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14 天使が下界へ舞い降りた

 ある日、天使が舞い降りた。

 真っ白なローブに、真っ白な翼。金色の髪をさらさらと風にそよがせ、瞳には空色の輝きを宿す。そして頭上には、もちろん輪っか。

 天使は下界の街を飛び回りながら、様々な人々に祝福を与えた。捨て犬を拾った女の子に祝福を与え、横断歩道を渡ろうとしていたおばあさんを助けていた青年にも祝福を与えた。

 空は快晴。世界は清らかな善意に満ちていた。そういった人々へ祝福を与えてまわるのが、下界へ降りた彼女の使命なのだ。

 と、そこへ。風の中からかすかな声が聞こえて来るのに彼女は気付いた。

「天使……天使……天使……」

 という、うめきにも似たかすかな声だ。彼女ははたと思い当たった。

「誰かが私の助けを求めているのかもしれない」

 下界で困っている人がいたら、こっそりと手助けをするのが、下界に降りた天使の務めだ。天使は翼をはためかせ、声のする方へと急いだ。

 駆けつけてみると、そこはマンションの三階だった。部屋の窓の外で、天使は止まった。すると、

「サキュバスたん、まじ天使! おほほほおおおおっ!」

 という叫びが響いた。

 窓の内側、部屋の中で、一人のキモデブが、パソコンのディスプレイにかじりつき、ハアハアと荒い息をついていた。ディスプレイには、黒い蝙蝠の翼を生やし、黒い露出の多いコスチュームを着た少女のイラストがでかでかと表示されていて、その少女は胸の谷間を寄せて見る者に迫っていた。この光景に天使は驚く。

「あっ、悪魔崇拝?」

 キモデブは見るからに禍々しいオーラを放っていた。明らかにそれは、浄化すべき対象と見えた。

「い、今すぐ浄化しないと」

 地上にはびこる悪を浄化することもまた、天使に課された使命である。

 天使の右手に不思議な光が集まっていく。それは神の恩寵を原動力とする、すべての悪を滅する力だ。

「で、でも……」

 キモデブはさらに息を弾ませ、エアコンが効いているはずの室内で脂ぎった汗をだらだらとかいている。

「これ以上近づきたくない!」

 天使の悲痛な叫びが響く。己の使命と生理的嫌悪とを秤にかけて、天使は右手の光を消した。

「み、見なかったことにしよう……」

 天使は天界へ帰還した。

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