80 泌尿器科クリニック体験記
そうだ。最初から何もかもおかしかった。
君が、君の息子に発疹ができたと告げた時、クリニックの受付の女性はどんな顔をしていたか。
いかにも意外な、場違いな発言を君がしたとでも言うように、目を大きく見開いて、君を凝視していた。
――あたかも不意打ちで卑猥な言葉を投げかけられたとでも言わんばかりに。
その目には、ある種の軽蔑の色さえ宿ってはいなかったか。
たとえば、君が、プロの商売女に、その種の奉仕を求めた時に、商売女がそんな下品なことはできないと言ったとしたら、しかも蔑みと共に言ったとしたら、君はどういう感情を抱くだろう。裏切られたと思うはずだ。君がこの泌尿器科クリニックで直面した体験は、軽蔑に彩られた裏切りそのものに他ならなかった。
いくつもの疑念が君の脳裏に去来したはずだ。なぜ君がこんな目に遭わなくてはいけないのか。診察室に通され、ベッドに寝かされ、どうしても必要だからとはいえ、下半身をむき出しにした屈辱的な姿をさらしている今このときも、いくつもの「なぜ」が君の頭から離れなかったことだろう。
――すべては仕組まれた罠だとでも言うのか?
君の疑念を無視するように、泌尿器科医は黙然とゴム手袋を装着している。冷たい無言が室内を支配し、これから起こるであろう事態への不安と緊張を一層かき立てる。だから君の呼吸はこんなにも荒いのだろうか。
そして、拷問は開始された。泌尿器科医は――拷問吏は――さもうんざりしたように、ひとつため息をつくと、君の息子に襲いかかり、「どこですか? どこですか?」と言いながら、君の患部を探し始めた。乱暴で容赦のない手つきだ。君の息子は――君のかわいいジョニー坊やは――その慈悲の無い冷酷な仕打ちに耐えかねて、かえって半ば立ち上がりかけていた。君は額に脂汗を浮かべながら、「ここです。ここです」と患部を示した。すると医者は、
「……」
不意にぴたりと動きを止め、君に背を向けて、デスクへと向かった。カルテの記入ということか、パソコンへ向かっている。そして君の方を見ようともせずに言った。
「皮膚の異常は専門外だ」
君の心中に狂おしいほどの何かが満ちていく。こんな散々な狼藉をされた挙げ句、そのすべてが、無意味な行為だったと告げられたのだ。それに、医者のさっきからのうんざりしたような態度はどうだ。その態度は、君への軽蔑を如実に語ってはいないか。
「先生」
ゆっくりと身を起こしながら、君は言う。医者が君を見る。
「これだけは言わせてほしい」
「何かね?」
医者の目はあくまでも冷ややかだ。しかし、君はその視線をものともせず、決然とした意思と共にこう言った。
「また来るからな」
君は蔑まれたり乱暴に扱われたりするのが好きな変態だった。




