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3.王宮での再会

さっきも言ったが、もう一度言わせてもらおう。今回の移動は、この世界に来た時と比べ物にならないくらいのハイスピードだった。その話をオルガットにすると、加速する魔法をかけているからだということだった。こういう細かい動きなども指定できるとは、魔法も案外便利かもしれない。逆に言えば、ヴィユークは細かい動きを指定せずに詠唱したため、結果としてあの雑な扱いになった、ということらしい。普通なら重力軽減の魔法も付け加えたりするのだが、目先のことに頭がいっぱいになるとなにもかもが雑になってしまうヴィユークには、もう少し教育が必要だ...とオルガットは嘆く。


「まあ長年探し続けた研究対象が目の前にいたら他事が手につかなくなるのはちょっと同情するけどな」


ん?研究対象?それって話の流れから察するに...私の事か。


「ヴィユークっていったい何者なんだ?」


「ん?ああ、説明してなかったか。ヴィユークはこの世界、アルファリーナの第二王子でな。兄上よりは暇だから、って言って幼少期から気になってたっていう黒の英雄の魂の研究をしてるんだ。その”黒の英雄の魂を持つ者”がナギ、君の事なんだが、詳しくは合流してからあいつに話してもらうとしよう。」


なんか衝撃的な事実が多すぎる気がするのは気のせいだろうか。まさかあの扱いの雑な好青年が王子だったとは...そう考えればあの気品を感じる佇まいは納得だが。っていうかちょっと待て!


「オルガット、王子に呼び捨てって大丈夫なのか!?反逆罪で捕らえられたりしないか!?」


そう言うと、オルガットは盛大に吹き出した。


「あははw心配性だなぁ、ナギは。安心しろ、俺は王族を除くと()()()()()ヴィユークを呼び捨てにしても許される間柄なんでな。」


「王宮で唯一って、オルガットも何者なんだ...」


「俺か?俺はヴィユークの幼少期からのお目付け役ってところかな。互いに一番気が知れてるから、相棒みたいなもんだ。弟みたいに感じる時もあるけどな。ついでに言うと、たまにヴィユークの影武者もやってるよ。」


...話の次元がすごいことになっている。っていうかオルガットも只者ではないとは思っていたが、まさか王子のお目付け役だったとは。まあ、あの狩人たちを圧倒する腕っぷしや容赦なく悪人を抹殺できる精神力の強さは、そういう役職に向いていると言えば向いていると思う。


他愛のない話をしていると、オルガットから「もうすぐ着くぞ」と声をかけられた。

前回と同様に、足元には光が見え始めると、オルガットはまた一つ詠唱を付け加える。


「"Leger"]


これが重力軽減の魔法らしい。目的地に到着する直前にかけないと、移動速度が落ちるし、これをかけずに目的地に着くと、地面に直接叩きつけられるらしく、かけるタイミングにはコツがあるのだとか。


周りの景色が深海のような青一色から、絢爛豪華な部屋の風景へと変わった。そういえば、行き先は王宮だと言っていたか。地面にふわりと降り立って見渡すと、部屋には全体的にパライバトルマリンのような鮮やかなネオンブルーの色でまとめられており、お茶会のできそうなテーブルとイスのセットや、本棚などが置かれていた。が、肝心のヴィユークの姿はどこにもない。


「おいおい、ヴィユークはまだなんかやってるのか?俺たちより先に着いててもおかしくはないんだが...」


とりあえず誰かに見られる前に抱きついたままだったオルガットの体から離れて適当な距離を開け、オルガットと共にテーブルにつく。

怒涛の展開に疲れ、ほっと一息つこうとすると、更なる展開が待っていた。


「ナギ、助けてよー!」


なんと、そこにいないはずの私の愛猫、キンバーが私の元に駆けてきたのだ。そのままキンバーは私の膝の上に飛び乗って甘えてきたので、私はそれを抱きかかえた。


「どうしてキンバーがここに!?」


訳をたずねると、


「オレもよくわかんない!いつも通りナギの部屋で日向ぼっこしてたら、いきなり知らないヤツが部屋に来てさー。頑張って抵抗したんだけど、結局なんかよくわかんないところに連れていかれて、なんか変な機械に通されたりとかして、すっごく怖かったんだよ...

っていうかナギ、髪の毛と目の色がいつもと違わない!?」


と可愛らしいがよくわからない説明と、私の外見の変化に驚いている答えが返ってきた。


「髪と目はさっきオルガットに変えてもらったんだ。しばらくはこのままになるから、キンバーも慣れて。それにしても、いきなり連れてこられていろいろやられたなんて、可哀そうに...」


キンバーの喉のあたりを撫でると、キンバーは気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。オルガットも近くに来て、その黒い毛並みを撫でながら苦言を漏らす。


「ったく、あいつは身の回りのことを雑にしすぎだ。あいつのことだからまだ何かやらかしてる事あるだろうと思ってたが、こんなに可愛い猫ちゃんをそんな目に合わせるなんてなぁ...扱い酷すぎるだろ」



「おや、酷い言い草ですね...まあ興奮して自分の利益を主張しすぎていたのは謝罪しますが。つい、英雄の魂の持ち主の飼い猫は調べてみたくなってしまって。」


そんな声が聞こえたほうを見ると、キンバーが入ってきた際に開いたドアから、最初に会った高貴な雰囲気の青年が優雅に笑いながら入ってきた。おそらく彼がヴィユークだろう。あの時はパニック過ぎて気が付かなかったが、ヴィユークもブロンドの髪に鶯色の瞳という現代日本では絶対に見ないような容貌だった。

悪びれる様子もなく、呑気なヴィユークに、オルガットは呆れすぎて少々キレ気味である。


「笑い事じゃねーぞ?お前、慌ててたのか知らんが、こっちの世界での到着先を”ピウスの森”にしただろ。こんな綺麗なお嬢さんをあんな危ない森に飛ばすなんて、無神経にもほどがある。俺が迎えに行かなければ、今頃ナギは奴隷市場に出されて危うく死ぬところだったんだぞ!?せっかく見つけ出した研究対象を死なせてもいいのか!?」


オルガットって、結構穏やかで大らかな人だと思ってたが、怒らせると怖いな...

...私は怒らせないように努めるとしよう。まあ根が優しそうなのでこうなる事の方が珍しそうだが。

これだけ激しい叱責を受けても、慣れているのか、ヴィユークは涼しい顔をしていて、しまいには


「騎士だった時代の性が出すぎですよ、オルガット。過保護すぎても嫌がられますし、現にちょっと引かれてます。」


と感情が高ぶっているオルガットを窘めている。この人、どんだけ精神力強いんだ...

もはや呆れている私の反応もお構いなしに、ヴィユークは王子らしく優雅に一礼しながら、


「名乗り遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした。アルファリーナの第二王子、ヴィユークと申します。以後お見知りおきを。」


とようやく自分から名乗った。もっとも、アルファリーナ(こっち)に来る直前の言葉やオルガットとの話で知っていたが。


「あ、ナギさんとキンバーなら私のことは呼び捨てで呼んでいただいて構いませんよ。先程の無礼のお詫びも兼ねて、黙認しましょう!」


とお詫びと兼ねるのはどうかと思うが、呼び捨ても許可してくれた。王子に向かって呼び捨てで呼ぶのは少々気が引けるが、私としてはその方が呼びやすいので助かる。


「一応、改めて自己紹介しておこう。神谷凪だ。まあ知ってると思うが...

さて、と。自己紹介もお互い済んだことで、さっそくこの世界についてとか聞きたいことはたくさんあるんだが、先ずはこれについて。

...何故キンバーが言葉を話しているんだ?まさか、変な魔法をかけたりしていないだろうな?」


そう私が言うと、三人(二人と一匹?)は何を今更、と言いたげな顔をする。

最初に口を開いたのはオルガットだった。


「何故って...この猫ちゃんは魔法生物じゃないのか?」


疑問で返された挙句よくわからない単語も出てきたので、魔法生物?と聞き返すとオルガットは軽くうなずく。


「人が自分の魔力を使って創り出した生物の事を"魔法生物"と呼ぶんだ。創造者の好きな姿にすることができて、大体の奴は人の言葉を話せる。そして最大の特徴として、必ず体のどこかに創造者の魔力の色をした宝石がはめ込まれているんだ。」


なるほど。だが...


「キンバーに宝石なんて、二年も飼ってるが見たことないぞ?」


逆に見つかってたとしたら、ニュースで大騒ぎだろう。


「こっちに来てから発現した可能性もあるぞ」


オルガットの言葉を聞いて注意深く観察するも、それらしき物は見つからなかった。


「魔法生物じゃないとすると、それ以外に人の言葉を話す生物っているのか...?」


「うーん...アルファリーナに来た時に何らかの干渉があってこうなったのかもしれないな。まあ詳しいことはわからないが...とにかく、キンバーに他の影響がないならそれで私はいいけどな。」


「オレとしてはナギたちと意思疎通ができるのが嬉しいから、あとは何でもいい!」


オルガットと私で考えあぐねているというのに、当の本人は呑気だ。まあそれでこそ猫らしいのだが。

と、それまで黙って話を聞いていたヴィユークが口を挟む。


「その事についてなんですが、先程の検査で判明した事実を説明いたしましょう。」


その言葉に、私たちは一斉にヴィユークの方を向く。


「結論から言いますと、その猫キンバーの遺伝子が、"黒の英雄"が使い魔としていたムーンナイト・キャットの遺伝子と部分的にですが合致したんです。わかりやすく言い換えるとすれば、彼の猫の子孫、とでも言いましょうか。」


ああ、また"黒の英雄"関連の話が...新情報が多すぎてそろそろ脳内処理がエラーを起こしそうだ。

そんな私とよくわからずキョトンとしているキンバーはさておき、オルガットは酷く驚いている様子だった。


「あの英雄様に使い魔がいたのか!?俺が知ってる限り、そんな事はどこにも載ってなかったぞ!?」


「アルファリーナ中の資料を記憶しているオルガットが知らないのも無理もありません。王族以外の立ち入りはたとえ側近でも固く禁じられている機密書庫で、彼の英雄の手記のようなものが最近になって発見されましてね。そこには彼の友人たちはもちろん、他の資料には一切書かれていない使い魔としていた一匹の黒猫の話が書かれていました。

...まあ殆どは愛猫自慢みたいなものでしたが。」


黒の英雄の手記だとか、資料を記憶しすぎているオルガットだとか、よくわからない話が多いと思えば最後の愛猫自慢だけはめちゃくちゃ共感してしまう...


それはさておき。

やっと話が一区切りついたところで、一番私が気になっていた疑問をぶつけてみる。


「今更感がすごくて申し訳ないんだが、その"黒の英雄"っていったいなんなんだ?

この世界に来たばかりで未だに感覚が慣れていなくてな...できれば魔法とかその辺についても教えてもらえるとありがたい。」


オルガットとヴィユークはやはりそれらを知っている前提で話していたようだ。一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにいつもの優しい微笑に戻る。


「これは大変失礼いたしました...それでは、紅茶でも飲みながらアルファリーナ&黒の英雄伝説について語っていくとしましょう。

...オルガット、お茶の用意を」


「わかったよ。ナギ、一応俺も話に補足は入れていくが、もしわかんないところがあったらすぐ話を止めてくれていいからな?」


こうして、ナギのためのお茶会という名のアルファリーナ講座が始まったのだった。

次回は少し投稿の間隔が空くかもしれませんが、ご了承ください。

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