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116 護身のために

 阿呆とその友人が久しぶりに出会った。友人は阿呆の変わりように度肝を抜かれた。阿呆はムキムキになっていた。Tシャツと短パンがはち切れそうなほど筋肉が盛り上がっている。

「おい、阿呆。お前、その体どうしたんだ?」

「ん? これか?」

 阿呆が上腕二頭筋を曲げると、力こぶと呼ぶのも気が引けるほど、幾本ものロープがより合わさったような筋肉がもりもりと盛り上がった。

「ちょっと鍛えたんだ。護身のためだよ、護身のため。最近、物騒だろ? 身を守るための力が必要だと思ってさ。見てろ」

 そう言って阿呆はそばにあった街路樹の幹をつかんだ。そして力を込める。こめかみにも腕にも手の甲にも青筋が浮き上がり、息を呑むほどのエネルギーを感じる。次の瞬間――。

「破ぁっ!」

 街路樹の幹は粉々になった。阿呆が振り返り、友人を見る。

「どうだ?」

 得意げな笑みを見せる。友人はただただ唖然とするばかりだ。

「こんなのは、まあ、序の口さ。次は――そうだな。あれだ」

 ずしずしと足音を立てながら、阿呆は路駐してあったスポーツカーに近づいた。そして、両手で――大男と化した阿呆にはそれが可能だった――スポーツカーを挟むと、

「破ぁっ!」

 まるで、時々道端に捨ててある空き缶のように、スポーツカーをぺしゃんこの金属の塊に変えてしまった。

「はっはっはっ! どうだ? こんだけ鍛えりゃ、誰も俺を襲ったりはできねえだろ?」

 阿呆の哄笑が真っ昼間の街に響く。友人は我に返った。

「おい、阿呆」

「なんだ?」

「ひとつ、言わせてもらってもいいか?」

「いいぜ?」

「護身、護身て、お前、いくらなんでもやり過ぎだろ! 器物損壊の現行犯やってんじゃねえよ! 今、この街で、お前が一番危険人物だよ! みんながお前から身を守らなくちゃならねえ状況だろうが! お前みたいな普段なに考えてるかわかんねえ奴が武装することほど危険なことはこの世にねえ! 世の中に対する脅威だよ、クソヤロー!」

「な、なんだって!」

 阿呆は愕然とした。 

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