71 声の主2
人気のない山中で、坂道ダッシュを何十本も繰り返した。
呼吸が苦しく、心臓もバクバク言っている。
そして全身が気怠い。
太ももの筋肉はパンパンに張っている。
完全に肉体の限界だった。
いくら大会を控えた短距離走者だからといって、ここまでやるのはやり過ぎだ。オーバーワークそのものと言っていい。
だが、まだやれる! こんなところでへこたれてはいられない。次の大会は必ず優勝するんだ。そのためにはひたすらトレーニングに打ち込むしかない。
秘密の特訓を再開しようと、俺は足を踏み出した。ところが、
「やめとけ、やめとけ。もういいって。もういい、もういい、もうたくさん! いい加減にしてくれ」
どこからか声が聞こえた。俺は辺りを見回す。誰もいない。空耳だろうか。俺は首を傾げた。
「もういい加減にしろ! お前が俺をこき使うから、俺はもうズタボロのギッタギタだよ! どうしてくれんだ? バカヤロー!」
確かに声がする。俺はその場に立ち尽くし、耳に神経を集中した。
「お前がスポ根漫画かぶれの変態で、いてーのもしんどいのも平気なのはよーく分かった。でもな、はっきり言って迷惑なんだよ、そういうのは! 俺を巻き添えにするな、バカヤロー!」
声は俺の足元からする。俺は下を見た。すると、そこでは――。
「どうしてくれんだ? いてーよ、バカヤロー! コンチクショウ!」
俺のアキレス腱がキレていた。




