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呪いとオモイ  作者: 燐。
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第3話 伝えられなかった本音

 翌日、作戦を決行するべく、おっさんをとある場所に行くよう伝え、楔と一緒に行動を開始した。


「おーい! そこのお二人さん! ちょっといいか? 」


「お主、何をするつもりじゃ? 何かとんでもないことを企んでるんじゃあるまいなぁ? 」


「ばーか、なんも企んでねぇっての。ただ俺の話を聞いてもらえないならあいつの友達を使えばいいって思っただけだ」


 声をかけた二人組は俺の声に気付き振り向いた。小声で何か話している。


「おい、あいつ御影高校のやつじゃねえか? このへんで悪さばっかりしてるって有名なやつだ。もしかして俺たちをカツアゲしようとしてるんじゃないか? 」


「おい! 聞こえてんだろ? ちょっと俺の話聞いてくれよ」


「うわぁっ! いつの間にこんな近くに! あ、俺たちに何の用ですか? お金なら持ってませんよ? 」


「ちげえよ! お友達の隆史君の事で頼みがあるんだけど。あ、もし聞いてくれないってんならお前らのお望み通り持ってるもん全部かっさらって全裸で家に帰らせてやってもいいけど? 頼み、聞いてくれるよな? 」


「わ、分かったよ! どうすればいいんです? 」


 優しく頼み込んだら協力してくれるとのことだったので俺は一通りおっさんの息子の友達に指示をした。


「全く、強引なやつじゃ。他に手段はあったじゃろ」


「ねえな。俺に友達なんていねえしどう頼みゃあいいかなんて知らねえよ」


「可哀想なやつじゃの」


「同情なんていらねえよ。別に友達なんて居てもいなくても一緒だろ。つか早く行くぞ、もうキャストは揃ってる頃だろうからな」


 俺たちは先におっさんが待っているとある場所に向かった。


「なんだよあいつら、御影湖で遊ぶからお前も来いとか言っといて誰も集まってねえじゃねえか。てかここの湖って....ん? あの釣竿って、親父のじゃねえか?

なんでこんなとこに、しかも2本....」


「おっさんも無事に着いたみたいだし、よし! ここまでは作戦通りだ。さてと、ここからどうするかな」


 そう。俺の作戦はおっさんの息子の友達に息子をこの湖に来させるように頼み、そこでおっさんの言いたいことを俺が代わりに言うというものだ。親父との約束の場所ならあいつも話を聞いてくれるはずだとふみ、この作戦に至った。しかし、なぜ釣竿が置いてあるのかは俺にも分からない。


「ここで釣りするって、おっさんと約束したんだろ?まあ、今やそれも叶わねえけど。おっさんの話、聞いてやってくれねえか?」


「なんでお前がここに?! まさか、俺の友達になんかしたのか?! 」


「人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ、俺はただお前の友達にここに来るようお願いしただけだ。もちろんめちゃくちゃ優しくな」


「なんなんだよお前!! からかうなら他所でやれって言ったよな?! もう俺に関わらないでくれよ!! 」


「別に、あんたをからかうつもりもバカにしてるつもりもねえ。ただ、信じねえかもしれねえけどここにお前の親父がいるんだよ。どうしても伝えないと成仏できないってな」


 俺が説得を試みると、おっさんの息子はうつむいた。そして、涙を堪えるかのように声を震わせながら俺に話した。


「ほんとに親父がいるんなら....俺だって....言いたいことが山ほどあるよ....でももう、親父は帰ってこねえんだよ....もう、死んじまってんだよ」


 その時、横にいたおっさんが息子のところに歩み寄ろうとしていた。


「た、隆史....! 」


    (ザザッ)


「今、誰かの足音みたいな音が....まさか....ほんとに親父が....? 」


「何回も言ってんだろ、今のはおっさんの足音だ。ほら、おっさん何を伝えたいんだ? 俺が代わりに言ってやるから」


 おっさんは涙ながらに息子に叫んだ。


「隆史....!! ごめんな....! あのとき出て行けなんて言ったけど、本当はお前が家にいないのが寂しかったんだ....いつかは家を出て独り立ちしていくことも分かってた....!だけど....だからこそ今だけはもっとお前との時間を過ごしたいと思っていたんだ!!だから隆史が家にいても楽しくないって聞いたときつい腹が立ってしまって....本当はそんなことを言いたかったわけじゃなかったんだ!! 」


 俺はおっさんの想いを代弁するように息子に話した。それを聞いた息子は涙を我慢していたのか大粒の涙を流しながらおっさんの気持ちに応えた。


「俺も悪かったよ!! 俺、ガキだからついカッとなっちまって....本当は家が楽しくないなんて嘘なんだ!! 家族で飯食って....テレビ見てみんなで笑って....そんな日常が大好きだったんだ!! でも謝らないまま親父が死んじまって....俺、どうしたらいいか分からなくて....

墓参りにも一度も行けなくて....ほんとうにごめん...ごめんなさい....!!」


 息子は声を荒げて泣き崩れた。


「おい、おっさん、泣いてちゃ分かんねえだろうが。なんか言ってやれよ」


「あぁ....すまない....もういいんだよ隆史、私も家族団欒で囲む食事大好きだったよ。休日になるとたまに家族で遊びに出かけたり....俺は幸せだった....隆史....人生を生きているといろんな壁にぶつかったり打ちのめされたりすることがあるだろう。けどな、父さんがずっとお前を見守っているから、どんなに辛くてもどんなに苦しくても負けないように....ずっとお前を見守っているから、恐れないで進んでいってほしい」


「だってよ。ていうかあんたら死んでから言うんじゃなくてよ、こういうのは生きてる時に言えっての。後悔してもおせえんだからな? 」


「バカもん!! 余計なこと言わんでええ! それよりお主、最後に息子と釣りでもするか? 」


 突然楔がおっさんに訳のわからないことを言い出した。


「しかし、私はもう死んでいます。物を触ることなんて出来ませんよ? 」


「普通はな。じゃがわしの力を使えば死人でもそう長くはないが物体に触れることができるのじゃ。どうする? 」


「そんなことができるのですか? 是非お願いします! 何か思い出してくれるかと思い、息子の分の釣竿も持ってきたんです! 」


「お前そんな力あんの!? やるじゃん! てかあの釣竿、やっぱりおっさんが持ってきたやつだったのか」


 楔が呪文を唱えた。


「汝、この者に生人の手を!!」


 そして、おっさんと息子は2人並んで石辺に座り込み釣りを始めた。


「お二人で楽しんでるところ悪いけど俺がいないとおっさんが話しても聞こえねえからな。ここに居させてもらうぞ」


 するとおっさんの息子はおっさんにではなく俺に話しかけた。


「おいあんた、疑って悪かったよ。これからはさ、こんな想いする前に気持ちは伝えるようにするよ。気に食わねえけど、礼は言っとく、ありがとう」


「何だお前、可愛いとこあるじゃん! まあ歳はそんな変わんねえけどな。まあおっさんと仲直りできて良かったじゃん。おっさんも、これで心置きなく成仏できるよな?」


「ああ、そうだね。君には感謝してもしきれないよ」


 そう言ったおっさんの顔は少し寂しそうだった。


「おい! 親父! 魚、食いついたんじゃねえか? 」


「お! ほんとだ! 逃がさないぞぉー! 」


「何やってんだよ親父〜、魚逃げちゃうじゃねえかぁ〜、あははっ! 」


 2人はどこか寂しそうだったが、これが最後になることを改めて感じたのか楽しそうに釣りをしていた。


「親父、俺将来は親父みたいな自動車整備士になりたいんだ。だからもっと勉強してさ、いつかは親父も超えてやるんだ。だからちゃんと見ててくれよな」


「隆史、お前....ああ!! しっかり見とくからな! まあ父さんを超えるのは相当厳しいかもしれねえけどな?はっはっはっ! 」


「もうそろそろ時間じゃ。キリのいいところで終わらせろ」


「おい、隆史、だっけか。もうすぐ時間だってよ」


「あ、ああ、意外と短いんだな....」


「それじゃあ、私もそろそろ成仏しないとね。あ、最後にちょっと待ってくれ」


 おっさんはそういうと慌てて木の枝のような物を握り出した。


「よし、これでいい。隆史、元気でな、風邪引くなよ、ちゃんとご飯は食べるんだぞ、それから遊びばっかりじゃなくても勉強もな、あと....」


「もういいよ親父、分かってるっての。親父も元気でな。あの世では風邪とか引かねえか! ははっ! 」


「君たちもありがとう。これでやっと成仏できるよ。たまには息子と遊んでやってくれ。それじゃあ...」


 おっさんは最後にそう告げて空高くに消えていった。笑顔で息子を見つめながら....


「親父、行っちまったのか? 」


「ああ、最後までお前の方見てたよ」


「って、おい! お前はどんだけ泣けば気が済むんだよ! そんなに泣いてちゃこの文字が見えねえだろうが! ほら、読んでみろ」


 息子が足元を見るとそこには地面に木の枝で何かが書かれているのが見えた。


    『愛しているよ』


「ったく、おっさんも口で言えばいいのによ、最後の最後で照れんなっての。ってお前は泣くなってのぉ!! 」

読んでいただきありがとうございます、まだまだ至らない点もあると思いますが次回もよろしくお願いします

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