5 三流武術師範~殺すつもりで
道場で、武術師範とその弟子たちが鍛錬に励んでいる。鍛錬の途中、武術師範は弟子たちを集めてこう言った。
「今からお前らに実戦形式で稽古をつけてやる。稽古は寸止めで行うが、あくまで実戦形式、殺すつもりでかかって来い。もっとも、何をどうしたところで、お前らに俺を殺すことなどできっこないがな。さあ、まずはお前からだ、一番弟子。いざ、勝負!」
武術師範が弟子と対峙し、構えを取ったその瞬間。シュッ! 弟子の放った拳が武術師範のあご先一寸のところでぴたりと止まった。
「ぬうっ……」
武術師範の顔がサッと青ざめる。しばし間があって、
「やるな! 俺の言いつけをしっかり守って、今日まで鍛錬に励んだと見える。今の拳、まったく見えなかったぞ! さあ、もう一本勝負だ! 今度はこちらからだ!」
武術師範が一気に間合いを詰め、繰り出した拳が、かわされる、かわされる、かわされる。そして、シュッ! 弟子の放った一本拳が、武術師範の眉間の一寸手前でぴたりと止まった。
「小僧……」
武術師範の顔がサッと青ざめる。しばし間があって、
「今の一本拳、小癪にも良かったぞ! 鍛錬の成果ここに極まれり、だ。わっはっはっ、愉快愉快! 痛快の極みだ! いいだろう、今日のところはこの辺で勘弁してやる。次の弟子、前へ! 次はお前に武術の神髄のなんたるかを見せてやろう」
その日、武術師範は何度も殺されかけた。