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第1話 Risky・Lady・Sophisticated(Ⅱ)

 ユングヴィ・シュトライヒ……アタシ達的には『ユング』という方が耳馴染みのある呼び名だ。

 清潔感のある栗色の髪にエメラルドグリーンの瞳の色がよく映えていた好青年であり、サヨコの恋人でもあった人物だ。


「もちろん憶えているわ、忘れるわけないじゃない。でも、ユングがどうしたの?」

「……彼を探してほしいの」

「え? でもユングは……」


 ユングはある実験中に起きた不幸な事故により帰らぬ人となった。その事故が起きた時、サヨコは研修で不在だった。


「あの実験ね、本当は私も参加する予定だったの。でも、研修期間と重なってしまって……それで、私の代理に彼の妹さんが立ち会う事になったのだけど……」


 後になって聞いた話だが、それは凄惨なものだったそうだ。その実験が何の実験だったのかは定かではなく、また公にもされていないが、ユングが研究していた簡易的時空間転移の応用実験ではないかとアタシは睨んでいる。しかし、彼の妹がその実験に立ち会っていたとは初耳だ。


「その事故でユングは行方不明、そして数ヵ月後に認定死亡とされた。でも、彼の妹さんが参加していたなんてアタシは聞いていないわよ?」

「そもそもその実験自体が非公開のものだったからね」

「その実験って一体何だったワケ?」

「エーテル超粒子力学を応用して、魔法術を復活させようとしていたのよ」


 アタシの思惑大外れ。見当違いの所を睨んでたか。


「魔法術の復活って言っても、そんなの精霊の力を借りれば……いや、そうか。ユングがやろうとしてた事は精霊の力を借りる事無く魔法を使用するって事ね?」


 そもそも、誰もが精霊の力を借りる事が出来るわけではない。精霊にその素質を見込まれて契約できた者だけが魔法を使う事が許されるのだ。


「彼が研究していたのはそれだけじゃないの。彼は魔法術の研究の過程で遺伝子操作にも触れたのよ」

「まさか、それがシュトライヒ・ツリー?」

「詳しくは分からないけれど、ロストオーバーテクノロジーの一つらしいわ。おそらく彼はロストオーバーテクノロジーの全てを復活させようとしていたのだと思う」


 天才ってヤツはとんでもない事を企てる。アタシ達凡人には想像もつかない事をよくもまあいけしゃあしゃあと思い付くものだ。自称天才を謳う奴は履いて捨てるほどいるが、ごく稀に本物の天賦の才を持って生まれる者もいる。

 ユングヴィ・シュトライヒは紛れもなく後者だ。

 十二歳になる頃には博士号を取得し、十六歳で発表した論文は銀河中の人々の常識を覆した。なにせ、その出来事がきっかけで宙間航行の技術が飛躍的に進歩し、十年後にはゲートを使った超長距離移動が可能となったのだ。人類が宇宙に進出した千年の時を数年で取り戻したとまで言われている。その後、彼はアカデミーから専用の研究室を与えられ、さらなる研究へと進んでいったのだが、その行く末が例の実験だった。

 それにしても魔法技術と遺伝子操作にどんな繋がりがあるというのだろうか───それとも彼の頭の中では別々のプロジェクトとして動いていたのか───いずれにしても調べてみる価値はありそうだが、そこにクリスが待ったをかける。


「ユングが生きている、という証拠はあるワケ?」


 クリス達が帰社するまえのやりとりを伝えたが、彼女が納得するまでの材料は揃っていなかったようだ。失われた超技術と精霊の力を結びつけるには根拠が足りないとクリスは難癖をつける。


「この世界には科学では証明できない事がまだまだたくさんあるの。ワタシは精霊の存在を信じているし、それを科学の力だけで片付けたくないワケ。分かる? それに、あの事故は行方不明者だらけで生存者はいなかったはずよ?」


 不可解な事件である。

 生存者はおらず、全員が行方不明者。研究室が吹き飛ぶほどの大爆発の中、何故か遺体は発見されなかったのだ。その後、実験に立ち会った者は全員、失踪宣告を受けたか認定死亡扱いとなった。


「私の推察が正しければ、の話だけれど」


 と前置きしたうえでサヨコが話し出す。


「精霊の力だというアレは魔法術だと思うの。おそらく彼は、全てのロストオーバーテクノロジーを復元させようとしていたのよ……あの実験で」


 サヨコの推察通りならば、精霊の力そのものが魔法術という事になる。いずれにしても結論を出すには情報が足りなさすぎる。記事になるかならないかも分からないが、少なくともあの事故の再検証というだけでも記事としては十分だろう。編集長に掛け合ってみよう。


「おっけ。取りあえず調べてみましょ。取材していけばどこかでユングの事にもぶち当たるかもしれないし」

「行き当たりばったりの出たとこ勝負、てワケ?」

「昔からアタシ達はそうでしょ?」

「……それもそうね」

「そういうところも変わらないのね」


 プロジェクターの向こうではサヨコが呆れたように笑うが、すぐにその表情を引き締めた。


「でも、本当に気をつけてね。貴女達にまで何かあったら私……」

「だ~いじょうぶよ。これまでもそこそこヤバい修羅場をくぐってきてるんだから。ジャーナリストが命をかけて掴んできたネタを報道するのがアンタの仕事、でしょ?」


 まあ、記事にするのもアタシ達の仕事ではあるが、報道機関とは手を取り合ってキャッキャウフフしなければならないので、情報は共有しなければならないのだ。

 差し当たって調査しなければならない事は二つ。ロストオーバーテクノロジーとシュトライヒ・ツリーに咲く花、レウケー。それらを追っていけば、そのどちらにも関与しているロイの行方に辿り着くかもしれない。

 サヨコとの通信を終えたアタシ達は、編集長の承認を得るため編集長室のドアを勢いよく開け放った。

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