ウンコマン
小学校とは、実に怖ろしい場所である。
大便したならば、もれなくウンコマンの称号をいただける。
我慢して、漏らしてしまったら大変だ。
どっちにせよ、ウンコマンだが、こっちの方が破壊力絶大だ。
タクヤは思った。
女の子になりたい。
小学三年生のタクヤは女性の身体の構造を知らなかった。
実家の庭で飼っているニワトリのように、大も小もセックスも全部同じ穴でするものなのだ、オンナは。と思っていた。
だって、そうだろう? あいつらはしゃがんで小便をするのだ。
だから、女の子になりたかった。
普段は、オンナなんて軟弱だと思っていたが、腹がキリキリと痛むたびに、女の子になりたいと思った。
ある日、タクヤはママに訊いた。「女の子になりたいんだ。如何やったらなれるの?」
「どうして?」とママは言った。
「ウンコマンになりたくないんだ」
「何それ?」
オンナであるママは、小学生男子の不文律を識らなかった。
もやもやした気持ちになりながらも、タクヤは続けた。「学校でウンコするとウンコマンになるんだ」
「馬鹿みたい」
呆れたママにタクヤは憤りを覚えながら言った。「ママはオンナだからいいんだ」
「どうして、オンナならいいの?」
「だって、オンナはウンコもシッコも同じ穴でするんでしょう?」
ママは困った。小学三年生の息子に、女体についてレクチャーするほど彼女は老いていなかった。まだ、彼女は二十代だった。
「じゃあ、チンコ切るしかないね」と言った。
タクヤは青ざめた顔でぶんぶんと首を横に振った。「イヤだ」
「なら、我慢しなさい」
ふと、タクヤは思った。
自分はママのケツの穴から生まれたのじゃなかったか?
ケツの穴はウンコをする場所だ。
なんだ、と思った。悩みは吹っ飛んだ。
タクヤはママに言った。「ウンコウーマン!」
ママは息子の言動に呆れた。何も言わずにキッチンへ行った。
次の日から、タクヤは人類は皆ウンコマンとウンコウーマンであると考えるようになった。
きっと赤子は、クソ塗れで生まれてくるんだと思った。
トモダチをウンコマンと呼んだ。
トモヤくんはウンコマン一号であり、アキラくんはウンコマン二号であり、シンジくんはウンコマン三号であり、隣のミヨちゃんはウンコウーマン二号だった。一号はママだ。
しかし、小学校とは云え、そこは社会の縮図に違いなかった。
ウンコマンを連呼し過ぎた結果、タクヤはウンコマンになった。学校でウンコしてないのに――。