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先ほど救ったシスターと騎士たちを伴い川沿いを進んでいくと、見えてきたのは湖と町だった。

ただし湖から町の間の距離はそこそこ離れているようで、さらに柵により隔たりが出来ている。


「あの町は漁師の町ペッシュと言いまして、帝国の国教ノワール教の支部があるのでございます」

「我々はそこに常駐し、町民に信仰を説きつつ町を魔物などから守っているのです」

「実際今まではそれで問題なく、町民の皆さんと仲良く出来てたっすよ」


漁師の町か、うまい魚介にありつけそうだ。

しかしパッと見だと、問題があるようには見えないが……。


「しかし最近あそこの湖にやって来た巨大な魔物に、漁場を荒らされているのです」

「ってことで我々に白羽の矢が立ち、立ち向かったのですが……」

「全く歯が立たず、犠牲者を多数出したっす」


あっ、なるほど。

水中にいる巨大な魔物相手に、人族だと相当不利だよな。

不利を覆す存在でもいないと。


「このままでは犠牲を無駄に増やすし、教団の面目丸つぶれっす」

「そしてこの不利を解消する案として、町といざこざのある魚人族と和睦をして協力してもらおうと思ったのです」

『結果が……あの返事か』

「はい……情けない限りです」


ん~迂闊すぎる、人語が理解できるとはいえ元々険悪だった奴らを頼ろうとするなぞ。


『帝国とやらに助力は求めなんだか?』

「この程度の案件に帝国軍は動きませんし、動けませんよ」

「周囲の国に付け入る隙を与えちゃうっすからね」


ままならぬものだな……。


「しかしこのままではペッシュの食糧枯渇や貿易不可が起こり、町は干上がってしまうでしょう」

「精霊様、サラマンダー様!どうか、どうか……我らを、この町を救っていただけませんでしょうか!?」


このまま受けるにはリスクが高いな。

俺は水場での戦闘経験がないし、メイン火力の豪火や火炎魔法が活かしづらい。

相手が巨大な以上、万全な準備を整えないとあっさりと殺されかねん。

となると……。


『その話、受けても構わん』

「「「本当です(っす)か!?」」」

『----だが、今すぐ事を構えるのは無理だ』


俺はまっすぐ彼らを見据える。


『今の我は事情があって全力ではない、しかし力が戻れば必ずや勝利をもたらそう』

「「おお!」」

「しかし、具体的にどうやって力を……」


シスターは不安そうに俺を見上げる。


『我は今魔力が枯渇している、だが魔物を食えば次第に魔力が戻ってくる……故に暫くはこの辺りの魔物狩りに勤しむことになろうな』

「魔物狩りですね、町としてもそれはありがたい!」

「良く我々に、迷惑な魔物の退治がお願いされてたっすからね!」


喜ぶ騎士二人に、安堵するシスター。

ん、考えたらこいつらの名前を知らなかったな……。


『そういえば、名を聞いていなかったが』

「はっ、失礼いたした!私はダミアン・デラボルドと申します、帝都出身で現在ここでの隊長を務めています……と言っても死者が出たことによる、繰り上げ出世ですが」

「ポール・ディルマンっす!ここから北にある鍛冶の町エスプリの出身で、ダミアン隊長の補佐役っす!」


ダミアンは茶髪でガッチリしたナイスガイで、ポールは青髪で中肉中背の人がよさそうな奴だ。

そして、最後に残ったシスターに目を向ける。

透き通った白い肌に青系の修道服を纏っている、パトリシアやアントワーヌと比べると……良い身体付きをしているのが分かる。


「す、ステファニー・ガリマールでございます!元孤児で出身は分かりません……けれど、神への信仰は誰にも負けません!」


緊張した面持ちで彼女はそう言った。

信仰心なら誰にも負けないか……恐らく俺に接触する場合に不安げだったり緊張してたりするのは、俺への不敬にならないかとかを気にしてるんだろうな。

大丈夫大丈夫、俺は温厚なサラマンダーだから……敵以外にはな。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






今の状態で町に入って精霊を名乗っても、デカくていかついリザードに思われかねない。

という事で、もっと魔力を得てから入ると三人には伝えた。

最初は三人もついてくると言っていたが、万が一があるのだから町を守っていろと警告。

結果……。


「ご、ごめんなさい……迷惑でしたでしょうか?」

『構わぬ、ただ足を引っ張るようなら見捨てるぞ』

「は、はいぃ!」


ステファニーだけどうしてもとついてきた。

恐らくだが、俺が精霊か疑ってる……という事はないみたいだが、気が変わって見ていぬ間に立ち去られるのが怖かったと言うのが合ってそうだ。

まぁ、向こうからしたら俺は常識の通じない高位な存在。

警戒も甘んじて受け入れよう。


「はっ!見つけました、バブルクラブです!」

『わかった』


ステファニーが見つけたのは常に泡を吐いている、ひょうきんな顔つきだが大きな蟹の魔物だ。

三体が同じ方向を見ながら揃って動いている、吐かれている泡がふわふわ飛んで幻想的だ。

まぁ、今から狩るんだけど。

俺は口内で作り出した魔力の糸を発射、三体を無理やり束ねる。

甲殻がギシギシ音を立てるが、糸は切れずにバブルクラブたちが焦っている。

一瞬豪火で焼くことも考えたが、それだと捕食の恩恵が受けられない。

よって、引き寄せて齧り付く。

甲殻は硬いが、かみ砕くことはサラマンダーなら余裕だった。

縛り上げて得意の鋏は使えず、威力のない泡を吐きかけるだけになっている。


「流石サラマンダー様です、バブルクラブなど目じゃございませんね!」

『当然だ、寧ろ楽に喰える餌にすぎぬな』

「素晴らしゅうございます!」


ステファニーは目を見張りながら褒めてくる。

悪い気はしないんだが……聖職者がそんな感じでいいのだろうか?


『ノワール教だったか、どう言う宗教なのだ?』

「えっ、そ、そうですね……帝国は完全実力主義でございまして、現皇帝も前皇帝を打倒して即位したほどでございます」

『ほう、それで国は安定するのか?』

「はい、実は現皇帝は前皇帝のご子息ですし!完全実力主義なのも、皇帝の血筋が強いからと言う説がございますほどで!」


マジか!?

皇帝一族のパワーやばいな……元々魔王を倒した勇者の子孫とかありそうなレベルだ。


「ノワール教はそんな帝国の理念に沿った宗教ですので、強き者に多大に敬意を払うのでございます」

『なるほどな、合点がいった』

「さようでございましたか、上手く説明できたようで安堵いたしました」


つまり強者であれば帝国では尊敬されるし、ノワール教信者には受け入れられる……ってわけだな。

まぁ流石に性格も考慮に入ると思うけどな、下手打てば力だけの暴君の誕生だし。

強さに性格の良さや賢さも含まれてる、そう思っとこう……。


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