第2話 親子喧嘩
「嘘だろ?! なあおっさん、あんた死んでんのか? 」
「ああ、3ヶ月ほど前に事故でね」
呪いなんて半分デタラメだと思っていた矢先に死人に遭遇した俺は一気に血の気がひき戸惑いを隠せなかった。
「そんな、ほんとに呪われてるってのかよ。」
「何度も言うておろうが、でも良かったじゃないか。こうも早く死人に出会えたんだ」
考える暇も無く畳みかけるようにやってくる問題に俺は頭が混乱していた。
「あぁぁ!! くそ! 考えてる暇もねえってか! おっさん! 成仏してくれ! 今すぐ!! 」
(ベシーンッ!! )
「バカもんっ!! 単刀直入すぎるわい! この世に蔓延る死人たちは何かしらの未練があるから成仏出来ずにいるのじゃ、成仏してくれと言って、はい分かりましたって成仏する死人がおるわけなかろうが! 」
「ってぇなぁ、じゃあどうしろってんだ! 」
楔と言い争いをしていると突然おっさんが話し始めた。
「成仏したいのは山々なんだけどね、どうしても心残りがあるんだ。息子に一言謝りたいんだ....」
「息子に? じゃあ、こうしよう! 俺が代わりにおっさんの息子に言いたいこと言ってやるからそしたら成仏してくれ?いいだろ? 」
楔は納得したように頷いた。
「いいのか? もちろん! 伝えてくれたら必ず成仏するよ! 本当にありがとう! 」
おっさんの頼みを聞く代わりに成仏することを約束した俺たちは息子を探すためおっさんが住んでいた家に向かうことにした。
「つーか、おっさん本当に死んでんだな。人が通っても誰も気付かねえ。息子に謝りてえって言ってたけど何があったんだ? 」
「ああ、でもまさか生きた人間とまたこうして話せるなんてびっくりだ。そうだね、きっかけは些細なことだったよ....」
おっさんは悲しい面持ちで語り始めた。
『おい! 隆史! 今何時だと思ってる! 最近遅くまで遊びほうけて、勉強はしてるのか? 』
『うるせえなぁ! 別にいいだろ! 言われなくても毎日してんだろが!! 』
『何だその態度は! 成績も下がってるから言ってるんだろうが! 遊ぶなとは言わない、でも勉強は疎かにするな。それに、家にいる時間が少ないと母さんも心配するだろ!』
『親父には関係ねえだろ! そもそもこの家にいたってなんも楽しくねえし、帰ってきたと思えばガミガミ言いやがって、うんざりなんだよ! 』
『そうか、分かった。そんなに家が嫌なら出て行け!! 二度と帰ってくるな!!』
私はついカッとなって怒鳴ってしまった。でも本当はそんなことを言いたかった訳じゃなかった。
『あぁ、言われなくてもそうするよ。こんな家二度と帰ってくるか!! クソ親父! 』
あの時素直に止めればよかったものを、私も変に意地を張ってしまい、引き止められなかった。
「息子とした会話はこれが最後だった。俺はその数日後、事故に遭ってしまい死んでしまった。死んだ後も何度か家に行き、息子の姿を見に来たが当然向こうは気付くわけもなく途方に暮れていたところで君たちと会ったんだ」
「なるほどなぁ、だから息子に出て行けって言ったことを謝りたいってわけか。でも息子はどう思ってんだろうな。向こうもそれっきり話せなかった訳だろ? おっさんのこと恨んでたりしてな」
「本当にお前は人の気持ちが分からんやつじゃの! こやつがどんな気持ちで死んでしまったのか小さい脳みそをフル活用して考えてみろ! 」
「んだとこらぁ! 」
「いいんだ、俺があんなことを言わなければ良かっただけのこと。恨まれていても仕方ないさ。でもこのまま何も伝えられず成仏するのは嫌なんだ。せめてあの時言えなかった事を伝えられればそれでいい」
俺には理解できなかった。もう死んでいるっていうのになぜ伝えたいのか。今更謝ったところでおっさんが生き返るわけでもないというのに。
「まあとりあえず息子に会ってみねぇ事には始まらねえな。とっとと行こうぜ」
俺たちは少し足早に家を目指した。
「ここが私の住んでいた家だ」
「お主の息子はいつ帰ってくるのだ? 」
「もうすぐ帰ってくるはずなんだけどね」
少しの間家の前で息子の帰りを待っていると奥から青年の姿が見えた。
「おい、誰か来るぞ。あれじゃねえか? 」
「ああ、あれが息子の隆史だ」
俺は息子のところに駆け寄りなんの躊躇もなく話しかけた。
「おい! あんた隆史っていうんだろ? あんたの親父がどうしても謝りてえって言うから俺が代わりに言いに来たんだ。出て行けなんて言って悪かったって」
「誰だよお前、からかってんのか? 親父はもう死んでるよ。どーせ母さんから聞いておちょくりにでも来たんだろ。他所でやれよ。失せろ。別にあんな親父いなくてもどうって事ねえよ」
おっさんの息子はそう言うと俺を軽く突き飛ばし家に帰っていった。
「お、おい! ちょっと待てよ! まだ言わなきゃいけねえことがあるんだよ! 」
俺がおっさんの息子を引き止めようとしていると話を遮るように楔が俺の頭を引っ叩いた。
(バシンッ!! )
「お前はどこまで大バカものなんじゃ!! いきなりそんな話をしたってあやつが信じるわけなかろうが! お前は言わばあの者の代弁者なんじゃぞ! もっと責任を持って話さんか! まったく」
楔は頭を抱える。
「じゃあ他に方法があんのかよ! 」
「すまんな、このバカが。他の方法を考えるから少し待ってくれぬか」
楔が謝るとおっさんは悲しそうに呟いた。
「そうか、やっぱり隆史は俺のことを」
「いや、そんな事はねえかもよ。だって俺を突き飛ばしたとき、あいつの手震えてたからな。もしかしたらあいつも他に何か思ってることがあるんじゃねえか」
「そうか、でももういいんだ。言いたかった事は言ってもらえたし、これ以上話したって聞いてもらえないだろうから。実はね、俺が生きていたら昨日あいつと一緒にこの近くにある御影湖に釣りに行く予定だったんだ。それをふと思い出して成仏する前に1人で行こうと思ってね。だけど道に迷ってしまって」
「じゃからあんな山の中にいたのか。しかし、まだ伝えたいことがあるのではなかったか? 」
おっさんの話を聞いて俺は閃いた。
「そうだ! いいこと思いついた! おっさん、まだ諦めるのは早いぜ? 」
「本当かい? 私なんかの為に、約束通り成仏はするつもりだったのだけど」
「別に、あんたの為じゃねえよ。こんな辛気臭く成仏されても、仏にでも恨まれそうだからな。それに、俺はまだあんたの約束を果たしたわけじゃねえしな」
楔は俺の方を見て少し笑った。
「なんだよ? なんかおかしなことでも言ったかよ?」
「なんでもないわい。それでそのいいことってのは一体どんな方法なんじゃ? 」
「まあ見てな。これなら必ずあいつは話を聞いてくれるはずさ。あ、おっさん! ちょっと頼みてえことがあるんだけどいいか? 」
俺の閃きがどこまで通用するかは分からないが作戦を実行することにした。
読んでいただきありがとうございます。まだまだ至らない点があると思いますが次回もよろしくお願いします。