第1話 Maybe・it was・fated(Ⅲ)
シンの通信も終わったようで、アタシ達は頃合いを見計らって操舵室へと向かう。無駄に神妙そうな面持ちで何事かを思案しているシンに早速問い詰める。何故なら、向こうから話してくれそうな雰囲気ではなさそうだったからだ。知らんけど。
「さっき誰と話してたの? クリスが遠めにリックさんと誰かだったって言ってたけど」
「なんだい、見ていたのなら君達も来てくれればよかったのに。こんなところで通信しているんだから聞かれて困るような事じゃないよ」
そりゃそうだ。下手に勘ぐりすぎたのかもしれない。
「相手はリックさんとミスターだよ。これからの事についてちょっとした作戦会議みたいなものだったから、君達にも居てもらった方が良かったかもね」
ふむ、とりあえず額面通りに受け取ってもいいだろう。こんな時につまらない嘘をつくようなヤツじゃないことは長い付き合いだから分かっている。
「そっか、てっきりアタシ達が居たんじゃ都合が悪いかと思っちゃったわ」
「都合が悪い……ふむ、そういえば君達には言ってなかった事があったね。我々はパルティクラールを脱退したという事は知っているね? 現在のパルティクラールはユグドラシルとその名を変えている。そして、それはJ・D・Uそのものだと言ってもいい」
探りを入れたわけでもなかったが、これはこれで結果オーライ。ここは黙ってシンの口から語られる真実を聞く事にする。が、一つ気になる事だけ聞いてみよう。
「J・D・Uってのは超巨大な犯罪シンジゲートだったわよね?」
「表向きはね」
裏の世界の組織が表向きとは。
「そしてソレはフェイが率いている組織の事よね? つまり、ユグドラシルのトップもフェイって事?」
「それを説明する前に、君達は最近、いや最近じゃなくてもいい、何か記憶違い的な違和感を覚えた事はないかい?」
ある。しかし、クリスは首を横に振る。
「なぁーんにも。でも、さっきレイアの様子が少し変だったかしら?」
様子が変とかゆーな。印象が悪いでしょうが。
「違和感があったという事は、レイアは神器に選ばれたという事だ。そして、クリス。君は極めて正常な一般人だ」
それはそれでいいのか悪いのか……
「正常な一般人ってどういう意味なワケ?」
「神器などという危険なモノには関わっちゃいけないよ、と言う事さ」
「神器が危険な物?」
「人が人でなくなる、僕はそう思うね」
アタシゃ人だ……と、喉元まで出かかったが、いざ冷静に考えてみると確かにシンの言う通りかもしれない。神器と会話が出来るなど、およそ人のそれとは言い難い。
一見して人の姿をしていても、通常ならば持ちえないであろう特殊な――俗に言う超能力などがそれにあたるだろう――を備えているなら、それは人の姿をした何かと言えるかもしれない。
神器は人を人でなくす、それでなくてもアタシは特異点とかいう存在だ。もうマトモな日常を過ごす事は出来ないのだろうか、と考えるとマジで悲しくなるので、もう深く考える事はやめにした。
「じゃあさ、神器の守護者とかいうのになったレイアやアストっち達は人じゃないってワケ?」
「まあ、ボクの見解はかなり飛躍したものだから、あまり額面通りに受け取らない方がいいよ。それにクリス、君はレイアやアスト君を見て人じゃないと思うかい?」
「そんなわけないじゃない。どこからどう見ても人間だわ。普通かどうかは別として」
「別とするなっ! アタシもアストも普通の人間よっ!」
「ジョークよ、ジョーク。要するに神器を持つ者の資質が問われるって事でしょ。
資質か。別に持ちたくて持ったわけでもなく、守護者になりたくてなったわけでもないのに、そんなものを問われるとは思わなかった。ともすれば、ただ生きていくだけでも人としての資質は問われかねない。
はー、偉くなりたい。
「んで、違和感の正体ってのは何なの?」
「ミスター達の見解では、どうやら次元改変が頻繁に行われているそうだ」
「次元改変?」
「誰かが過去へと遡って歴史を変えてしまっているんだよ。それだけでなく、別次元のテクノロジーをこの世界に持ちこんでいるそうだ」
常々思っていた事だが、ミスターはどうやってこんな情報を入手しているのだろう。情報屋界隈の事情など分かるはずもないが、ネットを探れば大体の事は調べられる時代において、表沙汰にされていない情報を仕入れてくるそのルートを教えてもらいたいものだ。次の記事の題材にでもしてやろうかしら。
それはともかく、次元改変はともかく、次元間移動といえば、シンやあのケイとかいうヤツも元はこことは違う次元から来た事を考えれば、あやしいのは断然ケイだ。しかし、アストがベッタリするくらいのお気に入りである事を鑑みてヤツはシロか。いや、待てよ。
「シン、ベルカ・テウタが黒幕って事は考えられない?」
「それはないだろう。彼女達は宇宙海賊を名乗ってはいるが、その実、彼女達の行動は義賊のそれだ」
「なら、なおの事誰かのために次元改変を行っている可能性もあるんじゃない?」
「レイア、誰か忘れてない?」
当然ながら本命はクリスに言われるまでも無い。しかし、どうにも違和感が残るのだ。
「フェイでしょ。でもね、奴が自在に操っているゲートが次元や時空を超えられるとでも? ゲートなんてただの移動手段にすぎないわよ」
「じゃ、あの写真はどう説明するワケ?」
「あの写真って、ユングとフェイが写っていたヤツ?」
「300年前にあの二人が出会っていた事実、しかし、この時代にワタシ達はユングには出会っておらず、フェイには出会っている。フェイがドラゴン族だと仮定するならば、ユングはあの実験で過去へ行ったと思わない?」
突拍子もない仮説だが、そう考えれば全ての辻褄が合う。いや、むしろそう考えなくてはならないのだ。
この世には『既知』と『未知』がある。しかしながら、その大半は『未知』である。アタシ達ジャーナリストは、その『未知』を追い続けて、それらを『既知』へと変えなければならない。
「シン、ロキまであとどれくらい?」
「ゲートを作動させれば三時間程度かな」
民間船には搭載されていないゲート・システムだが、この船には搭載されている。と言う事は、この船の出処は何処だろう。まあ、今はそんな事を考えるよりもやるべき事がある。
「まだ時間はあるのね。じゃ、聞かせてもらえるかしら、ユグドラシルの事を」




