51 腹から声を
「面! 面! 面! 面!」
ある剣道場で、剣道着姿の少年が一人、素振りを続けている。
静かな剣道場に、少年の声が響く。木刀が空気を切り裂く音がしばらく続き、そして、
「声が小さーい!」
少年の木刀が何者かの木刀によって叩き落された。少年の背後から滑るような動きで現れたその何者かとは、
「声が小さーい! 気合が足りん!」
この剣道場の師範であった。師範は少年を怒鳴り続ける。
「腹から声を出せ! 腹から声を! そんな気合じゃ敵はひるまん!」
「……わかりました」
少年はそう言うと、剣道着の前をはだけた。白い肌があらわになる。
「貴様、何をやっている?」
剣道師範がけげんそうな顔をする。少年は答える。
「腹から声を出す。やってみます……こふぅー」
突如、辺りに異様な気配が立ち込め始めた。黒いもやのようなものが少年から立ち上り、そして――。
「ハジャンダルジャルンギュルス!」
白目をむいて少年が叫ぶと、少年の腹に横一文字の裂け目が生じ、その裂け目が、くぱあっ、と開いたかと思うと、赤い舌のようなものがレロレロと動き、そして、
「ぼああああああっ! ぼああああああああっ!」
腹から声が出た。身の毛もよだつおぞましい叫び声だった。
剣道師範はぶるぶる震えた。
「なんだ、何が起こっている? なんなんだそれは?」
「ハジャンダルジャルンギュルスだ」
おぞましい腹の口がおぞましい声で答える。
「いや、名前を聞いたわけでは……ああ、なんてことだ、なんてことだ」
剣道師範は尻もちをついた。
「ぼあああああっ! ぼああああああっ!」
「なんてことだ! なんてことだ!」
剣道師範は小便を漏らした。




