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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

宇宙人が少女を餌付けする話

微グロ(?)表現アリ

苦手な方は全速力で逃げてください。


 時はそう遠くない未来。それは突然の出来事だった。


 とある航空宇宙局が、「巨大な物体」が地球に真っ直ぐ接近していると警鐘を鳴らしたのだ。


 しかも、もし衝突すれば地球上の生物がほぼ絶滅するサイズときた。


 しかし隕石の類ではないらしい。限定的だが、それは確からしい。


 じゃあ何なのか。世界はパニックに(おちい)った。


 ある者は「巨大な物体」が何たるかを予測して、ある者はやりたい放題をして、ある者は絶望した。


 まるで世紀末のよう。いつも通りに暮らしを続けている人間はごく小数だった。


 時が経ち……「巨大な物体」は太平洋に(なん)着陸した。さらに知的生命体が襲撃してきた。


 別に最初から敵対的だったわけではない。相手側、ミラクという種族は友好的であった。


 船旅の間にわざわざヒトの形、しかも大衆に好印象を与える容姿に変わり、英語を始めほとんどの言語を習得(しゅうとく)していた。


 他にも色々な配慮がなされていた。


 彼らの力は絶大だった。人間社会と比べ物にならないほど発展していた。


 人類側も圧倒的な戦力差を前に、反乱なども小数しか起こらなかった。


 彼らの目的は、あくまで調査らしかった。最初は。


 大きすぎる力に酔い、下心で死刑囚を「サンプル」として知的生命体に渡した独裁国家があった。


 何を考えたのかわからないが、調査の一環で彼らはヒトの肉を食した。


 そして彼らの味覚にピッタリ合致したらしい。


 そこからヒトの乱獲は徐々に、しかし確実に始まった――



 それから数十年。


 廃墟と化したビルが立ち並ぶ元大都市。


 その裏路地に彼女は(うずくま)っていた。


 見るからにボロボロで汚らしい服を着ている。


 ()えた匂い。顔に張り付いた黒髪。ガリガリにやせ細った肢体。


 壁に寄りかかり、肩で息をしつつ、怯えた表情でこちらをじっと見ていた。


 彼女の目に浮かんだ涙がポロリと(こぼ)れる。


 さて、どうしたものか。袋小路に追い込んだところまでは良かったけれど。


 俺は人間を食べることが大好きだ。大好物だ。


 ()らえて売ってもいいだろう。とうの昔に絶滅した生物だから、天然モノは高く売れるだろう。


 天然モノという確証はないが、養殖モノなら顔のどこかに焼印(やきいん)が入っているはずである。


 好みは別れるが、一般的に成長速度を何百倍にも引き上げた養殖モノより、数十年かけてじっくり育てた方が美味しいとされている。ちなみに俺もそう思う。


 その点では、利用価値は大いにあるだろう。


「あなた……は、だれですか?」


「アルフェラッツ。俺の名前はアルフェラッツだ。そう言うお前はだれなんだ?」


 自分から名乗るのは常識なんだろう?


「わたし、は、三郷です。」


 ミサトか。うーん、取りあえず、家に連れて行くか。金になりそうだし。実際、金には困っているし。


 細かいことは家に連れ帰ってから考えよう。


 俺は彼女の首根っこを掴み、暴れるのを引きずって行った。



 家に帰り着いたら、俺はミサトを洗浄機にぶち込んだ。


 洗浄から乾燥までボタン一つでやってくれる優れものだ。


 ミラク専用だからヒトとか動物には向かないのだけれど、まあ大丈夫だろう。


 たぶん。


 風呂に入ったら飯だ。


 ヒトでもうまいものはうまいと感じるらしい。


 まあ、俺は生きている天然の人間に会ったことも話したこともなかったが。


 ヒト用の飼料と服を通販で購入する。


 愛玩動物として飼われることが珍しくないため一般に売られている。


 それにしても便利な世になったものだ。


 エネルギーさえあれば何でも複製できるし、何でも直せる。


 エネルギー自体は適当な星からもらってくればいい。


 まあ、その技術を一つの組織が独占しているものだから困ったものだ。


 本人たちに言わせれば、「無計画な運用は行われるべきではない。」から自分たちが管理しているそうだ。


 多数のミラノが奪い合うようにエネルギーを消費すれば、こんなに住みやすい地球とその周辺の環境を瞬く間に失ってしまう。


 確かにその通りではあるが、うまく丸め込まれた感が否めない。


 噂によると本当に計画的な運用をしているらしい。馬鹿まじめなことだ。


 そんなことを頭の中で反芻(はんすう)していたらベルが鳴った。食料が届いたらしい。


 いつものようにヘリ型の無人航空機が届けてくれた。ドローンと呼ぶのには静かすぎる奴だ。


 受け取っているころ、洗浄機の音が止んだ。


 どうやら無事に終わったらしい。


 紙切れみたいに軽い彼女のことだ、死にはしないかと憂えていたが多少不機嫌になるくらいで済んだ。


 不機嫌になるくらいの余力があったのかと(なか)ば感心しつつ、少々乱雑に服を着せる。


 深皿に流動食をあけて渡す。思い出してスプーンも渡す。


 流動食なら赤子から老人まで食べられるらしい。何より阿保(アホ)みたいに安い。


 ミラクは食事などという非効率的なことはしない。


 俺たちにとって、食事は生きるためというより娯楽だ。


 特にヒトは大のつく人気である。比較的、希少価値も高いので高値で売買される。


 こいつも太らせれば高く売れるのではないだろうか。そう考えた。


 ヒトは余分なエネルギーを脂肪として蓄えていくらしい。


 肌に骨が浮いて見える今のままじゃ、食べる部分なんてそれほどなさそうだし、自分で食べるにしても量は沢山(たくさん)あった方が嬉しいからそうするのだ。


「? どうした、食え。」


 スプーンを握りしめて固まっている。


 今までろくなものを食べてこなかっただろうから、感動しているのか?


 最初はじっと見つめていたが、次第にじれったくなってきた。


 我慢できなくなって、皿とスプーンを奪うように取り上げる。


「あっ……。」


 先ほどまで食べ始めようとしなかったくせに、残念そうにこちらを見てくる。


 もともと取り上げるつもりではなかったので、スプーンに少量を()せて口元に持って行ってやる。


「ほら、食え。」


 (うなが)すと、おずおずと小さな口を開いて……食べた。


 (のど)が、こくんと音を立てるのを見て、次の一口を与える。


 彼女の口元がちょっと(ほころ)ぶ。次の一口を与える。


 なんだか自分も楽しくなってきて、もう一口……待て、何をしているのだ。


 彼女が食べる(・・・)ことが目的であって、俺が食べさせる(・・・・・)ことが目的なのではない。


 でも。


 他者(たしゃ)が嬉しそうにしているのを見るのは気分がいい。


 しばらくこのままでいいか、そう思えた。



 一週間が()った。


 一向に体重が増えない。


 それどころか多少減っているのではないだろうか?


 何故(なぜ)だ。


 食事の量は若干(じゃっかん)増やし続けているが、何故(なぜ)増えない。


 ――食事自体の栄養価が足りていないのではないか。


 そんな考えが頭を過る。


 いやいやまさか、そんな訳はない。


 だってこの流動食は赤子から老人まで食べられる……。


 赤子から老人まで? ……つまり成長期、()(ざか)りには足りない可能性があるのでは?


 とは言え、量を増やしても食べきれないだろう。


 俺はどうすればいいかわからなくなってしまって、養殖業を営む友人に電話をかけた。


『あ? ヒトを太らせたいだと? 急にどうした?』


「実はかくかくしかじかでな、全然太らないんだわ。」


『流動食なんてもの食わせているのか? お前の奴隷も大変だな。』


「え? じゃあ、どうすりゃあいいんだ?」


『流動食よりも美味(おい)しくて、カロリーの高いものを食わせてやりゃあいいのさ。』


「ほう。」


『ハッキリ言っておくが、流動食を食べさせ続けていたらすぐ死ぬからな、注意しとけよ。』


「おう。わかった。要するにうまいもんを食わしてやりゃあいいんだな?」


『その通りだ。試しにお前も流動食を食ってみるといい。奴隷の気持ちが良くわかるぞ。』


 じゃあな、と言って友人は電話を切った。


 なるほど、流動食は体に悪いらしい。まあ確かに安いし、な。


 取りあえず食べてみた。


 体に悪い、なんてものじゃあなかった。


 反吐の味がする。これを食べさせていたのか。


 何故(なぜ)、罪悪感がこみ上げてくるのか疑問を(いだ)いたが、そんなことはどうでもいい。


 急ぎ人間が昔食べていたとされるものを注文した。


 届くや否や料理を始める。


 何度かヒトを解体・調理してきたから、ある程度のやり方はわかる。


 古い文献(ぶんけん)に子供はカレーライスというものを喜んで食べるとあったので、作ってみる次第である。


 それに何より、初心者向けだそうだ。


 レシピ片手に、調理に(のぞ)んだ。


 さらに二時間後。リビングの円卓(えんたく)にて。


 椅子(イス)に座ったミサトの前には、カレーライスが盛りつけられた皿があった。


 普段と違うのはアルフェラッツの前にも同じくカレーがあることだ。


 圧力鍋を使ったカレーは、初心者のアルフェラッツにも(やさ)しく、満足のいく出来栄えだった。


 だから自分でも食べてみようと思ったのである。


 ミサトも別に一人で食べられないわけではあるま――


「食べさせて。」


 ん?


「食べさせて、ほしい。」


 ……。


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。


 仕方のない奴だ。そうねだられては断るものも断れないだろうが。


 内心、まんざらでもない。


 テーブルを挟んで反対側に座っていたアルフェラッツだったが、ミサトの右隣に移動した。


「次からは一人で食べろよ?」


 熱いので息を吹きかけちょっと冷ましてから食べさせてやると、彼女の目が輝いた。


「……おいしい。」


 言ったか言っていないか(さだ)かではないほど小さな声だったが、確かにアルフェラッツの耳に届いた。


 そしてにっこりと笑った。悪魔も裸足で逃げ出すほどの天使のような笑みだった。


 その笑顔に、アルフェラッツは(とりこ)にされてしまったのだった。



 それからというもの、アルフェラッツは毎日ミサトに料理を作り続けた。


 朝はスープとパンと軽いおかず。


 昼は麺類か丼もの。


 夜は必ず炊き立て白ごはん。


 一日も、一回も()かすことなく作り続けた。


 仕事の日も弁当を作った。帰ったときに思いきり甘えられたのには驚いた。


 笑顔が見たいから、なんて言ったら気障(きざ)な奴だが、事実その通りであった。


 とても幸せな日々が続いた。


「アルフェラッツ! 今日のご飯は何?」


「はいはい、もうちょっとでできるから、手でも洗って待ってろ。」


「はーい。」


 彼女は一人でものを食べるようになったが、度々(たびたび)ねだることもあった。


 何故(なぜ)だか嬉しくて、(こば)むことができなかった。


 自分の作ったものを美味しそうに頬張る彼女を見るのが好きだった。


 しかし幸せな日々はそう長く続かなかった。


 どこから漏れたのか、天然モノがいるという(うわさ)が広がり、ミサトの立場が危うくなってきた。


 そりゃあ天然モノだ。盗んで売れば高い値がつく。一部の愛好家とやらになら言い値で売れるだろう。


 ある日、俺が仕事から帰ってくると玄関の鍵穴に引っかき傷がついていた。


 針金でかっちゃいた程度で開くような安物を使っているわけではないが、不安になるのには十分だった。


 彼女はというと、布団にくるまって怯えていた。相当怖かったのだろう。


 優しくなだめてやりつつ、転居(てんきょ)を決めた。


 何せここはあまりにも過疎化(かそか)し過ぎていて、治安が悪い。


 だからこそ今まで見つからなかったということもあるが、周知(しゅうち)され始めた今、ここに(とど)まる理由もない。


 比較的治安のいい都市を選定し、移り住むことにした。


 そうと決まれば話は早い。


 必用な手続きをすぐに済ませ、現在よりセキュリティがしっかりとした物件に移った。


 だが、そこでは近所の住民が、金に目の(くら)んだセキュリティを提供している会社とぐる(・・)になってまで押し入ろうとしてきたので、またもや引っ越すことになった――。



 そうして彼方此方(あちこち)に住んでみて、この世界にはこの子の居場所がないのだろうと思うようになった。


 俺もミサトも疲弊(ひへい)してしまって、彼女の方はついに風邪(かぜ)をひいた。


 最初は症状も軽かったのだが、(こじ)らせたのか段々と重くなっていった。


 一週間つきっきりで看病したが重くなっていくばかりで一向に良くなる気配はなかった。


 養殖業を営む例の友人の紹介で、専門が人間の獣医、昔で言うところの医者のもとに連れて行った。


 その医者の話によると、我々が元いた星から持ってきたウイルスのせいで、この星で人間が長生きすることは不可能になったらしい。


 このウイルス、幼少期は特に問題ない。問題なく大人になることができる。


 しかし三十歳あたりになると発症し、非常にゆっくりだが体を蝕む。


 ヒトの奴隷は雇い主に捨てられたらすぐ食用になる。食用の他に利用価値がないうえ、人食は一定の需要があるからだ。


 大体の富豪は二十半ばで飽きて捨てるし、養殖モノの場合はもっと早い。


 そのため、このウイルスは知名度が低く、自ら知ろうとしなければ知らないのは無理もないことだった。


 さらに、個人差による部分が大きい。赤子で発症し死亡する者も一定数あり、衰弱(すいじゃく)死するまで発症しなかった例も報告されているらしい。


 (きわ)めつけに、環境やストレスなどによって発症時期は早まるらしい。


 ミサトが俺と会うまでに(ろく)な生活を送ってこなかったのは容易に想像できたし、最近は引越ばかりしていたからストレスや疲れは()まっていただろう。


 治療法はなく、必要のないものを研究している酔狂(すいきょう)な医者もいないので治る見込みはほぼないと言われた。


 あと一週間を生き(なが)らえるのも難しいだろう、と言われた。


 ウイルスに感染していてもミラノなら何の問題もなく食用にできるそうだ。


「ま、その子を売った金で養殖モノでも買いなさいな。うまく売れば三人くらい余裕で買えるさ。」


 奴隷なぞを大切にする奴は変態にカテゴライズされる。


 デメリットしかないはずなのに、気がついたらその医者の胸倉(むなぐら)を掴んでいた。


「お前、他人の奴隷に口出ししてるんじゃねぇよ。」


「そりゃ悪かったな。」


 慣れているのか、特に(おび)えもされなかったので面白くなくなり、身を(ひるがえ)して帰路についた。


 何故(なぜ)こんな行動に出たのかわからなかったが、横のベッドには高熱に苦しむミサトがいた。



 一週間と四日後、看病の甲斐(かい)なく彼女は死んだ。


 病死でも食用としては全く問題ないうえ、天然モノのため高く売れることは容易に想像がついたが、売る気にはなれなかった。


 一面に草原の広がる丘の天辺(てっぺん)で死骸を焼いた。


 その後、一週間ほど悲しみに明け暮れたが、このままではいけないと思い、職場に復帰した。


 今でも、たまにあの笑顔を思い出す。


 懸命(けんめい)に働いてお金を貯め、腕の立つ研究者を集めてグループを立ち上げた。


 彼女を殺したウイルスへの特効薬、その試作品がもうすぐ完成する。


 このワクチンで、一人でも苦しむヒトを減らせたら……そう思うようになったのは、(まぎ)れもなく彼女の影響なのだろう。


 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

 「餌付け物が書きたい」というよりは「食人を書きたい!」と思って書き始めたものの、「成人向けに指定されたらどうしよう。」と怖気づいた結果、良く解らないものが出来上がりました。

 とある続き物を一年近く放置していたので、「そろそろ続きを書こう。」と思い立ち、その肩慣らしにこれを書きました。

 では、また機会があればどこかでお会いしましょう。

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