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iDENTITY RAISOND’ETRE 第三部  ~銀河樹の枝のその先に~  作者: 来阿頼亜
第2章 女は度胸、男も度胸! (元気があれば何でもできるかもしれない)
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第1話 Influencer・Blast・Mystery(Ⅳ)

 三百年も前に撮影された写真というなら、ここに写っている人物達は既に鬼籍に入っている事であろう。合掌。


「この写真が何か……?」

「よく見てみたまえ」


 言われるままに写真を隅から隅までガン見するが、いかんせん、人物までの距離が遠すぎて顔の判別までは困難を極め、かろうじて着衣が確認できる程度である。いや、待てよ。


「この人物が着ている服は白衣……?」


 もう少し解像度を上げれば詳しく分かるか。シンなら会社のパソコンを使ってどうにかしてくれるかもしれない。


「教授、この写真をお借りしてもよろしいですか?」

「君に任せた方が良さそうじゃな。私の方でもいろいろ調べたんじゃが、どうにも腑に落ちんので、君達の方でも調べてくれんか。もちろん、タダでとは言わん。これは、私から君たちへの仕事の依頼じゃ」

「分かりました。では、これは一度持ち帰らせていただきます。幸いにも我が社には優秀な科学者モドキがいますので。しかし、この写真を教授がお持ちでいらっしゃるという事はつまり……」

「察しの通り、私はJ・D・Uのメンバーじゃったよ。私の口からは言えぬ事じゃが、君の身近にいる人物にも元メンバーがおる。察しのいい君の事じゃから、ある程度の目星をつけているのかもしれんがのう」


 察しがいいのはあなたの方だ。そう喉元まで出かかった言葉を飲み込み、三日後にまた来る事を約束した。

 部屋を後にしたアタシは、待ち合わせの時間に若干の余裕がある事を確認し、自販機でカフェ・オ・レを購入して二人を待つ。程なくしてシンが合流し、少し遅れてクリスもやってきたところで、近場のベンチに座って情報交換を行うことにした。

 アタシが得た情報に、やはりと言うべきかシンは物凄い勢いで食いついてくるものだからタチが悪い。暫く黙っていてもらう手段として例の写真を贄に差し出した。


「この写真は……うーむ……なるほど……よし、戻り次第精査しようじゃないか」


 よし、作戦は成功。取りあえずクリスから成果を聞く事にしよう。


「ねぇ、アルバート教授は相変わらずイケメンだった?」


 開口一番に出てくるセリフがそれかい。


「まぁ、相変わらずのイケオジだったわ。つーか、そっちの成果はどうだったのよ?」

「イケメンレベルは確かに上がっていたわ」

「そうじゃなくて!」

「はいはい。ユングの事を知っている生徒はほとんどいなかったわ。でも、たった一人だけユングの研究について調べていた人物がいたワケ。どうよ? これだけでも十分に成果をあげてるとは思わない?」


 ドヤ顔と共にウインクを見せてくるクリスを今日ほど張り倒してやろうと思った事は無い。しかし、それなりの仕事をこなしてきた事だけは評価してもいいか。


「で、その稀有な人物って誰なのよ?」


 ふふん、と一息勿体つけるクリスに苛立ちが増すが、ここは少し大人の対応を心掛けよう。


「ユングの妹さんよ」

「ちょい待ち。ユングの妹はあの事故の被害者として推定死亡扱いよ。何でその名前が出てくんのよ?」


 あり得ない話に大人の対応など出来るものか。クリスの両頬をつまんで捻りあげてやる。


「いひゃい、いひゃいっれぇ!」

「アホか、お前はぁ!」

「らーっれぇ、ほーゆーはらしをきいらんらもーん!」


 学生たちの間で、まことしやかに囁かれている噂話なのだろうが、裏付けのない話を信じるのはジャーナリストとしては失格だ。とは言え、クリスも一端いっぱしのジャーナリストなのだから、その辺りの事は分かっているのだろう。


「だから、その噂話の出処を掴んだ方が良さそうって思ったワケ」

「なるほどね。確かに、悪意のあるイタズラである線も捨てきれないものね。で、アンタの方はどうなのよ?」


 食い入るように写真を見つめているシンの後頭部を軽く叩き、彼のトリップ先から現実へと呼び戻す。


「はっ!? あぁ、そうか、そう言えば取材に来ていたんだったね。しかしこの写真は興味深い……」

「オーケー、オーケー。あとでゆーっくりと好きなだけ精査してくれればいいから、先にアンタの調査結果を聞かせてくれる?」


 クリスからの報告では解消できなかった違和感の正体をこの男の調査から期待するのは間違っているのかもしれない。しかし、それでも一縷の望みがあるのならそれに懸けてみよう。


「ボクが聞いた話によると、彼はあらゆる分野に精通していたそうだが、特に彼は遺伝子操作学に執着していたそうだ。レイア達は彼と知り合いだったんだろう? その辺りの事は何か聞いていなかったのかい?」


 遺伝子操作学などという、いかにも胡散臭いオカルトまがいな研究を行っていたとは聞いた事は……いや、待てよ。

 確か、シュトライヒ・ツリーは彗星上に植えられた『遺伝子操作』された木の事なのだから、遺伝子操作学とやらに精通していても不思議ではないのか。しかし、彼の専攻分野、専門は……いや、彼には専門分野など無い。と言うよりも、あらゆる分野が専門なのだ。「そうか!」と、思わず声に出してしまったが、いつもの事だとでも思われたのか、二人とも意に介する事も無かった。こんな時にアストが居てくれたなら良い反応をしてくれるのだろうけど、それはさておき。

 ユングに対する違和感の正体が分かった。彼がこのアカデミーに生徒として在籍していた理由が無いのだ。全銀河にも轟こうかという名声を得た彼なら、学生ではなく壇上で教鞭をふるっていてもなんら不思議ではない。それどころか、むしろそれこそが彼の本来あるべき姿だろうし、教授職に就いていた方が研究もしやすいはずだ。この件も含めて、やはりサヨコから話を聞き出してみる必要がある。


「アストのトコへ行くのはもうちょび先か……」

「あらあら~? アストっちに会えないレイアたんは寂ちいんでちゅかぁ~?」


 ニヤニヤといやらしい表情を近づけてくるクリスの頬を無言で張り倒し、醜態を晒したままの馬鹿を置き去りに帰社することにした。

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