第1話 We knew・mysterious・SISTER(Ⅰ)
ロイス・ジャーナルへと戻って来たアタシ達は、早速アルバート教授から預かってきた写真を解析する。と言っても、解析するのはシンの仕事なのでアタシとクリスは暇を持て余していた。解析結果が出るまで時間も掛かりそうだったので、少し遅めのランチがてら二人でププリエに行くことにした。
「そーいえばクリス、ユングの妹がどうとか言ってたわよね。ソレってどういう事?」
ジェノベーゼパスタをずぞぞっとすすりながら気になっていた事を聞く。ん、んまい。やっぱここのジェノベーゼは最高だ。エビとアボカドがいい感じ。
「ちょっと、パスタの食べ方! レディならもっとおしとやかに食べなさいよ」
「うっさい! どう食べたって味は変わんないわよ。で、どうなのよ?」
カルボナーラパスタをスプーンの上でくるくると器用に巻きながら、フォークで一口大の大きさにまとめて慎ましく食べるクリスに話を急かせる。
「実験があった研究室で彼女を見たっていう話を聞いたのよ。信じられる?」
信じられるわけが無い。あの事故の生存者はいないのだから。いや、正確には行方不明者扱いか。遺体が一つとして発見されなかった事が最大の理由なのだが、どうにも不可解である。
「そうねぇ……」
ジェノベーゼを食べる事に集中して返事もおろそかになっていたが、あらかた平らげてフォークを皿の上で遊ばせながら考察をまとめる。
「つーかさぁ、その妹さんの名前って知ってる?」
「えーっと……なんだ? ワタシも知らないわ。でも、サヨコなら知ってるんじゃない?」
まだ半分以上残っているカルボナーラをフォークでくるくると一口大にまとめあげながら言うクリスの返答に、確かにそれは有り得ると一応の納得は出来た。
しかし、だ。
サヨコがユングの家庭環境を熟知していたかどうかは知らないが、家族構成くらいは知っていても不思議はない。確かに今回の依頼には妹の存在の有無は関係なかったが、ここに来て事情が変わってきた。
「サヨコにもう一度話を聞かなきゃならないわ、できれば直接会って、ね」
「会うって言ったって、超売れっ子ニュースキャスターにそう簡単に会えるワケ?」
「さあ? とにかく行けば何とかなるんじゃない。つーわけで、ちゃっちゃと食べちゃいなさい」
「ちょい待ち、レイア! アンタなんか忘れてない?」
「何よ、何を忘れてるって言うのよ」
「レウケー」
「レウケー?」
すっかり忘れていた。シュトライヒ・ツリーの枝の先に咲く花、レウケーにまつわる噂ってヤツも依頼内容に含まれていたっけ。
「そういや、あったわね。とどのつまり、ロストオーバーテクノロジーを調べていけばユングの足取りを掴めるって事よね?」
「うーん……そうなればいいんだけどねぇ」
自分で言っておいてなんだが、会話の中でも不可解な違和感を覚える。
ユングの足取り……
アタシもどこかでユングが生きていると確信しているのか……?
「ねえクリス、あの実験に立ち会った人数って分かる?」
クリスが得た情報が本当ならば、ユングの妹は生きている事になる。という事は他にも生存者が存在している可能性がある。その生存者を探し出せば何か有益な情報を得られるかもしれない。
「あの実験は非公開のモノよ。おそらくだけど、本来ならユングとサヨコの二人だけだったと思うわ。でも、サヨコの都合がつかなかったため、ユングの妹さんが代理参加したんじゃない?」
「つまり、ユングを含めて二人で十分だった、と。ふむ、それならば、何故ユングは別日にしなかった? サヨコでなくてもよかった?」
「あるいは、その日でなければならなかった、とか?」
実験が行われた日が関係しているのか、あるいは何か理由があるのか、それはユングにしか分からないことなのか、それともユングの妹さんやサヨコも知っている事なのか。
「サヨコに聞いてみる?」
「シンの解析結果が出るまでまだ時間がかかりそうだし、電話してみるのもいいんじゃない?」
いまだにカルボナーラをちまちま食べながら話すクリスに若干イラつくが、確かにサヨコにはもう一度話を聞く必要性はあると思った。だが、それは電話では意味をなさない気がする。
「出来れば直接会って話を聞きたいわね」
「それは無理じゃない? 相手は超売れっ子キャスターよ」
「ワン切りの電話に即リプするくらいだから意外と時間をもてあましてるかもしれないわよ?」
お昼を過ぎた今の時間帯なら、少しくらいならば都合がつくのではないだろうかと思い、おもむろにモバイルを取り出してサヨコに連絡を入れてみる。何度目かのコール音が鳴った後に、少し慌てた感じの声が聞こえてきた。
「はい、もしもし」
「あ、ごめん、忙しかった?」
「あら、レイア。ごめんね、ちょっと打ち合わせをしてたのよ」
「あらら、それは申し訳ない。その打ち合わせが終わったら少し時間取れない? ちょっとだけ会って話したい事があるんだけど」
無理は承知のアポ取りだが、こんな事は何百回と繰り返してきた。ダメならダメで諦めもつくと言う事は百も千も承知だ。いつだって最悪の事態を想定しながら突撃アポ取りを敢行するから、メンタルが鍛えられるというものだ。
「そうね……この打ち合わせが終わったら二時間ほど空いてるから、そこなら大丈夫かな?」
「マジで!? なら、その時間を少しだけ貰えないかしら。聞きたい事があるのよ」
「あら、依頼の定時報告じゃなくて?」
「それも含めてね。場所はどこにする?」
「実は今、惑星プシュケにいるのよね」
「プシュケ? 何で?」
素っ頓狂な間抜け声がププリエ中に響いてしまい、店員はおろか、食事を楽しんでいた客達の視線を一身に浴びてしまった。これはさすがに恥ずかしい。
「至聖宮の管理者にインタビューするためにね。今晩放送予定よ」
「至聖宮の管理者って……ルキフ・ロフォに?」