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第1話 We knew・mysterious・SISTER(IV)

 惑星ロキにはアストが先行している。いずれにせよ、最終的には行かなければならない。この事実を好都合と捉えるか、それとも何かが仕組まれているのか。

 このメールの送り主が本物のフレイさんなら信頼しても良さそうだが、もしも別の誰かがなりすましているのだとしたら、そのなりすましがフェイならば……いや、その可能性は無いか。フェイなら正面切ってやってくるだろう。

 ええい、今ここでゴチャゴチャ考えていても時間を無駄に浪費するだけだ。この暗号の前半部分は道すがら考えればいいだろう。


「ロキへ行く準備をして。多分、急がなきゃならないわ」


 アタシの発した言葉に、いち早くアルバート教授が反応する。


「急いては事を仕損じる、少し落ち着きなさい」

「でもっ……」

「確かに、こうして暗号文にしてまで送ってくるというのは、何かしらの危険を感じての事じゃろう。しかし、もしも危険がそこまで迫ってきておるのなら、暗号文にする必要はないじゃろう?」


 そう言われればそうだ。

 緊急ならば要件を素直に送ってくるだろう。わざわざ暗号文にする理由……それはつまり、誰かの目を欺くためだろう。ならばそれは誰か。


「フレイさんは誰かに監禁されている……?」

「あるいは人質……かもね」


 クリスの推理もありうる。


「シンはどう思うワケ?」

「監禁されているという事は、何か重大な秘密を知ってしまったのか、監禁している存在──────便宜上、犯人という呼び方で差し支えないか──────にとって不利益な情報を持っているからだろうね。それならすぐに始末されてもおかしくない。クリスの言うように誘拐だとしたら犯人の目的が達成されるまで殺される事は無い。が、それなら連絡手段は無いと考えるのが普通だろう」

「その言い分だと筋が通らないわね。それとも監禁、誘拐、そのどちらでもないって事かしら?」

「おそらくフレイ・シュトライヒを殺す事が出来ない人物が軟禁しているのだろう」


 フレイを殺す事が出来ないとなると該当する人物は一人しかいない。


「ちょっとこれを見てくれ。データを転送しますので教授もどうぞご覧になってください」


 白衣のポケットから取り出した小型のメモリードライブをアタシのPCにセットし、データを転送する。メモリードライブから取り入れたデータをアルバート教授へと送信し、データファイルを開くとそこには驚くべき人物の写真が添付されていた。


「この写真って……アルバート教授から預かった……?」

「そうだ」

「教授……この写真って三百年前と仰ってましたよね?」

「ああ、そのはずじゃが……これは……」

「それはおかしいわレイア! これが三百年前の写真だって言うならなんで……なんでここにユングが写ってるワケ!?」


 端正な顔つきに似つかわしくない精悍な鋭い目つき、白衣の両ポケットに手を突っ込んだまま斜に構える立ち姿、それは間違いなくアタシ達が知るユングヴィ・シュトライヒその人だった。

 教授はこの写真がJ・D・Uの結成当時のメンバーだと言っていた。この写真の人物がユングだとするならば、それはユングがJ・D・Uのメンバーだったという事を指している。だが、他人の空似という可能性もある。しかし、それにしては遺伝子レベルで似すぎている。


「これだけじゃない。こっちも見てくれ」


 そう言ってシンが画像をスライドしていくと、さらに驚くべき人物が現れた。


「これは……フェイ……!」

「フェイじゃと?」

「教授はフェイを御存知で?」


 画面の向こうでアルバート教授がPCのモニターを睨みつけていた。

 J・D・Uは、後にその名を残しつつもフェイの手によってパルティクラールという組織へと変貌していく。そこからの派生組織としてユグドラシルがある、というのがアタシの認識だが、正確な情報はいまだに掴めていない。さながらそれはオールトの雲であり、それすなわちフェイという存在そのものである。

 超巨大犯罪シンジゲートとして一般的に認識されている『オールトの雲』は、実質フェイが自らのクローン達を操って暗躍している、と言ってはみたものの、自分でも何を言っているのか分からない。てゆーか、フェイという存在が意味不明なのだから、考えるだけ無駄というものだ。

 それよりも、だ。

 アルバート教授がJ・D・U、つまり、パルティクラールの元メンバーならばフェイはともかく、シンとも面識があるのではないだろうか。この際、その辺りも少し探りを入れてみよう。


「ところでシンはアルバート教授とは面識がある?」

「いや、今のボクには面識がないが、以前のボクにならあるはずだね。でも、記憶は残っているよ。アルバート教授もパルティクラールの一員でしたね」


 プロジェクターの向こうのアルバート教授は、モニターを見つめたまま、険しい表情を崩すことなく答える。


「……そうか、君はオリジナルのシン君のクローンか。フェイが生み出した技術も少しは役に立ったと思えば……いや、皮肉にもならんのう」


 永遠の命。それは確かに、人類に限らず生きとし生けるもの全てにとっての命題なのかもしれない。

 神をも恐れぬ行為を平然となしとげたフェイは、確かに神と比肩したと言えるかもしれないし、自らを神と呼称するのも分からなくはない。しかし、アタシにはどうしても奴の不遜な態度が気に入らない。要するに偉そうな態度が気に食わないのだ。

 ま、それは冗談として。

 組織間の抗争が一般社会の裏で行われていたという事実があり、その抗争は知らずのうちに世界を動かしていた。その中心で暗躍していた人物こそがフェイである。流れに身を任せるがごとく深く関わってしまったが、果たしてこれは運命なのか、それとも……


「教授、アタシ達はロキへ向かいます。申し訳ないのですが、暗号の解析をお任せしてもよろしいでしょうか?」


 恩師に仕事を頼むとは我ながら厚かましく思うが、人格者である教授は快く引き受けてくれた幸運に感謝しつつ、自分がやるべき事に全力を注ごう。

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