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第2話 Youth・Stray・Labyrinth(Ⅳ)

 これ以上ないくらいに重い足取りではあるが、自分の意思をちゃんと伝えるべくオフィスへ戻ると、タイミング良く全員が揃っていた。


「おかえり。どう、パンケーキ美味しかったでしょ?」


 見送りの際に僕へと向けられた不敵な笑みの理由が分かった今となっては、悪態の一つもつきたくなるというものである。おまけにそのパンケーキを食べ損ねてしまっていた事も僕の不機嫌に拍車をかけてしまう。


「おかげで昨日チャージしたばかりのカードに、またチャージしなきゃならなくなりましたけどね」

「そんなに食べたの?」

「ケイさんが、ですよ。支払い全部押しつけられたので」

「あらあらご愁傷様ねえ、アストっち」

「笑い事じゃないですよ、クリスさん! てゆーかレイアさんもププリエがどういうお店か知ってたなら教えてくれても良かったじゃないですか!」

「下調べが不十分な自分の甘さを呪いなさい」

「うぐぅ……」


 ぐうの音しか出ない。


「んで、ケイから何か面白そうな話は聴けたの?」

「面白いかどうかは分かりませんけど……」


 いかにも女性向けといった感じのオシャレなカフェで、周りのテーブルに座っているのは当然と言うべきか女性ばかり。そんな中で男二人が顔を突き合わせている事の気まずさといったらなかった。しかし、そんな事などお構いなしに話の先を促してくるとは、なんとも恐ろしい上司である。

 多少の気後れはあったものの、僕はケイさんとのやり取りの経緯を伝え、そして僕自身の意思を伝えた。おそらく反対されるであろうと思われたが、意外にも反応は悪くなかった。


「ふーん、いいんじゃない? アンタがやりたいって思ったんならやればいいと思うわ」

「ワタシはアストっちのパートナーじゃないから無責任な事は言えないけど、パートナーのレイアがいいって言うんならオッケーなんんじゃない? てゆーか、アストっちもちゃんと成長してんのね。おねーさんは嬉しいわぁ」


 そう言ってクリスさんは、大げさな身振りで涙をぬぐう素振りを見せた。やっぱり僕はまだまだ半人前なのか。だが、それも今日までだ。僕は今こそ半人前から一人前へと脱却するのだ。


「それで、僕はロキへ行こうと思うんですけど……」

「うん、いいと思うわ」

「いや、取材許可を……てゆーか、レイアさん達は……?」


 当然の事ながら、僕はレイアさん達も取材に同行してくれるものだと思っていた。これまでの経緯もさるものながら、僕はいつだってレイアさんの取材には同行していたのだから、せめてレイアさんだけは同行してくれるものだと思っていた。

 その考えこそが、僕が半人前だという事を改めて思い知らされた。


「アタシ? アタシは別件の取材があるの。だから、その件はアンタに任すわ」

「……へ?」

「何よ、もっと喜びなさいよ。アンタの名義で記事が書けるんだから。その記事が反響を呼んだらアンタの手柄なのよ?」


 僕の名義で記事が書けるというのは確かに魅力的であり、ジャーナリストとしてレベルアップ出来るだろう。しかし、である。僕はこれまで一度たりとも単独行動での取材は行った事が無い。

レイアさん達が単独での取材を行った事があるのかは知らないが、この機会は僕にとってチャンスになる事は間違いない。


「……分かりました。なんとかやってみます」

「どうせその取材には、あのカメラマンも同行するんでしょ。アイツがいるんならなんとかなるんじゃない? それにミリュー達もいるんだし」

「おそらくアインさんも同行してくれると思います」

「用心棒としては最強すぎるわね……」


 クリスさんの言い分には僕も最大限に同意するところである。一抹の不安をかき消した僕は、レイアさんの取材対象が何であるかを聞いてみようとしたタイミングでギャラクシー・ネットワーク・ニュースが始まった。

 何を隠そう、僕はこの番組のメイン・キャスターを務めているサヨコ・インヴェルスさんの大ファンなのである。何を隠そう、とは言ったものの、実際には誰にも言っていないので隠れファンなのだが。

 我が社のモニターは自宅のテレビとは違い、立体投影映像対応なので、モニターに映る映像は視聴する機器の画面と比例するサイズで立体映像として放送される。目の前に現れたサヨコ・インヴェルス女史は、身長約70㎝程のサイズだが、今日も変わらずお美しい。


「これって生放送よね? じゃあさっきは本番前に連絡してきたってワケ?」

「そうね。台本チェックもサクッと済ませて暇を持て余してたのか、それとも……」

「それとも?」

「可及的速やかに行動に移せってメッセージかもね」

「それならアンタのお得意の善は急げのタイム・イズ・マネーってワケね」

「そゆこと」


 二人の不思議な掛け合いに困惑気味でいるところにシンさんが助け船を出してくる。


「二人とサヨコ女史はご学友なのだそうだよ。先程、彼女から仕事の依頼があったそうだ」

「ええっ!」


 世間は広いようで狭いとはよく言ったものだ。


「それでアスト君、本当に君一人で取材に行くつもりかい?」

「一度訪れた惑星ですし、見知った顔もありますから大丈夫ですよ」


 要らぬ心配をかけないようにあくまでも明るく務めるが、シンさんにはそれが空元気だと見えたのだろうか、どうにも歯切れが悪い。


「確かに彼らがいる事には安心するが……しかし、何だろう、いや、多分これはボクの思い過ごしなのだろうが、どうにも嫌な予感がしてならないんだ。あのフェイが何の手も打ってこないわけがない」

「うえぇ……やめてくださいよ、そんな事を言うの……」

「あの惑星には、まだボク達が知り得ない秘密が隠されているはずだ。それが何なのかは分からないけどね」

「そうですね。じゃあ、それも含めて調査してきます」

「頼もしい言葉だ。まぁ、なるべく定期的に連絡を入れるようにするし、こちらの案件が片付いたらそっちに合流するとしよう」

「それは助かりますけど、シンさん達の取材先ってどこなんですか?」

「近くだよ。惑星ムーサにある、あの三人の母校だ」


 惑星ムーサなら惑星ロキともそれほど離れてはいないから、合流するにも不都合は無さそうだ。

 シンさんの言う『嫌な予感』が杞憂である事を祈りつつ、僕は新たな取材たたかいの場へと向かう意志を強く固めた。そして、ププリエでの思いがけない出費について編集長に伺いを立ててみた。


「あの、編集長、これって経費では……?」

「落ちないねぇ」

「そんなぁ……せめて半分だけでも!」

「うーん、じゃあ、経理課のメイちゃんの許可がでたら良しって事にしようかねぇ」


 取材たたかいの場へと赴く前にやるべきクエストが発生したようだ。

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