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第1話 Maybe・it was・fated(Ⅱ)

 出航準備の整ったシャトルの中、一人時間を持て余していたが、丁度良い暇つぶしが出来そうだ。暇つぶしというのも聞こえが悪いが、取材対象が無機物なのだからご容赦願いたい。

 何から聞けばいいものかとひとしきり思案を巡らせてみたが、やはりこれしかないだろう。


「それじゃブルさん。これからいくつか質問させて頂きますがよろしいでしょうか?」

「なんやねん、急にかしこまってからに。なんや気色悪いわ」


 気色悪いのは無機物なのにベラベラ喋りまくるアンタのほうだ。


「一応、形式的に取材の体を取ってね。ま、そう言うならいつも通りにさせてもらうわ。で、早速だけど、アタシは何でこうしてブルさんと会話が出来るの?」


 まずは定石通りにジャブ程度の質問から導入線を敷いていこう。


「姉さん、アンタそれ本気で言うとんのかいな。神器と会話が出来るのは神器の支配者だけや。つまり、姉さんはこのワイのマスターっちゅうこっちゃ」

「え、ちょ、ちょっと待って! アタシは支配者になった覚えなんてないわよ?」

「ワイのトリガーを引いたやろ?」


 あの時か。確かにアタシはフェイに向けてこの銃の引き金を引いた。しかし、アタシの記憶が確かならば、声自体はそれよりも以前に聞こえていた気がする。


「それは姉さんが神器の守護者に選ばれたからやな。神器に選ばれ、神器を使う事を許された者、それが神器の支配者やねん」

「そんな勝手が許されるとでも?」

「許されるも許すもあらへんねん。神器の守護者の状態なら、まだ引き返す道もあったかもしれん。けどなあ、神器の支配者になったのは運命としか言いようが無いねん」


 随分と都合のいい言葉であり、これまた随分と勝手な言い分である。こちらの都合などお構いなしということか。それが運命というならば、それに抗うこともまた運命という事にはならないだろうか。

 運命を受け入れる事が間違っているとは言わないが、それに抗うこともまた間違いではないはずだ。アタシは納得がいかない事をはいそうですか、オッケーオッケー、と容易く受け入れる事は出来ない。


「アタシの考え方、間違ってる?」

「そうやなあ……」


 しばし考え込むブルさんが出す答えに、果たしてアタシは納得が出来るだろうか。不安と期待が混ざり合ったこの胸のもやが無事に晴れる事を祈ってみようか。


「半分は正解、半分は言い訳じみたわがままってトコやね」

「はぁ?」


 もやは晴れるどころか更に霞がかっていく。


「人は生きていく上でいくつもの選択を強いられる時がある。その時にあっちの道を歩いていれば、とか思う事もあるやろう。けどな、選択を誤って後悔する事も運命やねん。それを受け入れる事で、人は強くなっていくんと違うか?」


 その言葉を咀嚼し、反芻し、ようやく胸のもやが消し飛び、脳天からつま先までが晴れ渡っていくような錯覚に陥った。

 この世に生を受けた事に意味があるとするならば、それは一言でいえば『運命を生きる』という事になるだろう。やり直しの効かない、一度きりの選択を繰り返しながらも一歩一歩とその足を前に向ける。そうして人は成長していくのだ。


「抗うでもなく、諦めて受け入れるでもなく、手を取り合って共に歩むこと、それが存在理由であり存在意義である。そんな感じかしらね?」


 誰に向かって言うでもなく、アタシは無機質な船内の壁にもたれ掛かったまま天井を仰ぎ呟いた。




 操舵室へ向かうと、そこではシンが誰かと通信を取っていた。邪魔をするのも悪い気がしたが、このまま聞き耳を立てているのも気が引ける。さて、どうしたものかと思案していると、背後から肩をツンツンと突かれた。振り返ると、そこにはクリスが立っており、手招きされるがままに給湯室へと向かう事になった。


「何よ、こんなトコに誘い込んで。仕事の合間のOLじゃあるまいし」

「たまにはこういう雰囲気を味わうのもいいじゃない。それはそうとして、シンが誰と会話してるのか気になる?」

「そりゃあね。ま、どうせシンから言って来ると思うけど」

「多分ね。でも、さっき少しだけモニターを横目に見たんだけど、相手は二人みたいよ」

「二人?」

「そう。モニターにマルチウィンドウで開かれていたワケ」

「で、誰なの、相手は」


 せっかく給湯室にいるのだから、何か飲もうとカフェ・オ・レを二人分注ぐ。心地よい甘みが疲れた脳をまどろませていく。


「相変わらずアンタの淹れたカフェ・オ・レは甘すぎ。ウィンドウの一つは真っ黒だったから誰か分からなかったけど、もう一人はアンドロメダ銀河役所のリックさんだったわ」

「ふぅん、なるほどね。そうなるともう一人は多分……」


 ある程度の目星は付いている。シンとリックを結びつけるキーワードはパルティクラールだ。とすれば、もう一人もパルティクラールのメンバーであると考えるのが妥当であり、それはウチの昼行燈か、あるいはミスターか、そのどちらかであるとみるべきだろう。

 ケイはアストと行動を共にしているのだから除外対象として、他に思い当たる人物と言えばピカちゃんくらいか。しかし、ピカちゃんが誰かと行動を共にするイメージは無く、むしろ単独行動を好んでいるように思える。


「パルティクラールの事はアタシ達には分からないからシンにお任せしましょ」

「それもそうね。ところでレイア、さっき誰かと話してなかった?」


 おう、見られてた。でも、確かクリスもあの時、ブルさんの声が聞こえていたのではなかっただろうか。確認の意味も込めて、ハンドバックからブルさんを取り出してみせた。


「これよ。トーラス・レイジングブル……ブルさんよ」

「はぁ?」


 おもいっきり怪訝を顔全体で表したクリスに、アタシは自分の記憶違いだったかと論を待たずに神器である事を説明する。


「それって確か、DOOMが持っていた神器よね? それがどうしたワケ?」

「どうって、うーん……神器に選ばれた時点で神器の声を聞く事が出来るのね。そんでもって、フェイに向けて撃った事でアタシが神器の支配者になっちゃったのよ」

「それでその神器と会話が出来るってワケ?」

「そゆこと」


 相変わらずクリスは話が早くて助かるわ。しかし、どうにも違和感があるのは本当にアタシの気のせいなのだろうか。

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