一度の願い
突然の嵐で乗っていた船が難破し、たった一人無人島に漂着した男がいた。命は助かったものの、自ら置かれた状況に、男は憂い絶望していた。
生き抜く術を持たない男が途方に暮れ、浜辺をさ迷っていると、何処からか流されてきたのだろうか、足元の砂に半分程埋まった黄金のランプを見つけた。男は何かにすがる様にランプを掘り起こすと、手に取り、まじまじと見つめた。ランプは妖しく光り輝き、その光にはどこか人を魅了する力があるようだった。
思わず男はランプを二度三度と擦ってみた。その行動に何の意味があるのか男自身にもわからなかったが、何故かそうしなければいけないような、そう思わせてしまう不思議な力がランプにはあるのだった。
男がランプを擦った次の瞬間、ランプから煙と共に魔人が現れ、男に言った。
「私を目覚めさせたのは、どうやらお前のようだな。礼に一つだけ願いを叶えてやろう」
魔人の言葉に男は喜びの声を上げた。
「やった!! それは本当ですか!? これで助かるぞ!! 僕をこの無人島から救ってください!!」
男の願いを聞いた魔人は意外そうに言った。
「これは驚いた。そんな願いでいいのか? 金持ちにでも、不老長寿でもいいのだぞ。叶えられる願いは一つだけなのだ、よく考えろ」
「とんでもない!! こんな無人島で金持ちや不老長寿になっても仕方がない!! …実は、僕は今日この無人島に漂着しまして、早くここから脱出したいのです」
「…本当にその願いでいいのだな?」
魔人の問いに、
「是非その願いでお願いします!!」
と、男が答えると、魔人は指先から光を発し、光に包まれた男の身体は半透明となり、徐々に無人島から移動していった。
男が無人島から消え去る間際、魔人は不思議そうに男に言った。
「しかし私には理解出来ない。脱出しようと思えば、自力で脱出出来たのではないか?」
と男の後方を指差し、潮が引き、本島と陸地が繋がった無人島の光景を見た男は、何やら魔人に向かい叫んでいたが、全てが遅く、消えゆく身体では言葉も魔人には届かなかった。