70/221
70 声の主
いったいどれくらい走り続けただろう。
自宅を出て、住宅地を抜け、気が付けば山道を走っていた。
自分でもやり過ぎではないかと思う。
いくら大会を控えた長距離ランナーだからといって、町の中から山の中まで走るのはやり過ぎだ。トレーニングの内容として、完全にオーバーワークではないか。
実際、ランニングも短パンも汗でぐっしょり濡れている。荒い息をつきながら立ち尽くす。もう一歩も動けない。このまま地面に倒れ込みたいぐらいだ。疲労困憊そのものだった。ところが、
「ハハハ、もうやめるのか?」
どこからか声がして、俺はギョッとした。
「ハハハ、お前はその程度か? いいや、そうじゃない。そうじゃないはずだ。お前はまだまだやれるよな? ハハハ」
俺は驚きと同時に恐怖を感じた。俺はここまで一人で走って来た。ましてこんな山中に人がいるはずがない。俺は辺りを見回した。
「ハハハ、ここだよ、ここ」
声は下の方から聞こえた。俺は下を見る。すると、
「ハハハ、まだまだやれる、やれるって」
俺の膝が笑っていた。




