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呪いとオモイ  作者: 燐。
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第6話 大事なこと

 週末になり、武史と和磨から握手券を譲ってもらった俺は人気アイドルAYANEに会えるという握手会の会場に向かった。


「握手会に行って何をするつもりなんじゃ? 強引なことをしようものならわしが許さんからな? 」


「何もしねえっての。俺はただあのアイドルに伝えとかなきゃならねえことがあるだけだ」


「伝える? いったい何をじゃ? というか今日はおぬしの子分はおらんのだな」


「まあ見てろって。あ? あいつらにはめちゃくちゃ重要な役目を与えてある」


『AYANEの握手会に参加する方! こちらにお並びくださーい!! こちら最終尾になりまーす!! 』


 握手会が始まり、順番に参加者が握手していく。そしていよいよ俺の出番が来た。


「いつも応援ありがとうございまぁす!! お兄さん元気なさそうなので私の元気を分けちゃいまーす!!

エイッ!! 」


 AYANEは満面の笑顔で俺に話しかけた。


「いや、そういうのはいいから。今度のライブ、あんたの婆さんも見てるからさ、そのいかにも作ってますみたいな笑顔はやめろよな。んじゃ! 」


 AYANEの表情は一変し険しい表情に変わった。


「は、はい? 」


 AYANEの表情に気づいたスタッフが慌てて俺の方に来た。


「君! ちょっと待ちなさい!! 何だあの態度は! それに彼女のプライベートな話までして、困るんだよそうやってあの子のモチベーション下げられるの。ただえさえ身内が亡くなって病んでるっていうのに。とりあえず身分が分かる物、見せてもらえる? またイベントに来られると困るからね」


「あ? そんなもん持ってねえよ。俺はただ言いたかったこと言っただけなの! どけよ! 」


「あ! コラっ! 暴れるな! 」


 俺は数人のスタッフに取り押さえられ事務所に連れて行かれた。


「今から上の人を呼んでくるから、おとなしくしてろよ、分かったな? 」


「那月! 何をしとるんじゃ! いきなりあんな言い方しても信じてもらえる訳ないだろ!? まったく」


     (ガチャッ)


 扉が開いた。スタッフが戻って来たのかと思ったが、そこにいたのはアイドルのAYANEだった。両手の拳を強く握りしめ、今にも怒鳴りそうだった。


「何なんですかあなた!! 握手しに来てくれたと思ったらいきなりお婆ちゃんが見てるとか言い出して、お婆ちゃんはもう死んでるのよ!! こっちだって疲れてんの!! しかも挙げ句の果てに作り笑いをやめろ??

何様のつもり? こっちだってね、訳もわからない人達に笑顔振りまくの大変なのよ! ただえさえ辛いって時に....何なのよ! 」


 そこにいたのはアイドルのAYANEではなく、本当のあやねの姿だった。


「やっぱアイドルもファンのいない所ではまるで別人だな。でも俺は本当のことを言っただけだ。次のライブに俺があんたのお婆ちゃんを連れてくる。死んでいようが生きていようが俺には関係ねえからな」


「当たり前でしょ! あれは人気アイドルAYANE。今の私は藤崎絢音。訳の分からないこと言わないで。死人でも見えるっていうの? バカバカしい」


「まあ信じねえなら信じてくれなくてもいいさ。でもライブは絶対成功させてくれよな。んじゃ」


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 」


 俺はスタッフが戻ってくる前にその場を後にした。


「那月、これでいいのか? あの感じはまだ信じてないみたいじゃぞ? 」


「何も言わねえよりはマシだろうよ。きっと、ただ見るだけじゃなくて知ってほしいんだよ。自分がいるってことを。約束ってそういうもんだろ? 」


 楔は少し微笑んだ。


「おぬしにしては察しがいいじゃないか。うむ。約束とはお互いの理にかなってこそ成立するものじゃ、どちらかに偏ればそれは約束ではない」


「兄貴〜!! 」


 声がする方を見てみると、武史と和磨がこちらに走って来ているのがわかった。


「お! 例の物は手に入ったか? 」

 

「ええ、もちろんっす! 兄貴の為ならこんなもん余裕っすよ! 」


「おー! でかした! えーっとぉ、武史! じゃなくて和磨! 」


「俺は武史ですよ! 坊主の方が和磨です! 」


「あーもうお前らややこしいんだよ。まあ何にせよサンキューな2人とも! 」


武史 「もちろん兄貴のお望み通り1番前の席取っときましたよ」


和磨 「1番前ってなるとかなり苦労しましたけどね」


「那月、いったい何をさせたんじゃ? 」


「ああ、来週AYANEのライブがあるってことが分かったからな、あいつらに1番前の席のチケットを取ってもらったってわけだ。これで婆さんと合流してライブに行けば完璧。1番前ならあの女も気付くだろ」


「まったくおぬしは。何でもありじゃな。しかし、婆さんはあのアイドルには見えんぞ? 」


「ばーか。お前、とっておきの技持ってんじゃねえか。あれを利用するのさ」


 そしてついにライブ当日になった。俺と楔は婆さんを連れて会場に向かった。


「すっげえ人だなぁ。あんなツンツン短気女にもこんなにファンがいるんだなぁ。こりゃたまげた。っていうか、なんでおめえらもいんだよ?! 」


武史 「何言ってんすか兄貴! 兄貴の身になんかあったらどうするんすか! 俺たちが護衛するんですよ! 」


和磨 「もちろん、俺たちも会場内にいるんで、安心してください」


「いらねえよ! 護衛なんて! てめえらもライブ見てえだけだろ! 」


武史 「いいじゃないすかぁ、みんなで楽しみましょうよ」


「懐かれとるなぁ。おぬしのくせに」


「っるせえ。好きで懐かれてねえっての。ん? なんかスタッフの奴らざわついてねえか」


 会場周りにいたスタッフ達が何か焦っているように見えた。俺は近くにいたスタッフに話を聞いた。


「おい、あんた。なんかあったのか? 」


「あ、いや、申し訳ありませんが関係者以外にはお話しできません」


「俺はAYANEの従兄弟だぞ? あいつが婆ちゃんっ子だってことも知ってんだ」


「それは、我々スタッフでも知っている人は少ない情報。実は、AYANEさんがまだ会場に着いていないんです。マネージャーが連絡しても繋がらないみたいで、もしかしたら来る途中で何かあったんじゃないかと」


「はぁ? 何だそれ。それじゃあライブ出来ねえじゃねえか!」


「那月、どうするんじゃ? ライブが出来なければあの婆さんに見せてやることができんぞ」


「分かってんよ! あいつどこに行ったんだぁ。あーくっそ! 楔! 俺あいつ探してくるわ! お前は婆さんのこと頼んだ! 」


「おいっ! 那月! 待たんか! 」


「婆さん! ぜってぇあいつ連れてくっからな! 武史! 和磨! 先に入ってろ! 」


 俺はAYANEを探すため、会場を飛び出した。


「あいつがいなきゃ始まらねえんだよ馬鹿野郎。こんなとこで諦めるかよ」



読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします。

武史と和磨の話す描写には文頭に名前を記入してあります

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