プルは唖然としながら女性達を近くの納屋へ連れて行った。2人共、マニに御辞儀をしていたな。ま、嫁が目立てば俺は隠れて居られるからな。楽なもんだ。(笑)
「あーなーたー、今変なこと考えていたでしょう?」
振り向くとマニがご立腹だ。(笑) お前なあ、人の感情読み過ぎなんだよ。自分の気が休まらないだろうに...。
「いや、君って正義感が強いし、勇者様みたいだなと。案外いけるんじゃね?これから冒険者デビューとか、どお?」
「あなたも後ろに隠れていないで仕事しなさいよ!」
「ほらあの、気付いたら君の手が出た後なんだよな...と、皆思っていると思う。」
そこの場の全員が頷いた。
「何よ皆で!ウッキィー!!」
奇声を上げながら走って行っちゃった。(笑) あまりのショックで猿化したか...あれ?これって俺が連れ戻す役か。何だこれ。(笑)
暴れる嫁を脇に抱えて、さっきの場所まで戻ってから次の現場に移動。他の冒険者パーティーと一緒に行動してるんだよね。
報酬は村から出る保存食と宿の無料宿泊券、武器や防具、それの修理素材だ。町の中と違って、呪いの汚染はない様だ。
まあ、ウィルスの散布で暫くは流行らないんだけどね。人には無害で、呪いだけ消える。ウマイもんだ。
しかしまあ、社長も俺と同じで、変に便利なテクノロジーは伝えてないんだな。この文化レベルでいる分には、世界は平和だろう。
原始的だけど、それが良い。テクノロジーの塊の俺に、それを言う資格なんて無いけどな。(笑)
ここいら辺は、森が多くて自然が豊かな為に、そこを縄張りにする野生動物が主な外敵になる。だが、虫のケースでも分かる通り、前次元より巨大だ。
たまたま襲われている現場に居合わせたので加勢したが、体長5mを越えるイノシシが家を粉砕しながら走り回っていた。(笑)
戦士職の盾なんて、アンカーつきのタワーシールドとかでないとあれは受けられんな。と言うか避けないと衝撃で死ぬ。
流石に手がつけられなさそうだったし、獲物を横取りすると報酬で揉めそうだから、遠くから分子剣を指先でちょいと一薙ぎ。周辺には当たらないように配慮した。
走りながらイノシシが縦に割れたのを見て、周囲がビックリしていたけど、俺がやったとは気付いてないと。
マニがこそっとくっついてきて、フィジカルコンタクトで、
「あなた、ちゃんと取り分を主張しなくちゃなんだから、自分だと申し出なさいよ。」
とか言ってきた。だから、後で好きなだけ狩ってあげるよと言っておいた。説明がめんどくなるでしょ、奥様。まあ結局偶然?だとかで平等に報酬配分してもらったのだけど。(笑)
当然、その日の夕飯は半壊した村の一角でキャンプ仕様に。クラフトでワイルドボア・ステーキをミディアムレアで。
ライエが噛みちぎれなさそうなので、ハンバーグも作ってみた。付け合わせはテンプレね。
大木の切り株を数ヶ所、少し削って平らにして、皆でテーブル代わりにして楽しんだ。
「やっぱり肉は良いにゃああああああああ!ウマイにゃああああああああ!」
プルは上機嫌だが五月蝿い。そして同パーティーで隣の席のスカウト風の兄さんに「ウルセエぞ獣女!」とか言われてたし。(笑)
まあまあ、どうぞ一杯と、エールを奢ったらスッゲー気の良いやつで、終いにはプルと肩を組んで酒を飲んでいる始末。(笑) 人の話を聞いてないので、その場に2人とも置いてきた。(笑)
ナルは、ハンバーグが痛くお気に入りだ。何かモグモグ一生懸命食べている。リスみたいで可愛い。(笑) やはり固いのは苦手とか。酒は飲まずに果実水を美味しそうに飲んでいる。
「ナル、ちょっとそのコップ貸してみ?」
ナルが「ん。」とコップを寄越した。俺はクラフトで氷を作って入れた。ショットグラス用の氷みたいに氷結して、中々溶けない感じのやつだ。
「ナル、ほいさ。」
コップを取って、口に入れたナルの表情が、ニヤッと笑った。
「冷たくて美味しい。」
「あーそれ、ずるーい。私にもやって!」
マニがコップを突き出す。同じく氷を入れると、微妙な顔になった。
「冷たいと、エールの味が判りにくいわね。」
「冷えすぎだね。皿の上に氷を出して、温度を戻してごらん?」
言われた通りにして、少し経ってから飲んだマニの顔が幸せそうだった。なにも言わずに「プハーッ」て言ってたから、満足したのだろう。ふと横を見ると、ライエがうとうとしていた。
「マニ、ライエを寝せてくるからね。」
「ウーイッ、わかったにゃはは...」
あ、あいつ大丈夫だろうか?心配だから、二人とも回収しよう。ライエはナルに任せて、俺はナニか言っているマニを担いで獣皮の大型テントまで運んだ。
ほろの中に入ると、次元扉が。いつの間にかマニは眠っていた。ライエとマニをベッドに寝かせて、ドアを閉めた。後が面倒臭くないからいいや。(笑)
ナルとテーブルに戻ると、皆出来上がっていた。哨戒担当以外は、ぐでんぐでんになっている。
ま、野性動物の襲撃とかあっても、俺がなんとか出来るから良いんだけどね。
「無用心。」
ナルがその体たらくを見て、抑揚の無い感想を述べた。顔はきっちり困っているが。(笑)
「ま、明日は俺達が楽しんで、あいつらは見張りをさせれば良いんだよ。貸しを作っておくと、後が楽だな。」
「ん、そうかも。」
ナルは体をぴったりくっつけてきた。ああ、人肌が恋しいのかな?酔いつぶれてその場で寝ている奴が多いので、場所を変えることにした。
ナルは綺麗な子だし、酔っぱらいに絡まれるかも知れない。痛い目を見るのは、絡んだ奴の方だろうけど。女性の冒険者もいるし、冷やかされるのも御免だ。
ちょっと離れた、半壊した家の影で俺達は2人きりを楽しんだ。実は、結婚してからナルとこういう風になるのは初めてだったりする。忙しかったからなあ。
ただ、彼女はキスは知っていたのだが、その先は経験が無いらしいとフィジカルコンタクトで判明した。
うーん、そうするとここでは難しいかな...。
「何で難しいの?」
ナルが無言で尋ねて来た。俺は、初めての時の問題点をイメージで送った。すると、尖った耳の先まで真っ赤になって、抱いているだけで心臓の拍動が手に伝わって来た。
「ナル、無理しなくても大丈夫だよ。別に愛情だけなら、こうやってキスをするだけでも伝わるでしょ?」
俺は耳元で囁いた。ナルはうつむいていたが、顔を上げて俺の目を見据えた。ああ、覚悟を決めたな。まあ出血しても修復は出来るんだけど...。
また痛い思いをするだけだしな。個人差もあるので絶対ではないけど。そういう思念をナルに送ったが、
「それでもいい。マサは忙しいし、チャンスが少ないから。」
と、長めの返事が返ってきた。妾とは言え、結婚してるのに相手をしないのも問題だな。ま、本人がその気なのだから、意思は尊重しましょ。
俺達は、2人で毛布にくるまって朝まで過ごした。忘れていたのだが、彼女もサットに怪我の修復能力を高められていたのだった。最初から悩む意味はなかった件。(笑)
それと彼女は排卵日を計算していなかったので、次からはそれもしておいてねと言っておいた。
「...排卵日?」
ああそうか。今更だけど、この次元は西洋医学的な性教育とか無いのかな。
「サット、ナルの体は人間なのかな?それとも亜人?」
「君と結婚した時点で、人間は卒業してるけどね。元はエルフの卵子をベースに人工培養した、ホムンクルスとしてのボディーだった。」
「義父さん、流石。」
「ああそうか、それであんなに重かったのだな。君を大規模殲滅の時に運んだら、往生したよ。」
「マサ、何気に失礼。」
ナルはプーッとふくれた。意外な一面が。でも可愛い。(笑)
「いや、ホムンクルスは外皮が丈夫な代償に柔軟性が乏しいんだよ。能面までは行かないけど、表情が少なくなるんだ。大関節付近は違う素材を使うらしいんだけどね。感覚も鈍い。彼女がこういう風に出来るようになったのは、最近なんだ。」
「あんた、何でそんな事まで知っている訳?」
「いや、本人了承で体を造り変えているときに、記憶から判った。ついこの間、マニに頼んで次元部屋でね。幼少期に先天的な体のトラブルがあり、親の研究込みで変えた様だね。そして今は、魔法生物から超科学生命体に生まれ変わった訳だ。」
「感度良好。」
グッと親指を立てるナル。あはは、面白いやつだ。ナルは俺の胸に横顔を乗せて、満足そうな表情をしている。肉体的にはともかく、精神的には良かったのかもしれない。
「...話がそれたけど、この子の排卵は人間と同じで良いのかな?」
「ああ、そういう話ね。どうにでも出来ますよ、御主人。(笑)」
「そうなんだ。うーん、ナルはどういうのが良いかな?」
「んー、自然に産みたい。」
「ナル、これをご覧。」
サットの動画教室だ。ナルの視界に動画が再生される。声には出していないが「おー」とか、「わー」とか言っているのが判るのでウケる。(笑) これも、脳内高速処理で。
「...で、どうしたい?」
「マニと同じがいい。子供を作っている実感がほしい。」
「ああ、そっちが重要ね。じゃあもう、それで行こう...そう言えば、マニはどんな風になってるの?」
「ああ、彼女はね、今忙しそうだからライエが手が掛からなくなって来てからで良いとさ。何と言うか、そこは良く出来た子だね...。」
「じゃあ、私もそれで良い。」
俺は少し悩んだ。マニとナルの出産が同じタイミングだと、後が結構大変じゃないだろうか?
「うーん、いや、君はもしかすると先の方が良いかもね。思っている以上に、子育ては大変だからね。」
「そうなの?」
「そりゃあああもう、大変だよ。夜は寝られないし、オムツはしょっちゅう取り替えなくてはだし、母乳は頻繁に飲ませないとだしね。ライエ位の歳になるまでは、親の自由なんて無いよ?」
「そうなんだ。とにかく、マサの子供が欲しい。」
「サット、それじゃあ人間仕様で頼む。後は色々時間をかけないとだな。」
「了解。」
「ナル、マニの時間が空いたら、そうなったことを伝えて色々教えてもらってくれ。俺とこうしている時は、聞いてもらえば教えるから。」
「分かった。」
もう少しで、日が登る。俺達は服を着て、身だしなみを整えた。ああそうか、こんな感じでナルとは時間をとればいいのだな。冒険者生活の楽しみが増えた。