旅立ち ラスト3
「……確かにそうかもしれないね」
クオンは竜の目を見た。あれは世を呪っている目だ。そして、その胡乱な光は、どこか歯車がずれていたら自分の目にも宿っていたものだ。
「兄さん、ごめんね。僕は妹を放っておけないよ」
「クオン?」
「あの子と一緒に遠くへ行くよ」
一歩前に踏み出す。足元でガラスの破片が砕けた。塔の竜は、威嚇のために広げていた翼を、そっと折りたたんだ。
「心配しないで。あの子はきっと止めてみせるよ。兄さんはいつも僕にそうしてくれたろう?」
クオンが人に牙をむいた時、ザクロはいつだってやめろと言った。僕がこの、一人ぼっちの竜の兄だと言うのなら、僕だってそうするべきだろう。クオンはそう、心に決めた。
「ねえ君、僕と一緒に旅に出よう。新しい故郷を探しに行くんだ」
「そんなところ本当にあるの?」
「うん。世界は広いからね」
クオンは妹と共に翼を広げる。妹の鉤爪が、クオンの背中から鞍を引きちぎった。
「待って! 行かないでクオン!」
「ありがとう。僕を弟と呼んでくれて。君のことはきっと忘れない」
クオンの体に一雫、竜の涙が落ちた。涙は体の傷に染み込んで、ひび割れを塞ぐ。
どれだけ妹が涙を流してくれたところで、きっと完治はしないだろう。いつか砕けるその日まで、僕はこの子を守ろう。
背中がすうすうする。二匹の竜は翼をはためかせた。




