第2話 Meet・Again・Fantasy&Calamity(Ⅲ)
「まあ、そんな事よりも、だ」
カイルさんを追いやり、テーブルに肘をついたケイさんが僕に向き合う。
「俺とアインは夕闇の国へ行く。さっきの話から察するなら、お前も来るんだろ?」
夕闇の国という事はフレイア様に用事があるという事だろうが、これはこれで好都合だ。しかし、僕にはもう一つ目的がある。
「フレイア様に話を聞くためにも夕闇の国へは行かなければならないと思っていました。そしてその後に僕は常夜の国へ向かおうと考えています」
「あそこへ行くつもりか? 廃墟になっていると思うが……」
アインさんが言うあそこというのは、以前僕たちがフェイやDOOMたちと戦ったホムンクルス精製施設の事だ。正確に言うならその跡地なのだが、おそらく完全に瓦解してはいないであろうという希望的観測の元、あの機械だらけの部屋がどうしても気になっていたのだ。
「ええ。ただ、一人で向かうには少し……というかかなり心細いので……」
「お前にはルードの指輪がある。その神器は使い方によっては最強だ。とは言え、あそこにフェイがいないとも限らねぇ」
「そうなんですよね……」
「それよりも、だ」
会話を遮るようにアインさんが堰を切る。
「何故あの施設に行く? あそこはフェイがホムンクルスを産み出すための施設だ。取材だとはいえ、それを記事にして何になる?」
「僕は思うんです。何故フェイはホムンクルスを造るのか、と。そして、ホムンクルスという存在は何なのかと」
「君はフェイの言葉を信じるのか!?」
「僕は僕自身が見聞したものを信じます」
アインさんの鋭い眼光が突き刺さるが、僕はその視線から目を逸らす事は出来ない。してはいけない。レイアさんからの教えであり、僕がジャーナリストとして存在するための矜恃なのだから。そんな僕の思いを汲んでくれたのかは分からないが、アインさんの表情が一瞬崩れ、すぐに真顔に戻して話しだした。
「それならば俺達と共に来い。フェイという奴が何者なのかを知るための鍵を握っているのはフレイア様だと俺達は確信している」
「フレイア様が?」
フレイア様とフェイにどんな接点があるのか、俄然興味が湧いてきた。
「興味を引くネタだったか?」
「へ?」
ニヤリと目を細めるケイさんの一言に思わず声を出してしまったが、やはりこの人には全てを見透かされているような気がした。
「さっきカイルが言いかけていた事があっただろう。それも多少関係する」
「フェイの肉親の話ですか?」
カイルさんがフェイと血が繋がっていないという事にはまだ腑に落ちない点がいくつかあるが、それを繋ぐ鍵をフレイア様が握っているのなら会わないという選択肢はない。
「カイルに聞いた話では、フェイには妹が一人いたそうだ」
その言葉に思わずハルさん達に目をやってしまった。カイルさんが三人にもみくちゃにされていた。少しだけ羨ましい。
「あの三人のうちの誰かなのか、それとも他にいるのか、まだ生きているのか、それとももう死んじまってるのか……」
「それをフレイア様が知っている、と?」
「いや、分かんねぇ。でも、何かは知ってるだろう。なんたってこの惑星の生き字引だからな」
なんという行き当たりばったり感。でも、なんとなくケイさんらしい。
「わかりました。では出発はいつにしますか?」
「それなんだがなぁ、一つ問題があるんだわ」
眉をひそめているとアインさんが耳打ちをしてきた。
「実はこの事をミリエスタには伝えておらんのだ。あいつの性格上、話せばついてくるだろうからな」
「それが何故問題なのですか?」
「ゲートの管理はミリエスタが行っている事は知ってるな?」
「あ」
つまりゲートが使えないという事は渡航手段が無いという事だ。
「シャトルとかは無いんですか?」
「オレ達の船はメンテナンス中だ」
メンテナンス中とあっては仕方がない。宇宙船は一回あたりの航行距離が長距離になってしまうため、損傷がどうしても激しくなる。
「確かシンの奴が自前の宇宙船持ってたよな? アイツに頼めねぇか?」
「シンさんはレイアさん達と取材に行ってますね。そっちが終わらない限り、すぐには来れないでしょうね」
「なら、しゃあねぇ。この手は使いたくなかったが、アイツらに頼むか」
ミリューさん達に会話を聞かれて感づかれる可能性を考慮して部屋の外に出ようとした時、ジェフさんから行き先を問われたがトイレに行くと適当にごまかし、アインさんの部屋へと向かう。
どうやら宇宙船を所有している知り合いが居たようだが、あまり釈然としない顔をしているのはどうしたことだろう。まさかパルティクラールのメンバーとかだろうか。袂を分かった相手なのだから、それは頼みにくいどころか袖にされるのが関の山だと思うけど。
「よぉ、この間は世話になったな。実はアンタにとってもイイ話があるんだが、どうだい、一口乗らねぇか?」
ケイさんのモバイルのむこうからは怒号にも似た叫び声が漏れ聞こえてきた。
「てめぇ、どの面下げてアタシに連絡よこしやがんだ、あぁ!?」
想定外の相手にしばらく空いた口がふさがらなかった。