21
はい、よーいスタート(サラマンダー編)
アントクイーンを倒し、存在進化を果たした俺。
素体が貧弱なリザードから、激強なサラマンダーへと変貌した。
非常に喜ばしきことだが、だからと言って余裕持ってはいけない。
すぐにでもやるべきことがある。
ーーーーお腹が減ったのだ。
いや、決してふざけてなどいない。
存在進化にエネルギー消耗したせいで、お腹が空き空きなのだ。
このままでは腹が減って死にそうだ。
『すまない、ちょっと食事に入る』
「あっ、はい、どうぞ」
パトリシアは俺に対して、完全に畏まってしまっている。
まぁプランちゃん曰く、サラマンダーの威圧感半端ないみたいだからね。
突然変異の上位種だけある。
と、話はさておき飯を食おう。
今回の飯は~。
ーーーーアントの卵ぉ~(CV青狸)
多分前世だったら絶対食わない類、しかしこれには利点がある。
それは生きてる餌であり、魂が回収でき、沢山あるってことだ。
クイーンの置き土産、ありがたく頂戴する。
モグモグ……ツルンとした触感、プチッと爆ぜる感じはイクラにも似てる……けど大きい。
味は……エビだな!ちょっと苦みあるけど。
食べるたびに、捕食で魔力が流れ込んでくる。
これは良い、量としては多くないが塵も積もればなんとやらって感じだ。
俺は腹を満たそうとバンバン食っていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
卵たちを食い切ったころには、魔力もある程度入りつつ腹も満たされた。
ただリザード時よりたくさん食べないと、満たされない感あるな……うん。
満腹になった俺にプランちゃんが声を掛けてきた。
「ブラックさん、ここどうします?」
「ん?ああ、そっか……もうクイーン居ないんだし、好きにしていいのか」
だったらここを新しい拠点にしよう、いつかは洞窟が手狭になるとは思ってたし。
ただここを新しい拠点にしようって考えが浮かばなかった辺り、俺も大分切羽詰まってたのかね。
『決めたぞ、ここを我ら眷属とリザード族の群れの拠点とする』
「分かりました!」
「は、はい!」
「ガウ~!」
よし、少しづつ調子戻って来たかな。
頭も冷静になってきた。
ここで次に俺がやるべきことは……俺は自分の中に意識を集中する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
サラマンダー【龍王の眷属】
スキル<自前>
ホーンストライク 尻尾で強烈な攻撃を加える
ホーンバニッシュ 頭部で猛烈に突き上げ、吹き飛ばす
豪火 強力な火炎を吐き、燃やし尽くす
再生 傷の治りがかなり早くなる
念話 他者の心と直接語ることが出来る
火炎魔法LV1(熟練度0)
バーニング 狙った場所に火炎を起こす、飛距離が長くて火力も調節が可能
スキル<魂>
光合成 光を受けている状態で水を飲むと、体力が回復 【花の魔物】
胞子の息吹 大量の胞子を吐き出す、主に目くらましに使用 【キノコの魔物】
バインドボイス 魔力の籠った咆哮を上げる 【鶏の魔物】
ブーストタックル 自身の瞬発力を引き上げて突進をかます 【猪の魔物】
強酸液 強めの酸性の液体を吹きかける 【ソルジャーアント】
毒液 蝕んで相手を弱らせる毒の液体を吹き出す 【アントエリート】
捕食 生物を喰らう事で体内に巡っている魔力を取り込める、死体では効果なし 【アントクイーン】
魔力の糸 自らの魔力で形成した糸を用いる 【芋虫・蜘蛛の魔物】
火魔法LV2(熟練度53)
バーン 狙った場所に火を起こす、威力は低く戦闘には不向き
ファイアボール 火球を作って飛ばす、魔力次第で化ける
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
俺は自分のスキルを確認しつつ、アントの魂達を還元する。
僅かな魔力を次々溜め込みながら、一つ気づいた。
一応火魔法を数度使用したにも関わらず、熟練度が上がっていない点だ。
魂スキルだからと言うならば、熟練度が高い相手の魂を保有する必要がありそう。
或いは熟練度ってのは簡単に上がらないものなのか……。
まぁどちらにしても、検証は新たにLV付きスキルを得てからにする。
俺は少女の魂に、先程得た魔力を注ぎ込む。
卵で得たそこそこあったであろう魔力が空になる直前に、眷属化が可能になった。
ふむ……やはり魔法が扱えるだけあって、所持魔力も高いらしい。
と、ややあって魂が光を放って新たな命が現界する。
「う……ん?」
まだ目覚めたばかりで、どういう状況か判断がつかずにキョトンとしている様子の少女。
赤い髪を三つ編み二つ結びのおさげにしており、地味な色合いのローブとは対照的な感じ。
外観年齢的には12~13才と言ったところだが、何処となく気品も感じる。
「あっ、この子は……!」
「……はっ、貴女は!」
パトリシアが気づいたのか、少女に近づく。
しかし少女は素早く後ずさり、構えをとっている。
「近づかないでほしいです!」
「な、何で……」
どうやら相当警戒している様子だ。
そこで俺はふと思った。
『あの時助けを求めたのに断られたから、ショックだったんじゃないか?』
念話でそう伝えると、パトリシアはハッとしたように俺を見た。
声には出なかったが、『それだ』と口にしている。
「わたくし、怖かった、苦しかった……なのに、なのにぃ……ッ!!」
どんどん瀕死の時の情景が浮かんできているのか、感情が高ぶって涙が流れ出す。
致し方ない、こんな幼げな少女が死の淵に追い込まれていたのだ……パトリシアに非がなくとも、ついつい怒りや悲しみが湧いてしまうのだろう。
そしてその感情を一身に受けるパトリシアは、どうしたらいいのかパニック状態だ。
泣かれるのに弱いのか、俺に助けを求める視線を寄越す。
『なるほど、まるで燃え盛る火のような奴だ』
「----ッ!?こ、この声は……」
少女は死の直前、俺の『助けよう』と言う声を聞いた。
恐らく強く印象に残っているだろうが、声の主が何処にいるかまでは判断がつかないようだ。
『後ろだ、もっとしっかり目を凝らせ』
「後ろで……す……?」
急いで振り向いた少女、途端に俺の身体が目に入る。
その視線がゆっくりと上がっていくと、お互いに目が合った。
『覚めたようだな、娘よ』
「あ、あ、ああ……ッ!」
目を見開いて、彼女は俺を見ている。
致し方ない、リザード系だがリザードらしからぬ威圧感がある魔物だしな。
彼女の反応は当然----。
「う、うつくしい……です……!!」
お?
「うつくしいですぅ!真紅の鱗に黒い甲殻!すべてを圧倒するオーラ!そして何より……見た者を悉く焼き尽くしそうな、その瞳!!」
ちょっとこれは。
「……お、お名前を……お聞かせくださいませ……です……!」
『……種族はサラマンダー、今は仮にブラックと名乗っている』
「サラマンダーのブラック様!!ああ……素晴らしいですぅ……」
予想外、です……。
彼女は胸を抑え、その髪と同じ赤い瞳を爛々と輝かせている。
てっきり驚愕や恐怖などのマイナスイメージになるかと思ったんだがなぁ。
どうやらこの子は、特殊なタイプらしい。
『娘、今度はそちらが名乗る番だ』
「はっ!?わたくしとした事が、大変失礼しましたです!」
恍惚とした表情が、一気に引き締まって佇まいを直す。
そして少女は優雅に一礼した。
「わたくしはアントワーヌ・ベルリオーズ、ご気軽にアンと呼んでいただけますと幸いです」
「ベルリオーズ……!」
『知っているのか!らい……パトリシア!』
「数々の優秀な火系魔法使いを輩出して、帝国で名を馳せてる名家だよ!」
となると、かなりのお嬢様か!
通りで何処となく気品があると思ったが……これは思わぬ拾い物だ。
パトリシアももちろん優秀だが、この子……アンは将来有望だ。
俺は期待に胸を膨らませた。




