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6.思わぬ邂逅

「服を新調しよう」とオルガットに連れられ、私は王都グランの洋服店に来ていた。やはり王都の店なだけあって品揃えは豊富で、選ぶのに迷ってしまいそうだ。

現代の服とそんなに変わらないものが多いが、若干動きやすさを重視した服が多いように感じる。魔法が普通にある世界だし、本日買いに来たのもそういう冒険向きの服だった。

オルガット曰くこの店は王家指定で、庶民からしたら少しばかり値段が張るが、とても高品質の品が多いそうだ。王宮兵士団の隊服もこの店特注らしい。

そんな良い店で「好きな服をいくらでも選んでいい」と言われてはしゃがない女子はいないだろう。普段はおしゃれに興味のない私だってそうだ。


店内を散々見て回った結果、私が選んだのは1コーデ分のセットだった。白の少しカッチリとしたシャツに細いリボン、ショートパンツに、黒のいかにも魔術師らしいローブをロングカーディガンのように羽織るスタイル。バラ売りしていたものを私のファッションセンスで組み合わせた結果がこれだ。

靴下と靴はそのまま使うことにした。ニーハイとスニーカーだから歩きやすいし、この世界にも普通にスニーカーはあった。そんな訳で、目立つわけでもないし新しいのを買うよりは履き慣れたものを使おうと思ったのだった。

試着してみた際にオルガットの感想を貰うと、「王宮にいても不自然さを感じないくらいのカジュアルさでとても良い」との事だった。...人を褒めるのも上手いなんて、オルガットって本当に欠点は何なんだろう。どんなにダサいものでもこの人に褒められたら、いくらでも使う気がする。


着回しできるように何着か似たような服も買い、最初に選んだセットに着替えて店を出る。そして、少し重要なことを思い出し、王宮に戻る道中で聞いてみる。


「オルガット、今更ながらちょっと重要なことを聞いてもいいか?」


「ん、どうした?」


某猫型ロボットが出てくる某映画作品でのこと。現代では「魔法なんて迷信だ」と言われているが、魔法が使えるようになった世界では逆に「科学なんて迷信だ」と言われていた。それがアルファリーナにも適用されるとしたら...?


「この世界って、科学は進んでるのか?」


それを聞いたオルガットは、一瞬キョトンとする。何を言っとるんだお前さんは、とでも言いたげな顔だ。どっちの意味なのかは知らないが。


「そりゃ魔法には劣るけどな。ナギたちの世界に比べたら進んでないかもしれないが、進んでないこともないぞ。

少数ではあるが、魔法が上手く使えない人もいるからな。そういう人たちが、魔法と同じようなことをするために科学の研究を進めている。魔法が使える人でも、魔力が切れかけた時にそういう道具を使うこともあるんだ。」


あー、そういう事か。確かに、皆ができることができないという人も少なからず存在する。魔法も同じなのだ。できる人もいれば、できない人もいる。

もし私が「できない人」の部類に入っていたらどうするのだろうか。ま、あの癖の強い王子様がなんとかしてくれそうだが(苦笑)。



妙に納得しながら歩いていると、横から「あー!兄ちゃんがデートしてる!!」という声が聞こえてきた。

...デート!?


その声を聞いたオルガットはすぐに声の主を見つけると、二人の少年の頭を慣れた手つきでぐしゃぐしゃと撫でた。


「誰がデートしてるって?俺はナギとデートできるほどの身分は持ってないぞ(苦笑)」


二人とも薄いグレーの髪だが、さっき言葉を発した活発そうな子は青紫色の瞳、もう一人は水色の瞳だ。オルガットの知り合いだろうか。先程「兄ちゃん」と呼ばれていたし、オルガットの弟かもしれない。というか、オルガットはまたそんな私を崇めるような発言を...崇められるほど私は崇高な人物というわけでもないというのに。

オルガットの言葉を聞いた二人は口をとがらせた。


「ちぇ、せっかく今度こそ兄ちゃんが結婚相手見つけてきたと思ったのにー」

「兄さん、いつになったらお嫁さん連れてきてくれるの...?」


「一旦黙ってくれ...俺は誰とも結婚する気はないからな!俺に期待するくらいならマレイに期待した方がいい。あいつは顔も整ってるし性格もいいしな...

っと悪い、紹介してなかったな。こいつらは俺の弟で、双子なんだ。ほら、しっかり挨拶しろ。お前らも、もう俺が言わなくても自分で言える年だろ?」


兄につっこまれつつも促され、少し膨れながらも挨拶はちゃんとしてくれた。


「オレはレクト・ジュライシー。オルガット兄ちゃんの末の弟で、8歳。それで、こっちが...」

「...オルニス、です。よろしく」


活発そうな方がレクト、おとなしそうな方がオルニスか。どちらにせよ可愛い。せっかく頑張って挨拶してくれたのだから、私もしなければ。


「私は神谷凪っていうんだ。ナギって呼んでくれて構わないよ。」


レクトが私をしばらくの間じっと見つめると、オルガットに問いかけた。


「なぁ、ナギと兄ちゃんはどういうカンケイなんだ?恋人じゃないなら、一緒になにしてたんだよ?」


私が黒の英雄の生まれ変わりであることは伏せることになっている。どう返せばいいかわからなくてオルガットを見ると、彼はこんなことを言った。


「俺がナギの買い物に付き合ってただけだよ。この子は親が両方とも使徒になっちまっててな、俺が面倒を見ることにしたんだ。マレイと同じ年だし、お前たちの姉だと思ってくれればいい」


またよくわからない単語が...身近な人以外には"オルガットの妹"として説明されることは聞いていたが、使徒ってなんだよ...もしかして、オルガットは説明足らずな事が多かったりするのだろうか。それ、1番困る癖だけど。とりあえず王宮に戻った後にでも説明を求めるとしよう。


「こいつらのことは普段マレイに世話を任せてるんだ。一応補足するが、マレイは俺の妹な。ところで、マレイはいないのか?あいつに連れてきてもらってるんだろ。」


オルガットが辺りを見回す。が、それらしき人物はいないようだった。


「あ、えーっと...」

「......」


この様子は...

オルガットの眉間に、わかりやすくシワが寄っていった。


「お前たちは懲りないな...まーた黙ってどっか行ってたのか。俺とかマレイが心配するからやめろって言っただろ!

まったく、これだから魔法を教えてもらえないんだぞ?言いつけを守れないような悪い子に魔法なんて教えたら、危険なだけだ。魔法を使いたかったら、まずはちゃんと俺らの言うことを聞くようにしなさい。話はそれからだ。」


「ええっひどい!前に教えてくれるって約束したのに!なんでだよ!?」

「...レクト、兄さんの言ってることは全部正しいし、そもそも言いつけを破った僕たちが悪い。だからレクトが「どっか行きたい」って言い出した時に止めたのに...」


オルニス、一応止めてたのか。いい子だ...そしてこの光景がすごく仲睦まじい兄弟に見えてほっこりする。私は一人っ子だし、こういうやりとりに少し憧れがあったりする。

双子、主にレクトがお叱りを受けていると、後ろで「あなたたちはまーた勝手に逃げ出して、どれだけ私に注意させたら気が済むの!?」とお怒り気味の声が。振り向くと予想通り、マレイと思われる私と同じくらいの年頃の人物がいた。


「運よく兄さんがいたからよかったけど、迷子になってたらどうするつもりだったの?あんまり逃げ出すのをやめないようだったらお家に帰れなくするよ」


そう双子を叱った彼女の髪は、淡い黄緑色でお団子にしてまとめられており、瞳はオルガットが私にしてくれたような鮮やかなネオンブルーだった。そして、同じ女子である私から見てもかなり整った顔をしている。オルガットもそうだし、この家系はみんな美男美女なんだろうか...私がそんなことを考えていると、見かねたオルガットが止めに入っていた。


「マレイ、そろそろ落ち着いたらどうだ...さっき俺の方からもしっかりと言っておいたし、あまり強く叱りすぎると将来の旦那にも逃げられるぞ?」


「...兄さんは黙ってて。彼のこと、将来の旦那とか言わないでほしいんだけど。まあちょっと言い過ぎたのは反省してる。でもそっちの話題は下の子たちがいないときにしてよ。今はナギさんもいるんだしさ」


彼氏持ちなんですかマレイさん。ま、そうだろうな、顔良いし中身もしっかりしてそうだし。

っていうか私のこと知ってたのか。

そんなことを言いつつも私の方に向き直り、ぺこりと頭を下げる。


「初対面からこんな感じで申し訳ないです。オルガットの妹で、ウィンディアやってます、マレイ・ジュライシーです。マレイって呼び捨てで構いません。

...兄から話は聞いてるから、自己紹介はいいよ。できたら、同じ年だって聞いたし気軽に話してもらえると私は嬉しいかな。よろしくね。」


同じ年なのか。だったら敬語を使う理由はない。私もラフにいかせてもらおう。


「オルガットからティアズの説明を受けた時から気になってたんだ。こちらこそよろしく。あと、ナギって呼び捨てでいいよ。その方がマレイも楽だろ?」


「そうしよっかな。ありがとう。

さてと。本当はもう少し話していたいけど、そろそろこの子たちを連れて帰るとしますか。時間的に危なくなってくるからね...レクト、オルニス、行くよ」


「えーもうちょっと兄ちゃんと遊んでたい!久しぶりに会えたんだし!!」


手を引いて帰ろうとするマレイと大人しくついていくオルニス、そしてぐずるレクト。...微笑ましい。


「またすぐ会えるんだから、ぐずるなよ。今回は1ヶ月以内にナギを連れて絶対行くからな。」


「「本当に!?」」


双子の顔に満面の笑みが広がる。よほどオルガットが大好きなんだろう。


「ああ。約束するよ。

というわけで、ナギ。1ヶ月以内にせめて光属性は習得してくれw」


...はい?


「弟たちに優しいのは兄として立派だけどさ、私に無理を強いるのはどうなんだ!?」


「光と水って言わないだけまだいいじゃないかw水属性はとりあえず俺がいるところならどこででも教えられるから、現地でもいいしな。というか、環境に気をつけなくていいように屋外でやりたいし。万が一屋内で失敗したら、辺り一面水浸しになる...」


理由はともかく、そんな無茶振りをいきなりされても...

どちらにせよこの可愛い弟たちのためにも、一肌脱ぐしかないようだ。やるしかない。



「じゃあ準備が出来次第こっちに来てね。待ってるから!」


「兄ちゃん早く来いよー!!」

「ナギも気をつけてね。頑張って...!」


3人はそう言い残して、人混みの中へと紛れていった。...また逃げ出さないといいが。



「...ひとまず、俺らも王宮に戻るか」


「そうだな」


私たちもまた、談笑しながら王宮へと戻った。

しばらく投稿頻度落ちると思いますがご了承ください。

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