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10.嵐の前の静けさ

大変遅くなりましたm(*_ _)m

私が目を覚ましてから、約2週間が過ぎた。今ではすっかり身体は復活し、少しずつヴィユークの実験も始まっている。以前街でオルガットの弟たちに「一か月以内にそちらに行く」とは言ったものの、私の体調や魔法の習得状況を考えると到底不可能だということになり、オルガットはマレイに詫びの連絡を入れていた。マレイは快く了解してくれたが、レクトとオルニスはかなり拗ねていたらしい。

申し訳ないと思いつつ、私は少しでも早く水属性と光属性を習得して3人のところへ行こうと一念発起したわけだが、そこからが大変だった。


練習場で水の魔法が暴発した時に思った通り、魔力を放出するのは簡単でも制御するのはかなりの至難の業だ。まずは制御ができないことには何もできないため、訓練を始めた最初の2,3日はずっと魔力制御の練習をしていた。ようやく制御できるようになってきた私は、いよいよ森で実践練習ということになった。



少しずつ量を増やして減らすことを繰り返し、一定の量をキープする。ここまではかなりできるようになったから、次は実際に対象物を決めて、そこに向けて放つことだ。私は比較的森の入口に近い広場で、木に向かって水魔法を放った。


今回オルガットから与えられた課題は、大木を水魔法で倒すことだった。ただし、水圧を強めすぎて穴を開けるのはダメだという。森林破壊に繋がらないかこれ、と聞いたら「後で命魔法を使って復活させるから大丈夫」という答えが返ってきた。ほんとにすごいな、魔法というものは(苦笑) というわけで遠慮なく魔法を使っていいらしいのだが、何となく気が引けるのはお分かりいただけるだろうか。まあそんなことを言っていたら炎で焼き尽くすことと比べたら水のほうがまだマシな気もするし、大人しくやるしかないのだが。


程よい太さの大木を見つけると、正面に立って手をかざす。オルガットに教えられた呪文を口にして、木を切る刃のようなものをイメージした。


「"taglia acqua"」


初めて魔法を使った時は目を瞑れと言われたが、私の場合それをすると、必要以上に集中が高まって威力が上がりすぎてしまうらしい。それを聞いて以来は目を開けてしっかり対象物を見つめるようにしていた。もっと扱いに慣れれば、無詠唱もできるらしい。まあそれは当分先のことだが。


手の先に目をやると、イメージした通りの薄い水刃が大木にヒットし、今にも倒れそうになっていた。

あと少し水の勢いが足りなかったか。じゃあ、追加。ひとまずは切り倒した木をさらに細かく刻んでいく。実はこの課題はヴィユークに依頼された素材採集も兼ねていた。森で一番固い幹を持つ丈夫な木を見つけて初めに根本付近で切り倒したら、それを薪ぐらいに刻んで持ち帰る。これらをすべて水魔法で行うことがこの課題の全容だ。「私の魔法の練習と自分に対する利益を兼ねた、非常に合理的な課題」とは、ヴィユークの弁である。


だいたいこのくらいでいいかな、と思えるくらいの量に切り分けたところでオルガットに連絡を入れる。ちなみにこの世界での連絡方法はもちろんスマホではなく、魔法石だ。予め相手と自分の魔力を混ぜて結晶化させることで、念じれば相手と話が出来るようになる。術式を工夫すれば、ルイたちのように魔力を感知したら連絡が来るようにもできるらしい。まあそれはさておき。



連絡をすればオルガットが私の切った薪を回収しに来てくれるというので、その場でしばらく待つことにする。すると、5分もしないうちに目の前にオルガットが現れた。


「思いの外速かったな。おつかれさん!」


「ありがとう。オルガットの方こそ、呼んでから来るのが速かったと思う(苦笑)

じゃあこれ、ヴィユークによろしく」


「おっ、さすが。これくらいの課題ならもうお手の物だな! ヴィユークにはしっかり届けておこう。ナギはそのまま帰るなら一緒に転移するけど、どうする?」


「いや、私はもう少しぶらついてから戻るよ。ありがとう」


早めに帰ってこいよーと保護者のようなことを言いながら転移魔法で消えていくオルガットを見送ると、つい最近覚えた召喚魔法でキンバーを呼び出す。


「"Evoca キンバー"」


主従関係を結んだ魔法生物は主が召喚魔法を使うことでいつでもどこでも呼び出せるのだ。召喚直前と全く同じ格好で目の前に現れるキンバーは、かなりヴィユークに甘やかされていたのだろう。寝そべって優雅な昼寝タイムを満喫していた。


「んにゃ......」


なんとも気持ちよさそうな寝顔である。それでも起こさない訳にはいかない。


「起きろ、キンバー。君の大好きなささみでも買いに行こうと思うんだが、起きないなら買わないぞ」


その言葉を聞いた瞬間、キンバーは飛び上がり、着地と同時に香箱座りでいい子アピールをしだした。もしキンバーが犬なら、尻尾をはち切れんばかりに振っていただろう。こいつめ......


「ささみ!? 食べる!! 食べたいです!! 買ってくださいお願いします!!!」




一気に目が覚めテンションMAXになったキンバーを連れて、王都グランの商店街へ。

ヴィユークからのおつかいで来ることもあるが、今日は完全なるプライベートだ。ここは歩いているだけでも楽しいし、オルガットの紹介により少し顔見知りになったお店の人にいろいろおすそ分けしてもらえたりもする。


早速今日も小動物の餌を取り扱う店に行く途中で、メルサというホットドッグに似たものやらヴィユークの研究に使う薬草やらをタダで貰った。お返しが大変なことになりそうだと思いながらも、ありがたく受け取るのだが。

そして辿り着いた店でもまたささみを安くしてくれる。ここの人たちは気前が良すぎやしないだろうか(苦笑)


「せっかくささみを安くしてもらってるんだから、キンバーもちゃんとスキルの練習を頑張るんだぞ?」と言い聞かせてはいるのだが、聞いている様子があまりない。......本当に大丈夫だろうか。

最近、ヴィユークが研究の傍らキンバーにスキルと呼ばれる魔法生物版の魔法を教えているらしい。それを習得すれば重力無効や浮遊、もっと頑張ると火の玉を打てるようにもなるらしいのだが、今のところキンバーは1番初歩的な重力無効すら使える素振りを見せていない。ここまで来ると本当にこの子は魔法生物なのかすら疑問に思えてくる。



そんなことを考えながら城への帰路を歩いていると、突然連絡用の魔法石、トースと呼ばれているものが光った。ヴィユークからだ。随分と慌てた声が聞こえる。


『ナギさん、今どちらにいらっしゃいますか!?』


「今は商店街での買い物帰りだけど...何かあったのか?」


『至急僕の研究室に来てください。もし30分以上かかる場所にいるのであればオルガットに転移魔法を使わせますけど』


決して自分が、とは言わないところが流石である。


「いや、あと10分くらいで着くはずだから大丈夫だ。すぐ行く」


ささみを買ってもらって超ゴキゲンなキンバーを走らせることで機嫌を損ねつつ、私は最近オルガットに習った身体強化術を使って城に向かう。こんなにヴィユークが慌てて私を呼び出すのは珍しい。というか、初めてだ。

城の入口でいつも私を出迎えてくれるツィックにキンバーを預け、4階にある研究室へ向かう。最奥なのでもともと距離はあるが、今は急いでいるからか尚更遠く感じた。


ドアをノックして声をかけると、オルガットがすぐに開けてくれた。ヴィユークは正面の大きなモニターの前に備え付けられた椅子に座っていて、心做しか目の下のクマが濃くなっている気がする。きっとまた寝ずに研究を続けていたのだろう。


「......来ましたね」


声は穏やかだが、顔にいつも浮かべている何を考えているか分からない笑みはない。かなりの真剣モードだ。私はこれから何を言われるのかと身を固くした。

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