私、王妃で転生者ですが、息子が婚約破棄したいと言い出しました
初投稿です。よろしくお願い致しますm(__)m
私の名前は、オリエッタ。オリエッタ・エヴァーストーン。エヴァーストーン王国の王妃だ。
いきなりだが、私には前世の記憶がある。
日本という国で、22年程生きていたが突然事故で死に、そして今新たな人生を歩きはじめて、35年程経ったところである。
幸い、今世は愛妻家の夫(40)と、ちょっとおバカだが優しい息子(15)と聡明な娘(8)にめぐまれて、「我が生涯に一片の悔い無し」とかいいながら死ねるかなぁ…、と思っていた。
……ついさっきまでは。
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ある日突然、息子ニール(15)が泣きながら
「絶対、婚約破棄だー!!!絶対、婚約破棄してやるんだー!!!!第一王子の名のもとにお前に婚約破棄を言い渡しゅ!!!」
と、叫んだのだ。
……泣きながら。
息子の目の前には、息子の婚約者のロック公爵家のリリー嬢(14)が戸惑った顔をして立っている。
「「「………。」」」
泣きながらナニを言ってんだこの子は…。
だいたい、第一王子の名のもとにって、なんじゃそりゃ。テメーにそんな権限ネェーよバッキャローが!!!!
婚約っつーのはな、親同士・家同士で交わされるもので、テメーの婚約の場合は我が国の貴族事情・外交事情も鑑みて陛下が直接交わしたもんだろーが。
おっと、口が悪くなってしまった、失敬失敬。
ちなみに、ここは国王陛下の執務室である。
今この場にいるのは、国王陛下と王妃である私と、第一王子のニールとリリー嬢の四人のみで、公的な場ではない。まあ、だからといってなんでも許されるというわけではないのだが…。
ふぅ、と心の中を落ち着けて、淑女の仮面を被りおっとりした感じを意識して…
「まぁ、このバカ息子ったら、突然何を言い出すのかしらぁ?」
「王妃よ、オブラート、オブラートに包めてないぞ。」
おっと、仮面が剥げてる…。被り直してと…
「あら、失礼いたしましたわ、陛下。ですが、このバカ息子ったら、いきなりバカなことを言い出すんですもの。気が動転してしまいましたわぁ。」
「……。…あぁ、俺も王妃と同じ心境だが…。リリー嬢よ、申し訳ないが俺たちには息子が何をしたいのかわからん。いや、婚約破棄したいのはわかるのだが、理由がな…。」
と尋ねるとリリー嬢は息子がこんなことをした理由を語ってくれた。
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「実は、ニール殿下には、前世の記憶とやらがあるようでございます。私には前世の記憶とやらはございませんので、殿下の仰っている意味がよくわからないのですが…。」
「(!!!!)」
もちろん表情には出さないが、思わずビックリしてしまった。
え、息子も転生者なの?え?
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息子いわく、この世界は乙女ゲームの世界、らしい。
主人公は、下町の食堂の看板娘のサニーちゃん。
ある日、サニーちゃんが、実はとある隣国から亡命してきた某王子の娘であることが発覚する。その隣国では、王位継承を巡って血みどろの争いが繰り広げられていて、何処から情報が漏れたのか、サニーちゃんの命が狙われてしまう。某王子の亡命にエヴァーストーン王国の国王(私の夫)が関わっていたことから、サニーちゃんの命を守るためにエヴァーストーン王国の王子(私の息子)が自身の護衛騎士を連れて身柄を保護しに来る。
ここから、乙女ゲームのスタートである。
そして、王子をはじめ、護衛騎士、暗殺者、幼なじみから隣国の王子まで、様々な男性(攻略対象)との恋を楽しむのである。
その過程で、自らの婚約者をたぶらかされたと思ったリリー嬢を含めた攻略対象の婚約者たちは、サニーちゃんに様々な嫌がらせをし、そして、それが攻略対象や国王にバレて婚約破棄され、失意のまま、国外追放やらどこかの貴族の後妻やらで、乙女ゲームから退場するのである。
そして、順調に愛を育んだ二人は、隣国の王位継承問題も解決し、無事、ハッピーエンドを迎えるのである。
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え、ここって乙女ゲームの世界なの?マジで?今まで全然気がつかなかったんだけど。
え、てことは、私、攻略対象の母親なの!?
ん?でも、それが何で息子からの婚約破棄に繋がるんだ?リリー嬢からの婚約破棄ならわかるが…。未来での浮気を予告されたようなものだろう?それに、そんな未来がわかっているなら、サニーちゃんに心奪われないようにリリー嬢との絆を深めるという選択肢もあるだろうに。
陛下も同じことを思ったらしく、
「乙女ゲームとやらはよくわからぬが、それなら、婚約破棄はリリー嬢から打診されるべきもので、お前からじゃないだろう?ニールよ。そこでなぜお前から婚約破棄を言い出したんだい?」
と仰り、私も
「その通りですわ。普通、未来の浮気を予告されたリリー嬢からの婚約破棄ではなくて?」
と聞くと息子はますます泣き出してしまった。
要領を得ない息子の言葉を根気強く聞き取ると、
・なんか生まれたときから違和感あるけどリリー嬢可愛いし大好きだから、将来お嫁さんにしよー
↓
・突然前世の記憶が蘇った!!!!
↓
・この世界が乙女ゲームの世界だと知った
↓
・自分が攻略対象だと気づく!!
↓
・ってことは、リリー嬢が悪役令嬢だとっ!!!!
↓
・いや、そんなはずはない。こんなに可愛くて可愛い優しい女の子が、嫌がらせなんてするわけがない!
↓
・あれ?でも、よく考えたら、悪役令嬢になっちゃうのって、僕の婚約者だから…?僕の婚約者じゃなかったら、リリー嬢は国外追放されない?
↓
・大変だ!!!婚約破棄しなきゃ!!!←イマココ
ということらしい。
つまり、大好きなリリー嬢をお嫁さんにしたかったのに、僕の婚約者だと国外追放されちゃうから、大好きだけど婚約破棄するッ!!ってことね。
うん、おバカだね。
自分の息子のことだけど、おバカだね。
何でそこで、運命に逆らってやるッ!!!ってならないのかねぇ?
そこで陛下が、
「リリー嬢は、どう思っているんだい?」
と尋ねると、リリー嬢は
「私は……。私は、正直に申し上げて乙女ゲームというものを知りません。ニール殿下から説明を受けても、よくわからないのです。ですが、私は殿下を信じております、私を好きだと仰る、殿下のお言葉を。」
「リリー嬢……」
「そして、私も、殿下をお慕いしております。私は、主人公さんに殿下を取られたくありません!!もし、乙女ゲームの通りに殿下と主人公さんが恋に落ちても、殿下が私をお嫌いにならない限りは、私は殿下の婚約者で在りたいと思っております。」
「リリー嬢……ううん、リリー。僕、乙女ゲームに逆らってやるよ。そして、リリーと結婚するんだ!!!」
「ニール殿下……いえ、ニール様。ニール様がそう仰るなら、私も共に逆らいますわ!!!」
「リリー!!」
「ニール様!!」
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と、まぁ、息子とリリー嬢が二人の世界を作っちゃったので、私と陛下は目を合わせ、
「「(ふぅ、なんとかまとまった…)」」
とホッとしたのであった。
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まあ、結局、当たり前だが婚約は続行となった。
息子はリリー嬢にベタ惚れだし、リリー嬢も何だかんだで息子が好きみたいだし。
だって、ねぇ?未来の浮気を予告されても婚約を続けたいって、ねぇ?リリー嬢も息子のこと……ねぇ?
お慕いどころじゃなくて、相当大好きだよね。
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そして、私も自分にできることをすることにした。例えば、隣国の血みどろを阻止するとか…。できるかわからないけど……。
一介の王妃にできることなんて限られてるけど、私は家族を愛してるからね。息子と未来の義娘のためにできることからはじめましょう。
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その夜…、寝室にて……
「陛下、私、あの子に弟分のような子をつけたいと思いますのよ…」
「突然どうしたのだ?」
「実は、乙女ゲームとやらでは、あの子に弟分は存在しないそうですわ。」
「ふむ、言いたいことはわかる。しかし、貴族教育を受けている子の中で、『あの子の弟分』になれるような、ガキっぽい子がおるか?」
「確かに、難しいですわね…。あの子より年下でもずっとしっかりした子ばかりですものね。」
「そうだな。」
「……じゃあ、もう一人作りませんこと?」
「!!!!」
「あの子に弟分ではなく弟を、というのはいかがです?乙女ゲームに登場してないようですし…」
「……」
「(ドキドキ)」
「……。(バサッ)」
「キャッ……」
……end
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登場人物
●オリエッタ・エヴァーストーン(35)
エヴァーストーン王国王妃
転生者
口が悪いけど、家族を愛してる
●ジーク・エヴァーストーン(40)
エヴァーストーン王国国王
愛妻家
突拍子もないことを言い出す家族を受け止める度量のある大人の男
●ニール・エヴァーストーン(15)
エヴァーストーン王国第一王子
転生者
リリー大好き
おバカだけど、リリーへの気持ちは本物
●リリー・ロック(14)
エヴァーストーン王国ロック公爵家令嬢
ニール大好き
ニールに浮気を予告されても好きでいられる健気系女子
がんばれ!