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第1話 Maybe・it was・fated(Ⅰ)

 ロイス・ジャーナルへと帰社するやいなや、取るものも取りあえずアストが先行している惑星ロキへと向かう準備に追われていた。手はずも段取りもあったものではなく、アタシはもちろんの事、クリスとシンも気ばかりが急いてしまっていた。


「おいおい、みんな何をそんなにあわてているんだい?」


 編集長の呑気極まりない声に苛立ちを隠せなかったが、事は急を要するためにかまっていられる余裕などなかった。そんなアタシを慮ってか、クリスが代弁者を務める。


緊急事態エマージェンシーなのよ、これから惑星ロキに行かなくちゃならないワケ」

「ロキに? あそこへは確かアスト君が向かっているんじゃなかったかい?」

「そのアスト君からのSOSです。どうやらとんでもないスクープを得られそうですよ」


 とんでもないスクープには違いないだろうが、それは同時に多大なる危険を孕んでいる。

 確かにアストが掴んだネタは驚嘆すべきものであり、ともすれば歴史が覆されるほどのビッグニュースとなるだろう。しかし、それを由としない者があまりにも危険で強大すぎる。何せ相手は神を名乗る者なのだから。


「アタシ達が行ってどうなるものじゃないかもしれないけど、向こうにはベルカ・テウタがいるのよ。そしておそらくフェイもね」


 アストの話が本当なら、サヨコにも一報を入れておく必要があるかもしれない。とはいえ、物凄く胸が痛む内容だから、やっぱり伝えない方がいいのか悩みどころだ。

 フェイ、いや、ユングが何を考え、何をなそうとしているのか、それについても知らなければならない。しかし、それ以上の疑問がある。なぜ、アタシ達がフェイの姿を見てユングだと気付かなかったのか。いくら髪形や服装が違っていたとしても同じ顔なら気づくはずだ。確かに口調や雰囲気はまるで違っていたが、それにしても不可解な事が多い気がする。

 気がする、というのもおかしな表現だが、次元改変とやらが行われている実感が無いのだから仕方が無い。それはアタシの周りでは変化が無いからなのかもしれないが、それもロキへ行けば分かる事だろう。


「しかし、あのフェイがユングヴィ・シュトライヒだったとはねえ。という事は彼の妹さんも生きている可能性があるという事になるんじゃないのかね?」


 編集長のくせになかなか鋭いトコを突く。当然アタシもその事は気に懸けていたし、アストも気になる事を言っていたが、通信が途中で途切れてしまったものだから余計に気になる。

 フレイさんが生きているのなら、教授に送られてきたメールの送信者が本人である可能性はますます高まってきた。しかし、そのフレイ・シュトライヒに会うためにはどこへ行けばいいのか皆目見当はつかないが、手掛かりは惑星ロキにある、そう信じて行くしかないか。


「君達が取材へ行っている間にこっちでも情報を集めておこう。アルバート教授にも話をつけておくから君達は君達のするべき事をすればいい」

「初めて編集長らしい事を言ったわね」

「それはないよぉ、レイアちゃぁん」


 アルバート教授に任せてしまった暗号の解読も気になっていたが、編集長が取り成してくれるならありがたい。そしてもう一人、かなうならば同行してもらいたい人物にも連絡をつけなければならない。


「クリス、サヨコにアポ取れそう?」


 サヨコにとっては辛い現実になるかもしれない。本当に心苦しいのだが、やはり志を共にする者同士、真実を知る責務があるだろう。

 一足先に粗方の準備を済ませていたクリスにアポ取りをお願いしていたのだが、色よい返事は得られなかった。


「それがどうやらモバイルの電源を切ってるみたいなの。もしかして今って生放送中なワケ?」


 配信コンテンツを巡回してみたものの、放送していた番組はバラエティーやドラマやアニメばかりで、報道番組は放送されていなかった。


「もしかしたら打ち合わせ中なのかもね。着信を見て折り返しの連絡があるかもしれないけど、そんなに悠長にしてられる状況でも無いからアタシ達は先を急ぎましょ」


 幸いにも会社の所有物であるシャトルも無事にオーバーホールが完了し、移動手段に困る事も無く、いつでも旅立てるのだから善は急げのタイム・イズ・マネーである。

 サヨコの件はクリスに任せ、シャトルに関してはシンに任せるとして、さてアタシは何をするべきか。通信が途切れてしまったアストに連絡を入れようにも、アタシから連絡を入れるのもなんだかしゃくだし。

 あーだこーだと思案しているうちにシャトルの準備が整ってしまったようで、アタシはまとまらぬ考えを抱えたまま荷物を運び込んだ。


「そういえば……」


 ふと、愛用しているハンドバッグを覗き込み、一丁の拳銃を取り出す。

 トーラス・レイジングブル……神器と呼ばれるコレの声をアタシはあの時確かに聞いた。しかし、あれ以来コイツの声は聞こえてこない。ただの幻聴だったのかとも思ったが、アタシ以外にもあの声を聞いている人がいるのだからそれはあり得ないか。


「おーい、ブルさんやーい、聞こえてるー?」


 戯れに語りかけて見たが、なんつーか、我ながらアホらしい光景だと苦笑してしまう。


「やっぱり錯覚か何かだったのかな……」

「やっと呼んでくれたんかいな。遅いで、自分!」

「ふぇっ!?」


 突然聞こえてきた声に驚き、素っ頓狂な声を出してしまった。誰かに聞かれてやしないかと辺りを見回すが幸いにも誰もいなかった事に安堵の胸を撫で下ろす。

 やはり幻聴や錯覚などではなく、この神器の声だったのだ。しかし、なぜアタシは神器の声を聞く事が出来るのだろう。


「えっと、ブル……さん? でいいのかしら?」

「おう、そうやで。アンタが呼んでくれるのをずーっと待っとったんや。色々と聞きたい事があるんやろ?」


 まるで心を見透かされているようだが、この際、洗いざらい聞き出してみよう。

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