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「ありがとうございます、テイマーのパトリシア様!おかげで我らは命を繋げられました!」

「近場の街から来たっつってたけど、これだけ強いリザードをテイム出来たんだ……あんたなら帝都へ行っても活躍できそうだな」

「あ、はは……どうも……」


現在パトリシアは村を救った英雄として崇められている最中だ。

村長や冒険者ギルドのマスター等の有力者も、完全にベタ褒めしている。

幸い非戦闘員たる村人の被害は存在せず、衛士や冒険者たちも全滅せずに済んだ。

時間さえかければ、なんとか復興は出来そうではある。


「パトリシア様はこれからどうなさるので?」

「あたしは今回の騒動の元凶、アントクイーンを討伐します……あの魔物が近くに存在する限り、何度でもここは危機に瀕するでしょうから」

「なんと……貴女様だけでですか!?」

「いいえ、あたしには頼りになる眷属(なかま)がいますもの!」


パトリシアは俺たちを指し示す。

人間たちは先ほどの俺たちの戦いぶりを見ていて納得しているようで、頷いている。

あくまで俺の方が立場は上だが、今後の為にもそれは隠す。


「それではこれ以上以外が増えないように、あたしたちは一刻も早く奴を倒してきます!皆様も警戒を怠らず」

「ははっ!」

「ご武運を」


解放されたパトリシアは俺たちに駆け寄ってくる。

俺は再び乗る様に促して、彼女は跨った。


「改めてその……重くない、です?」

『全く重く感じんよ、寧ろ心配になるわ』

「ああ、羨ましいですね……」


パトリシアも女の子だな、わざわざ体重を気にするとは。

そしてプランちゃん、戦いが終わったら好きなだけ乗っていいんだぞ。

念話でそう伝えると、驚いた風にこっちを見た後嬉しそうに頬を擦り付けてきた。

不意に気づいたが、背後から例の三人組の内の男性ランドの熱い視線を感じる。

多分パトリシアを見ているんだろうが、後ろで不機嫌そうにしてる異性にも勘付いとけ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





アント族の巣がある隣の森は、俺たちリザードが住む黒亜の森とはある程度間隔が離れた場所にあった。

途中アント族と幾度も遭遇したが、皆蹴散らしている。

と言っても、俺はそこまで動かずに戦うのは俺以外の三者に任せている。

俺だけ強くなっても意味がない、彼女らも進化して強くなってもらわなくてはいけない。

その間暇だった俺は、改めて自らを見直すことにする。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


B(ブラック)・グランドホーンリザード【龍王の眷属】


スキル<自前>

ホーンストライク 尻尾で強烈な攻撃を加える

ホーンバニッシュ 頭部で猛烈に突き上げ、吹き飛ばす

念話       他者の心と直接語ることが出来る


スキル<魂>

胞子の息吹    大量の胞子を吐き出す、主に目くらましに使用 【キノコの魔物】

ブーストタックル 自身の瞬発力を引き上げて突進をかます 【猪の魔物】

強酸液      強めの酸性の液体を吹きかける 【アリの魔物上位種】

毒液       蝕んで相手を弱らせる毒の液体を吹き出す 【アリの魔物特上位種】      


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


テイムはパトリシアを眷属にしたため失ったが、そもそも俺には不要なスキルな気もする。

現状は手に入れた魂は全て魔力に還元しても全く問題ないだろう。

俺は先ほどの戦いで得た山ほどの魂を全て噛み砕いて、魔力に還元していく。

パトリシアとミミを眷属にして失った魔力を取り戻しつつ、さらに大幅に魔力を得た。

すると威厳のある声が聞こえた。


『我が眷属よ、朗報だ』

『朗報でございますか?』

『おう、もう少しで存在進化出来る』


やったぜ。

いままで強化進化を二度行ったが、存在進化には中々到達の知らせが来なかった。

しかしここに来て、ようやく希望が見えた。


『大変うれしゅうございます!』

『そうであろうな、精進せよ』

『ははっ!』


気配が消えた。

さて、そうなれば俺も本格的に参戦……いや待て、焦るな焦るな。

確かに早く進化するに越したことはないだろう、けれどここで彼女らの経験値奪ってどうする。

それに進化はしかるべき時……そう、クイーンをブッ倒してから行おう。

もう少しってんなら巣のエリートの魂を魔力に還元しても、お釣りが来そうな感じするし。


「ブラック!巣が見えたよ!」

「ガウ!」

「いよいよですね」


そうこうしている内に、隣の森の中心部であるアントの巣に辿り着いたらしい。

現在アント族は周囲に分散しているのか、或いは俺の存在を感知して中で待ち構えているか……。

どちらかは知れないが、巣の周りは不気味に静かだ。


『生き残るため、我らは奴らを駆逐する!行くぞ!』

「「はい!!」」

「ガウ!!」


俺たちは意気揚々と巣穴へ足を踏み入れた。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






あたしはパトリシア、街の冒険者ギルド所属の一冒険者……“だった”。

けれど今の立場はそこに加えて、龍王の眷属と村の英雄が入ってるんだろう。

アント族に徹底的に嬲られて、クイーンの餌になる……そんな絶望的な状況だった。

そこに颯爽と現れたのは、あたしがテイムしようとしていた黒いリザードであるブラック。

取引をしてあたしは一度死んで苦しみから解放、そして彼の眷属として生まれ変わった。

それから彼が語ってくれた真実は、あたしの常識を変える物。

異世界にいると言うリザードを滅茶苦茶強くしたような存在、ドラゴン。

そのドラゴンの王が、さらに異世界にいた人間の魂をこの世界に送り出した。

結果彼がここに居るのだと言う。

傍から聞けば滅茶苦茶な夢物語だ。

けどブラックの存在が何なのか納得させるには、それが最も適した説明だと言うのもあたしには理解できた。

だからこそ困惑しつつも受け入れて、彼に気を使われつつ村を救って、今は絶対一人じゃ攻略不可能なアントの巣に挑んでいる最中だ。

多分ブラックをテイムしようとせずに気楽に街の冒険者をしていたら、こんな状態じゃなかったんだろうなって思う。


「ギャオ!」


プランターリザードのプランちゃん、彼の群れの一員であり眷属。

今でこそかなり強いけど、元は大人しくて力もなかったんだとか。

彼女はブラックに心酔してるみたいで、あたしが彼に乗ってたりするとチラチラと羨まし気に見てくる。


「ガガアァ!」


あたしの相棒であるミミ、この子も今は同じ眷属。

ブラックが元人間なのもあるかもしれないけど、言葉が通じなくても全く問題なく仲間にしてくれてる。

ミミも今の状況を気に入ってるみたいで、たびたびプランちゃんと言葉以外のコミュニケーションをしてたりする。

皆頼りになる仲間たち、けど一番頼りになるのは……。


「シャガアアアアアアアァ!!」


ブラックだ。

最初から龍王の眷属だったのもあるだろうけれど、保有してる魔力が桁違いなうえに凄い戦い慣れている。

あたしたちの世界のリザードには存在してない、角や尻尾の棘は驚異的な武器。

これらも聞く限り、強化進化と言うものを経て得た物らしい…。

龍王の眷属になることの凄さが分かる。

アントの巣に入る前はあたしたちに任せていた彼も、ここではその力を十全と発揮している。

巣の中はかなり広く、あちこちの横穴から奇襲をされることも多い。

圧倒的な戦力のブラックがいなければ、きっと対応できないだろう。


『皆、怪我はないか?』

「ギャウ!」

「ガア!」

「うん、大丈夫……です!」


彼は優しく、戦闘後はあたしたちを気にかけてくれる。

……元異世界の人間だっていうけれど、どんな人だったんだろう。

落ち着いている様に見えるけど、別の世界に別の種族で送り込まれているというのに……怖くないのかな?

あっ、もしかしたら騎士とかだったのかも。

強くて優しくて、王の眷属……うん、騎士ってイメージ。

黒髪で目元の鋭い騎士をイメージする、なんかいい感じ。


『パトリシア、無理に敬語にしなくても良いんだからな?』

「う、うん……」


そうそう、こういう紳士的にあたしを気遣ってくれる辺り余計に思う。

けれど立場はそっちが上なんだから、敬語って必要だと思うんだけどなぁ。

なんて考えていると。


『……血の匂いがするな』


彼から物騒な言葉が聞こえる。

ブラックが動き、あたしたちはそれに追従する。

その先には、瀕死の魔物がたくさん保管されていた。


「ギイィ……」

「グゥ……」


プランちゃんもミミも、その光景に思わず目を背ける。

血だらけだったり、手足がもげてたり、苦しそうに呻き声を上げていたり……。

あまりにも可哀そうだ……それにあたしも同じ状況にされたんだ、同情もしたくなる。

これもクイーンが生きたまま食べる事を趣向としてるからなんだろう、なんだか怒りも湧いてきた。

そんな風に一人で憤っていると、ブラックが不意にそこへ近づいていった。

彼の視線の先には……。


「女の子……!?」

『どうやら、君同様の事態に遭ったようだな』


赤い髪を三つ編みにした小さな女の子。

魔導士なのか、地味な色の質素なローブを身に纏っている。

しかしそれも含めてボロボロで、身体は傷だらけ。

……ずっと苦しそうに呻いてる。

しかしあたしが声を出したのと同時に、片目を何とか開いた。

そして発した言葉は……。


「助、け、て……」

「!!!」


胸が締め付けられる。

この子は痛みで苦しんでいる、間違いなく死に向かっている。

けれどあたしはこの子を楽にする術はない。

ここまで深い傷を塞ぐほどポーションは持ってないし、回復できる光系統の魔法を扱えるわけじゃない。

だから中途半端に苦しめるだけだし、ここから街に行くまでに生きられるかどうか……。

そう思って頭をよぎったのは、ブラックがあたしにやってくれた眷属化。

これなら間違いなく復活できる……けど。


「ご、ごめん……」

「う、うぅ……」


あたしには出来ない……必死に生きないと、助けてほしいと思ってるこの子を殺すなんて。

生き返らせられると分かっていても、心の奥底で嫌だと拒否が起こる。

だけど……。


『助けよう』

「あ……」

「え……他、に……誰、かーーーー」


ブラックが彼女に語り掛け、女の子はその目で他に人間がいないか必死に探そうとした。

けどその彼女の上に、彼の尻尾が振り下ろされた。

生々しい音と共に、彼女は絶命した。


「ブラック、あなた……」

『何を驚いている、君の時も全く同じことをしたんだぞ?』


彼は事も無げに言う。


「あなた元人間でしょ、なんで平然と殺せるの!?」


つい、その場の感情に任せてあたしは彼にそう言ってしまった。

言って後悔した、ブラックはあたしが出来なかったことをやってくれただけにすぎない。

なのに責める様に彼に当たるのは、人として最悪だ。

プランちゃんとミミが、驚いてあたしとブラックを交互に見ている。

もし彼の本性が冷酷残忍な男なら、あたしは使えないと切って捨てられていたろう。

それが出来る力が、彼にはある。

でもそうはしない。


『気持ちは分かるが……この死が未来の笑顔に繋がるなら、それに越したことはないだろう』


ただただ正論だった。

きっと彼だって殺したくなんてなかっただろう、けど私に愚痴も文句も言わずにやってのけた。

力だけじゃない、ブラックは本当に強い……だからこそ、頼りになるんだ。


「ごめん……感情に流されて、嫌な事言っちゃった……」

『……いい子だな、パトリシアは』

「そんな事----」

『だからこそ、守らなくちゃな』


あたしがうじうじしていると、彼は近づいてきて頬ずりしてきた。

ビックリして固まったあたしに、彼は教えてくれた。

頬ずりはリザード族の親愛の証だと。

たまにプランちゃんと頬ずりしあってるのは、それが理由だったのか。

それを聞いて、なんとなく胸が温かくなった……そんな気がした。

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