第2話 Meet・Again・Fantasy&Calamity(Ⅱ)
捉えられた猫のごとくやってきたテーブルで、カイルさんが椅子を引いてここに座るように促してくれたので、ご厚意に甘えて座る事にした。そもそも本来の目的は彼らとの作戦会議なのだから、あちらの世界には潔く別れを告げよう。さらば、花園よ。
「カイルさん、お久しぶりです」
「やあ、アスト君。その節は世話になったね」
「カイルさんもお変わり無さそうで。あ、そうだった、実はカイルさんにお伺いしたい事があったんですよ」
「お、それは取材ってヤツかい?」
「ええ、まあ。そんなトコです」
意外にも乗り気なカイルさんに助けられた部分もあったが、レイアさんのようにスムーズに取材へと持っていけただろうか。
レイアさんがサヨコさんから伝え聞いたという『魔法術』について実は僕なりの考察がある。カイルさん達が操る力は精霊の力を借りているというが、果たしてその力をどのような経緯で得たのか、あるいは生まれ持った能力なのか、それとも……
「それでは少しだけお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ベルトポーチの中からボイスレコーダーとタブレットを取り出し、タブレットのメモ機能を起動させる。
「何を聞かれるんだろうね、少しワクワクするなぁ」
「カイルさん達は精霊の力を操ると言う事ですけど、その精霊の力はどのような経緯で得たのですか?」
おそらく想像していた質問ではなかったのであろう、その表情から期待感は薄れ、目をひときわ大きく見開いた。
「おぉ……そんな事を聞かれるとは思ってもみなかったよ。まぁ、経緯と言うほど大層な事じゃないんだけど、フレイア様から授かったものだよ」
さも当たり前のように言われてしまったが、それは想定の範囲内だ。なぜなら、カイルさんがそう答えるのは分かっていたからだ。僕が本当に知りたいのはこれだ。
「なるほど。では、その精霊の姿を見た事はありますか?」
「精霊の姿か……いや、それは無いな。でも、声を聞いた事はあるよ」
考察が正解へのルートを辿っているかもしれない。これは大きな言質だ。
「そんな事を聞いてどうするんだい? 興味本位だっていうのならこの取材はお断りさせてもらうよ?」
「いえ、興味本位というよりは僕の考察との答え合わせ、といったところでしょうか」
「答え合わせ……?」
まだ確信ではないけど、おそらくそれらは神器の力ではないだろうか。もしも精霊というものが存在するならば、彼らの力が魔法術である可能性は否めない。つまり、魔法術とは精霊の力を借り受けて扱う異能力ということになる。当然ながらフェイの力もそうなるのだろうが、それならば僕のこの力は何なのか、となってくる。
確証を得るためにはやはりフレイア様に会うしかない。しかし、精霊の力と神器の力には『声が聞こえる』という共通点があることもまた確かな事だ。
「解答を得るのはもう少し先になりそうですがね。あと、もう一つだけお伺いしたい事があるのですが」
「なんだい、それも取材なのかな?」
「いえ、これはオフレコです。以前お会いした時にカイルさんはフェイと従兄弟、いや、兄弟だとおっしゃっていましたが、それは本当なのですか?」
当時から違和感のようなものはあったが、この答えはすぐに得られそうだ。僕の質問を受けたカイルさんの顔色がみるみる青くなっていった。
「その事か……今考えてもおぞましい出来事だったが、どうやら俺達はヤツに記憶を改ざんされていたらしい」
「記憶を?」
「ああ。全てが終わったあの後、村に戻った俺達は十日間ほど眠ってしまったそうだ。疲労からなのか原因は分からないけど、その間フレイア様が付きっきりで診てくれていたそうだ。目覚めたときには、これまたどういう理由なのかは分からないが、記憶は元に戻っていたんだよ。そして……フェイの本当の家族、血の繋がった者が誰かも思い出したんだ」
「それは……?」
カイルさんが視線を逸らす。その視線の先に目をやると、ハルさんがこちらに向かってヒラヒラと手を振っていた。視線を交わすだけで通じ合っている二人を見て、微笑ましくもあり羨ましくもなったところを隣にどっかとケイさんが座り込んで視界を遮る。
「カイル、取材は終わりだ。ちょっとばかり向こうへ行っててくれねぇか」
「え、オレだけ仲間外れかよ?」
「お前にはハーレムがお似合いだ。ほら、行った行った」
渋々ながらカイルさんはハルさんの隣へと向かっていった。
「あっちの世界にはカイルをくれてやる。いいか、あっちは別世界だ。俺達が住んでいい世界じゃねえんだ。俺には縁のない世界、お前にはまだ早い世界だ」
「ではアインさんは?」
「アインは別世界に生きる男だ」
実の妹であるミリューさんを溺愛する兄……それがアインさんだ。