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新たな拠点に移行してからちょうど一週間。
皆すっかり群れとしての共同生活にも慣れてきている。
まぁ言葉の壁はあるにはある、ただそこまで問題にもなっていない。
役割がはっきりしてるし、それらに皆不満がないからだ。
狩り組のプランちゃんとミミは、魔力が増えてどんどん大きくなってきている。
パトリシアとアンも資金集めの為に少し離れた町で狩りの依頼をこなして、順調に実力を上げながらお金を稼いでいる……色合いが紅白でタイプの違う美少女で実力者という事もあって、結構コンビとして名前が売れてるそうな。
オーさんはのんびり仕事をしてるし、アニイモは忙しなく動いて俺に報告をくれる。
「俺もそろそろ動くかな」
一方で俺は本来の役割はいったん置いておいて、拠点を整備することを終始していた。
アント族の仕事が雑とは言わないが、もうちょっと整えたいと思ったからだ。
俺は強くなった腕でガンガン掘ったり削ったりしつつ、豪火で焼いて固めたりして小綺麗にまとめていった。
一週間費やして、巣穴というよりしっかり手の入ったダンジョンって風貌になってきた。
それに満足したので、俺は気持ちを切り替えたのだ。
「ついにか、ブラックよ」
「ああ、オーさん」
「あまり心配はいらんと思うが無理はするんじゃないぞい、おぬしに何かあれば皆路頭に迷うんじゃ」
「分かってる……それにあっさり死ねない理由も出来たしな」
「ふふふ、違いないのう」
実は一週間前のお楽しみで、プランちゃんは腹に新たな命を抱えることになったのだ。
リザード族の産卵は卵が宿ってから二週間で、孵化にさらに一週間らしい。
やはりリザードも魔物、リアルなトカゲに比べるとかなり速いペースで繁殖する。
卵は一度に2~4個産むそうだけど、大変そうだな。
……という事でもとより死ぬ気はないが、ますます死ぬわけにいかなくなったのである。
「(初めての我が子を見ないで死ぬとか、親失格だろ……いや、そういう生態の奴もいるけどさ)」
アニイモの父親とかね!
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俺は久方ぶりにまともに拠点の外に出た。
ずっと引きこもって拠点の整備しながら、兄妹や紅白コンビの報告を聞きつつ飯バクバク食ってただけだからな。
娑婆の空気はうめぇなぁ、としみじみ思いながら大地を踏みしめて進む。
俺たちが助けた村落の様子は報告で聞いてたけれど、途中でチラリと見た感じ復興はなんとか進んでいるらしい。
なんでも今まで名前らしい名前がなかったそうで、救ってくれた英雄にちなんでパトリシアにしようって案が現在出てるらしい。
当の本人は恥ずかしいとやめて欲しがっていたが。
拠点や村落を離れてさらにどんどんと進んでいく、今までこれほどあの地域から離れたことはない。
まぁブラックリザードの時点じゃ移動速度も持久力も、遠出には耐えられなかったしな。
しかしサラマンダーになった途端かなり速くなったし、しばらく走り続けても簡単に息切れしなくなった。
……欠点として新陳代謝が良いせいか、激しく動いてると活性して鱗とかがちょこちょこ生え変わるくらいか。
移動しながらポロポロ鱗が落ちるのは……と思ってチラリと後ろを見ると、燃焼して消えていってた。
サラマンダーって便利、とか小学生並みの感想を抱いていると景色が変わってきた。
「(川だな……)」
森には無かったサイズの、少々大きめな川が俺の目にはいる。
その周囲は草花や水を得ようと近づく動物や魔物、そして……。
「ガブゥウウウウッ!」
「ブモオオオオオオッ!?」
それを狙う水生の肉食魔物……と言う森に負けず劣らず命のやり取りが行われている。
水場での戦闘は俺も経験ないし、相手次第じゃ問答無用で負けるかもしれん……用心しないと。
俺は慢心せず一定距離を保って川を辿っていく、より大きな水源や人里があるかもしれんしな。
だがその前に奇妙な光景を見てしまった。
「水神様ァ!生け贄ヲオ持チシマシタァ!ギョギョ!」
人型の魚、魚人とでも言えばよいだろうか?
そいつらが群をなして川沿いにある高台で、祈りを捧げている……水神とやらに。
しかし少しだけ見守ったがそんな奴は出てこないし、高台の周りにはワニ型の魔物が集まりだしてるだけだ。
それを確認すると、先頭のやつが不気味に笑って後ろに指示をだす。
すると連れてこられたのは、鎧を纏った人族の騎士達と修道服を纏ったシスターだった。
……これ水神への生け贄とか名ばかりの処刑だろ、どういう経緯があるかは知らんが間違いないわ。
「良カッタナァ!水神様モオ喜ビダ!」
『ギョギョギョ!!』
「貴様ら……こんなことをしてただで済むと思うなよ!うぅ……!」
「和睦の使者にこんな恐ろしい所業を……!こ、この野蛮な蛮族どもぉ!」
「……神よ……我らに、我らに救いを……!」
和睦の使者……つまり争いを止めようとあの3人は魚人族に接触し、今殺されようとしていると……。
やれやれ、放っておくのも寝覚めが悪くなりそうだ。
神どころか邪龍の手先だけど、お救いしますかね。
『そこまでにするんだな』
「ギョッ!何者!?」
ドスの効いた声で念話をかけると一気に警戒モードに入る魚人族達、騎士二人とシスターも困惑している。
俺はあえて力を込めて、地面を踏み鳴らしながら、ゆっくりと近づいていく。
『いたずらに人族を殺し、滅びに向かおうとする愚か者共に名乗る名などない……今すぐこの場から消え去れ、死にたくなければだがな』
魚人族も人族も、等しく俺を見て愕然としていた。
リザードに似ているが異なる、そして自分達より遥かに巨大な存在。
俺の大きさは5メートル台はあるからな、怖かろう。
対して正気に戻るのが早かったのは、一番偉そうに先頭で指示していた魚人族だ。
「化ケ物リザードギョ!殺スギョ!」
『ーーーーギョギョ!』
指示を受けた魚人達は俺に襲いかかろうとしていた。
しかし俺は律儀に相手なんぞしてやらん、第一この距離じゃ人族三人を巻き込みかねない。
ーーーーって事で。
『バーニング』
「ギョエエエエエエエエ!!?」
『ギョギョ!?』
「魔法だと!?」
「それも高位魔法っすよ!」
「す、すごい……!」
最大火力のバーニングで、黒焦げになった偉そうな魚人族。
彼の惨状を見て他の魚人族は絶望している、対照的に人族は興奮したり希望を持ち始めている。
トドメと行くか。
『さて、二度は言わん……死にたくなければ、この場から消え去れ雑魚共がぁ!!』
『ギョッギョギョーーーーーー!!!』
魚人族は皆一目さんに逃げ出した、中には馬鹿なのか水に飛び込んだ奴もいたが、ワニ型の魔物に食い殺されていた……合掌。
『……怪我はないか、人族よ』
出来る限り尊大な話し方で語りかけながら、上手くバーニングを調節して、彼らを縛っている縄を焼き切る。
彼らは信仰者っぽいので、こう言う態度の方が効きそうな気がするのよね。
「はっ!貴方様のおかげでこの通り……!」
「助かりましたっすぅ!ありがとうございますぅ!」
「感謝を捧げます……その、よろしければお名前をお教え賜りたいです!」
やっぱりなんか高位の存在って認識して、敬意払ってくれてるな。
結構結構……しかし火を扱うリザードじゃ、何か微妙かもなぁ。
……それじゃ前世の知識から。
『よかろう、我はサラマンダー……悪を焼き消す善なる火を司りし精霊よ』
「「「せ、精霊様!?」」」
精霊を名乗った途端に今度は平伏しだした。
えっ、いや、そこまでせんでも……。
「これもまた、神の思し召しやもしれん!」
「そうっす、何しろ精霊様っすから!」
「間違いないと見てよろしいでしょう!」
なんだなんだなんだ……君たちは何の話をしてるんだよ。
っと、唐突に三人を代表するようにシスターが立ち上がった。
「精霊サラマンダー様、我らを……我らをお救いください!」
……どうやらまだ何か事情があるようだ。




