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iDENTITY RAISOND’ETRE 第三部  ~銀河樹の枝のその先に~  作者: 来阿頼亜
第2章 女は度胸、男も度胸! (元気があれば何でもできるかもしれない)
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第1話 Influencer・Blast・Mystery(Ⅱ)

 大学棟の二十八階まで一人きりで乗り込むエレベーターの中というのは、こんなにも不安でさみしいものなのか。しかも、この惑星のエレベーターは安全性に特化しているため、アタシ達が知るエレベーターよりも昇降速度が遥かに遅い。一階から最上階である三十五階までゆうに二十分は掛かる。はっきり言って階段を使った方がはるかに早く着く。おかげで自然と足腰の鍛錬になるのだが。

 途中で誰かと相乗りするかも、と期待していたが、相反して誰一人として乗り込んで来る者がいなかった事に多少の寂しさはあったが、スムーズに目的地に辿り着けた事だけはどこかの誰かに感謝しておこう。

孤独なリフト・クルージングを経てたどり着いた二十八階にある一室の前に立ち、一息呼吸をついてから軽くドアをノックする。間髪入れず部屋の中から聞こえてきた「どうぞ」という懐かしい声に僅かに胸がすくんだ。


「これは珍しい人が訪ねてきたもんじゃな」

「ご無沙汰しております、アルバート教授。アタシの事を覚えていらっしゃいますか?」


 老人のような口調は癖のようなものなのだろうが、アルバート教授はまだ五十歳手前だったはずだ。確かにそのザンバラ無造作ヘア―にはちらほらと白髪が散見されてはいるものの、実年齢から十歳はサバを読める程のイケオジであることは間違いない。そして白衣がとてもよく似合う。どこかのシンとは大違いである。


「忘れるわけがないじゃろう。あの問題児だったレイア・ルシール君が今では立派なジャーナリストだとはのう。君とよく一緒にいたサクラノ君やエンデバー君は元気かね?」


 教授のこだわりの一つとして、コーヒーは自分で焙煎したものしか口にしないというものがある。どうやらコーヒーを焙煎していた途中らしく、教授はアタシにも勧めてきたので、ありがたく頂戴することにした。

 本当ならカフェ・オ・レにして飲みたいところだったが、教授の淹れてくれたコーヒーにケチをつけるわけにはいかないだろう。ソファに腰掛け、カップに口をつけて落ち着いたところで教授と対面する。


「クリスティアーノ・サクラノとは同僚で今日は一緒にここに来ております。エミリー・エンデバーは……アンドロメダ銀河役所でしごかれてるんじゃないですかね。それより、教授もお変わりなくて何よりです」


 確かにアタシ達は問題児だったかもしれないし、その度にお世話になったのがアルバート教授だったのだから、教授には何を言われても反論できない。


「して、新進気鋭のジャーナリストさんが私ごときに何の御用だね? 私はここ数年、研究論文など発表しとらんが」

「教授の研究論文が発表されたならば是非とも本誌のトップを飾っていただきたいくらいに大変興味深いのですが、残念ながら今回は別件でお伺いしたい事がありまして」


 襟を正したアタシを見て、教授の穏やかだった目つきに熱が入った。


「教授はユングヴィ・シュトライヒの事を覚えていらっしゃいますか?」


 ユングの名を聞いた教授は、一瞬、目を見開いたのち、静かに目を閉じた。


「……シュトライヒ君の実験の事か。彼の事は非常に残念だった。あのような天武の才を持った人間など今後二度と現れる事はないじゃろう。それに、彼の妹であるフレイ君も優秀な学徒だったねぇ」

「本来、あの実験には彼の恋人であるサヨコ・インヴェルスが立ち会う予定だったという事はご存知でしたか?」

「いや、それは初耳じゃな。そもそもあの実験自体が強行的に行われたものじゃからな。ところで、そのサヨコ・インヴェルス君というのはもしかしてニュースキャスターのサヨコ・インヴェルスの事かね?」

「ええ、そうです。アタシの友人でもあります」

「ほほぅ、そうじゃったか! 彼女がこの学校の卒業生だとつい最近知ったのでのう。私も彼女のファンの一人じゃよ」


 女子アナってそんなにモテるんかいな。いや、サヨコだからか。そりゃあ清楚な知的美人がニュースキャスターなどやってれば人気も出るか。まったく美人ってヤツは以下略。


「そのサヨコ・インヴェルスからの依頼を受けて取材しているのですが、彼女が言うにはどうやらユングヴィ・シュトライヒが生存している可能性があるらしいのです。教授は何か御存じありませんか?」

「私はあの実験には何も関与しとらんよ。しかし、彼が生きているというならば、この世界にとっては良い事かもしれんな」


 教授の言葉に若干の違和感を覚えたが、今は取材を進めよう。


「教授は彼が行っていた実験については何か存じ上げませんか?」

「存じ上げるも何も、私と彼の専門分野は畑違いじゃからな。私の専門分野は次元考古学、彼の専攻は遺伝子進化学じゃからのう」

「遺伝子進化学?」


 違和感の尻尾を捉えた感覚、とでも言おうか。何かが決定的に違う。辻褄が合わない。もっと詳しく話を聞かないと正解には辿り着けそうもないだろう。


「学会の連中からは神への冒涜だと叩かれておったが、私は人類の進化に必要な通過儀礼だと思っておるよ」

「具体的にはどのような研究なのでしょうか?」

「私が知る限りでは、人間のDNA……つまり遺伝子を改良して免疫力の向上を図る事によってウイルスへの耐性を高め、病気にかかりにくくする事やけがの回復を早めたりなど、人類のみならずあらゆる生物にとっての希望を生み出そうとしていたのじゃ」


 確かにその研究が実用化されたならば、人類を含むすべての生命体は健康体を長く保ち、尚且つ寿命を延ばす事も可能になるかもしれない。しかし、これまでに得た情報と一致しないとは奇妙な話でもある。どちらかが嘘をついているという事だろうか。

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