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その3

「ん?すると、プルも因縁があるということですよね...?」


俺は急にプルとの因縁について気になりだした。ラヴィ様は、後ろを向いて肩を震わせてプッと噴いた。笑っているらしい。


「くっくっく、すまんのう。あの者はな、マサの飼い猫じゃったのよ。」


「え?飼い猫って...もしかして奴隷とかですか?」


「このうつけめ、お前が奴隷を抱える様な人生を送っていたと思うのか?そうではない。正真正銘の動物じゃったのよ。(笑)」


これにはマニも笑った。シリアスな空気が一転して、面白くなってしまった。


「霊の器は、最初バクテリアのような微生物から始まり、次第に植物、小型動物、大型動物、人間と進化するのじゃ。じゃから、知的動物から人間に進化する微妙な位置に、あの者は居るのじゃ。」


「ああ、そう言うことですね。ちょっと安心しました。(笑)」


「我が奴隷を買うような輩を、司祭になどするものか。じゃがの、前世で孤独だったお前はあの猫を心底可愛がっておってな、今生でまた巡り会う事になったのじゃ。」


あー、そうかあ。あいつ無礼だけど、何だかウマが合ったんだよなあ。そう言うことか...


「うっくっく、わ、分かりました。とにかく色々縁があるのですね。」


腹筋を震わせながらマニは納得した。多分、プルの素行で相応に思い出せることがあるんだろうな。(笑)


「するとしかし、アズ様にどうアプローチするか、だな。」


皆も頷いた。あの孤高の姉御を誘うのに、色々条件とかあるだろう。それに立場もあるだろうし、どうやったら良いんだ?


「そうよのう、とにかく待つことじゃ。アズナイルがお前の嫁になる可能性があるなら、チャンスはその内やって来るじゃろうて。」


「分かりました。遠くない将来でそういうチャンスが回ってきそうな気がします。」


何となくだが、俺は都に行かなくてはならない気がしている。と言うか、行ってみたい。どんな所で、何があるのか。人々の顔や、街並みが見てみたい。



ナルの意識が戻ったのは、それから2日後だった。


「ん~」と、抑揚のない声をあげて起きると、周囲を見回す。次元部屋のベッドに寝かされていたらしい。


衣服は着ていない。近くのハンガーに綺麗にかけてある。細くて白い、華奢な裸体を気だるげに動かして、私は服を着る。


ふと、何かに気付く。全身をみなぎる様なマナが駆け巡っている。仙骨から頭頂部に、エネルギーの塊が通り抜けていく様な感覚で、マナが上昇する。


体も何だか元気が出てきた。以前は寝起きが低調ぎみでテンションが低いのだが。スッキリとした寝覚めなど、今まであっただろうか?


不意に入り口が開いて、マサが入ってきた。


「やあ、お帰り。」


「ん、ただいま。」


私の愛した男。今まで理解してくれなかった男性ばかりだったのに、唯一正当に評価してくれて、笑顔と愛情を注いでくれる。彼と一緒にいるときが、一番安心できるし心が満たされる。


そのまま、彼の胸に飛び込む。そして顔を見上げる。この角度で見るのが、一番好き。今まで美形の男は沢山居たけど、可愛いと思った男性は居ない。


私だけの感覚なのかもしれないけど、この見上げた角度が大好き。彼もそれに気付いて、お互い見つめ合う。自然にキスをする。


胸が、彼のものなのか自分なのか判らないくらい高鳴っている。


「ナル、聞こえるかい?」


口を動かしてないし、声を出していないのに、彼の声が響く。何処に?私のハートに?頭の中に?


「うん、聞こえる。」


途端に、彼の思考や感情、すさまじい量の情報が入ってくる。彼の過去、能力、分子クラフト?私の呪い?込み上げてくる愛情。


ああ、熱い。マサの愛が熱いよう。私をもっとあなたの熱で溶かして。あなたになら、私の全てを捧げられる。どうか、私を食べて。私はあなたの一部になりたい。


「フィジカルコンタクトって言うんだ。君にも親父を紹介するね。」


親父?マサのお父さん?そんな人居なかったと思う。不意に若い男性の声が聞こえる。


「やあ、綺麗なお嬢さん。私はサットと言う。高次元生命体だ。彼の脳と同化していて分離は不可能なんだ。事後になって申し訳ないが、マサを受け入れるということは私もセットになる。」


「ん、問題ない。私はマサが好きなだけ。」


「君は腹が据わっているね。マニには最初拒絶されたけど。」


「いや普通、拒否るだろ?サットの存在に驚いていない事に驚くな。」


「ん、何か大丈夫。」


「あはは、面白いお嬢さんだ。これから宜しくね。彼と触れれば、情報を濃い密度でやり取りできるし、処理が高速だ。今の会話で0.5秒しか経ってないよ。彼の感情も、私のも、君のも、お互いダイレクトに感じられるよ。ごまかしは効かないからね。」


「ん、分かった。」


「それから、これを観てもらえるかな?」


空間が四角く光り、私が気を失っている時と思われる絵が映る。絵の中の私が、血のような目と犬のような牙を生やしている。


サットと名乗った声が、嘘をついていないという事は何故か凄く理解できた。ごまかしが効かないと言うのは本当なのね。マサもそう言う精神状態ね。


「これは、君がさっき気絶しいているうちに発生した現象なんだよ。君はどうも呪われていたらしい。」


「呪い?」


「そう。血に含まれている呪いだ。状態異常を引き起こす永続魔法とでも思ってくれ。真祖が居たと思われる前の次元では、この怪物をヴァンパイアと呼んでいた。もう、この発生要因は除去してあるよ。」


「...今まで気づかなかった。」


「普通は生物を吸血して生きる種族なんだけど、君にはそう言った願望は無かったのかな?」


「全然。」


「ラヴィ様が砂漠に捨てられたのも、これと関係すると仰っていた。君がなにか思い出したら、マサやマニに教えてほしいんだよ。」


「うん、分かった。」


「そう言う訳で、君の寿命は呪いを解いたことで一度通常に戻り、私が再び長寿化とマナチャネリング強化をしたよ。それから、分かっていると思うけどマサやマニと同じく情報の共有化、処理能力の向上、身体強化、後は希望で色々な情報の提供が出来る。」


「うん、さっきから凄い。」


「でしょう?マサの妻になる特権だよ。後は君も精神と霊のレベルアップをしないとね。」


「どうやるの?」


「マサや私やラヴィ様と一緒に居れば、自然に学べるよ。意味は、その時解るよ。」


「分かった。」


「ナル、アズ様に呪いの事は内緒にしてくれ。彼女も折を見て、君達と同じ妻として迎える予定だから。」


「アズ様は婚約者がいる。」


えっ、マジですか?こりゃあああ、大事(おおごと)だ。成る程、俺達夫婦を見てため息をついていたのは、そう言う事があるからなのか。


「それは参ったね。とにかく君を高める段階で判明したことだし、いきなりこんな事伝えても彼女の為にならないと思うんだ。」


「私もそう思う。」


「俺としては、あれだけ喜んでいた彼女をがっかりさせたくない。知恵を絞って、円満に解決したいんだよな。ナル、力を貸してくれるかい?」


「私はあなたと一緒。大丈夫。」


「ナル、ありがとう。」


マサはそう言うと、私を優しく抱き寄せた。今まで感じたこと無い熱が、私の全てを包み込んで溶かして行く。ああ、今迄にこんなに幸せな事はなかったわ。私にあなたをもっと感じさせて...。



...ナルと口付けをしたら、また気を失ってしまった。そんなに幸せを感じてくれたのかな?多分昇天しているなこりゃ。ゆっくり馴れて行こうね。時間はたっぷりあるからさ...。


マニが部屋に入ってきた。俺に寄りかかると、驚いて顔を見合わせた。


「アズ様って、誰と婚約したのかしら?私も聞いてないわ。」


「うーん、勝手にこっちが巻き込もうとしていた訳だし、この件は時間をかけるしかないね。」


「ラヴィ様も、そう仰ってたじゃないの。あなた、焦らないで行きましょ。」


「さすが正妻殿。肝が据わって来たね。」


「もっと新婚生活を堪能したかったわ。何だか寂しくなるわね...」


俺はナルを抱えて部屋を出て、自宅のベッドへ横たえると、マニの肩に腕を回して次元部屋へ誘った。


「妾殿は寝ているし、俺達も寝ようぜ。おっと、ラヴィ様はこちらに。」


勾玉をクレードルに安置して、久しぶりに夫婦水入らず。


「ふふっ、あなた。」


「マニ、愛してる。」


次元部屋の扉が閉まった。勾玉が淡く光り明滅している。


「マサが、これからどんな選択をするのか楽しみじゃ。しかし真祖の血は、どんな特性を持っているのやら。サットに解析させんとじゃな。やれやれ、我もひと肌脱ごうかのう...」

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