109 後ろめたい職業
彼が街を歩いていると、マイクを持った男とカメラを持った男に行く手をさえぎられた。
「あの、すいません」
「え、なんですか?」
「私達は某国営放送の者なんですが、実は今、『平日の昼日中に街をブラブラしているあなたの職業は?』という質問企画をしておりまして、もしよろしければご協力いただけないでしょうか?」
「え、僕ですか?」
「はい」
「困ったな」
「ご職業をお答えいただくだけでいいのですが」
「うーん、その質問にはちょっと答えにくいですね」
「と申しますと?」
「いや、実はその、僕の職業はあまり大きな声では言えない職業なものでして。人に聞かれたり、人に知られたりすると、ちょっとその、僕の立場がなくなっちゃうんですよ」
「へー、そういう言い方をされると、なんだかますます気になりますね。どうか教えていただけませんか?」
「いや、こればっかりは。本当に後ろめたい身の上なんで」
「そうですか。それでは、VTRを放送では使わないという条件で、こっそり教えていただけませんかね。そんなふうにもったいぶられると個人的に気になります」
「放送では使わない? 本当ですか?」
「本当です」
「約束してくれますか?」
「ええ、もちろんです」
「そういうことなら、まあ、言ってもいいかな。本当に後ろ暗い職業なんですが、僕の職業は――」
どうせ無職かニートだろうな、とリポーターが考えながらマイクを向けていると、彼はカメラの前で真顔になってこう答えた。
「スパイです」




