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iDENTITY RAISOND’ETRE 第三部  ~銀河樹の枝のその先に~  作者: 来阿頼亜
第2章 女は度胸、男も度胸! (元気があれば何でもできるかもしれない)
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第1話 Influencer・Blast・Mystery(Ⅲ)

 サヨコはもちろんの事だが、アルバート教授が嘘の証言をするとは思えないし、そもそも彼らが嘘をつくメリットが無い。二人ともが真実を語っているのだとすれば、導き出される答えは一つ……語る側が嘘の証言をしているのではなく、語られる側が異なる話をそれぞれにしているのだ。今回のケースで言うならば、ユングはサヨコとアルバート教授にそれぞれ異なる話題を提供しているという事になるだろう。

 人は誰しも表の顔と裏の顔を持つ。その二つの面を使い分けて初めて社会を生きる事が出来る、とは誰の弁だったか。ユングには二つの顔があった、いや、正確に言うならば、彼は異なる研究を同時に行っていた。そして、サヨコとアルバート教授にそれぞれ異なる研究内容を語っていたというところだろう。サヨコにも改めて聞かなければならないが、まずは教授に語った研究内容について聞いてみるか。


「教授、遺伝子進化学について詳しくご教授願えませんか?」

「……この世に存在する全ての生物は、生を受けた瞬間からカウントダウンが始まる」


 教授のシニカルでエッジの効いた独特の喩えに、アタシが少なからず影響を受けたのは言うまでも無い。カウントダウンの先のあるもの……それはつまり死だ。


「シュトライヒ君はそのカウントダウンの速さを抑えよう、あるいはカウントそのものを無くそうと考えていたんじゃろうな」


 どこかの誰かとは大違いである。ヤツの場合はその倫理観が歪んでいる。神への冒涜どころか生命そのものを蔑にしているのだから。

 

「確かに彼の研究が実用化されていたなら、今頃人類は健康体を保ち、尚且つ寿命を延ばすことも可能でしょうね。しかしながら教授、それはサヨコから得た証言とは、明らかに異なる事ではあるのですよ」

「サヨコ君の証言とは?」

「彼女が言うには、ユングはエーテル超粒子力学を応用して魔法術を復活させようとしていたそうです」

「魔法術じゃと!? 何という事じゃ……ロストオーバーテクノロジーにまで手をつけておったとは……」


 どうやら教授はロストオーバーテクノロジーとはなんぞやを知っているようだ。その辺りの事も聞いておけば、今後の取材の材料になるかもしれない。アタシってば抜け目ないわぁ。てゆーか、この際だから教授から聞き出せるものはすべからく全部いただこう。


「その魔法術というモノもさることながらですが、ロストオーバーテクノロジーというモノもサヨコから聞くまでは存在すら知らなかったのですが、それらは一体何なのでしょうか?」


 おそらく、神器もロストオーバーテクノロジーであるという事は漠然と理解している。魔法術というモノは神器の力なのではないかと思っていたのだが、魔法術そのものがロストオーバーテクノロジーだというからには、神器と魔法術は別物だと考えた方が正解なのだろう。


「読んで字のごとく、それらは失われた……いや、正確には失われた『はず』の過去の超科学技術じゃな」

「失われたはず、と言うと?」

「人類では持て余す力、とでも言おうか。知識や技術、経験をどれほど積もうとも、その力の制御は人類には不可能に近い。過去にそれらを生み出した先達はその力を危惧し、それを『器』と呼ばれるものに封印した」

「それがロストオーバーテクノロジー……もしかして、その『器』というものが神器と呼ばれるものなのでしょうか?」

「有り余る力を発動させるための媒介として使用されるものが神器と呼ばれておる」

「つまり『神器』と『器』は別物である、と?」


 そう考えた時、ふいに脳天からつま先へと電流が走るような感覚に陥った。

 惑星プシュケでアタシ達の取材対象は何だった?


「聖櫃……」


 思わず口走ったその言葉にアルバート教授が素早く反応する。


「その通りじゃ。いや、まだ私の推察の域を脱してはいないがのう」


 白髪交じりの頭を照れくさそうに掻く仕草に、わずかに心が震えるがそれよりも気になる事がある。次元考古学の権威である教授なら何か知っているかもしれない。


「ところで教授は『ジョン・ドゥ・アンノウン』という言葉に聞き覚えはありませんか?」


 教授の顔が強張り、それまでの熱が入りながらも穏やかさを保っていた目から温かさが消えたように感じ、アタシの背筋に冷たい何かが流れ落ちた。


「……ジャーナリストである君なら、立ち入ってはいけない領域があるという事は十二分に承知しているのじゃろう。そうと知ってなお、そこに踏み入るという事じゃな?」


 コーヒーを飲みほした教授は、二杯目を入れるために立ち上がり、そのまま自分の机の引き出しから何かを取り出してきた。サイフォンが奏でる音と香ばしい匂いが部屋の中を支配する中、テーブルの上に置かれた一枚の写真が恐ろしいまでに自己主張してくる。

 その写真は正確に言うならポートレートだ。数名の人物が一堂に会し、円形のテーブルを囲むように椅子に座っている。惜しむらくは、その写真がおそらく隠し撮りされたもののようで、人物の顔が判別できない事である。


「この写真は……?」

「ジョン・ドゥ・アンノウンの結成時のメンバーじゃよ。三百年ほど前のな」

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