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パトリシアを眷属として仲間にしたことで、戦力以外にも良いことがあった。

それは人類側視点での、様々な情報だ。

リザードの視点だけではどうしても分からないことのほうが多い。

まず俺たちの住む森は黒亜の森と言い、人類でも最大の国家である帝国の一部だそうだ。

ただかなり端っこの田舎もいいところなので、国からの地域調査などは適当らしい。

だから現場である小さな村落の冒険者ギルドが頼りなのだが、優秀な人材は中央の方へ取られてしまうため、あまりあてにならないそうだ。

本来ならアリ……アント族が増えすぎないように定期的に狩りが行われるはずだったのだが、それが不十分だった。

結果今回の様な爆発が起こったと考えられる、というのが現状を見たパトリシアの推測だ。

まぁアント族の増殖は別に人間側の失態ではない、自然現象なのだしアント族の天敵がこの地域にいないのが悪い。

よって改めて決意、ここのアント族の巣を駆逐する。

別にほかの場所で同族が頑張ってるんだ、一部族ぐらい勘弁しろやって話だ。


「ブラックさん、あそこ!」

「ん?おお、外に出……ありゃ酷いな」

「う、嘘でしょ……」

「グウ……」


アント族を駆逐しつつ黒亜の森を離脱すると、例の小さな村落はアント族の大々的な襲撃でズタボロにされている。

かろうじて応戦して耐えているが、先ほどの話を聞く限り増援は期待できないし……放っておけば地獄だな。

さっさとクイーンをぶち転がしたいところであるが、放っておくと村落は壊滅。

黙って色々天秤にかけていると、パトリシアが俺を見てきた。


「助け、ないの……?」

『助けるメリットがあるのか?』

「それ、は……」


あんな弱小の場所を救助して恩を売っても、たぶん俺にはメリットなんかほぼない。

しいて言うと慈悲深い英雄アピールをして、パトリシアの好感度が上昇するくらいだろうか?

それだったらまとめて両成敗して、魂総取りからの魔力変換のほうが俺としてはメリットが非常にある。

そんな俺たちの様子を見て何か察したのか、プランちゃんが横から口を挟んできた。


「ブラックさん」

「なんだ?」

「自分の気持ちに、素直に行ってもいいと思いますよ」

「……」


何故だろう、誤魔化していた俺の本心が見透かされている。

この子一度死んでから、かなり落ち着いている。

例の告白も相まって、精神的にかなり成長したのかもな。

……しょうがねぇなぁ。


『行くぞパトリシア、ミミ』「行くぞ、プランちゃん」

「ふふっ、分かりました」

「えっ?」

「ガウ?」

『あの村落を救う、行きたいんだろ?』

「----ッ!うん!!」

「ガウ!!」


すまんオーさんにアニイモ兄妹、ちょいと寄り道するわ。

帰りはお土産でも持ち帰ろうか。






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆






「総員下がるな!!村民を守るんだぁ!!あっ、ぐわああああ!」

「なんて数だ!!下がれ、下がれってんだよぉ!!」


悪夢は現在続行中だ。

前線は兎に角アントを抑えるために必死だが、スカウトの数による押し込みとソルジャーの強酸攻撃に押され始めている。

そもそも田舎の弱小村落にまともな武具も人材もあるわけないんだ。

こんな大規模な戦闘についていけるはずがない、一方でアント族は脇目も振らずガンガンやってくる。

シャーウッドさんに習い、俺やカルパも慣れない弓を使って迎撃してるが……貢献できているかは定かじゃない。


「数が多すぎるってのぉ!!」

「泣き言をいう前に射るのである、このままではせっかくあの時ながらえた命を無駄にするのである!」

「あの時、かぁ……!」


黒亜の森での一件、あれは俺たちの頭から一生離れない出来事だ。

トラウマでもあるが、教訓でもある。

あの時もこんな絶体絶命だった、けれど大きな黒い影……あのリザードに救われた。

……実は心のどこかで、期待してるのかもな。

俺も、カルパも、シャーウッドさんも。

黒いリザードが助けに来てくれることを、実にめでたい思考だってのは分かってるんだけどさ。

別れ際のやり取り、俺たちに警告して逃がそうとした優しさと知能の高さ。

もしかしたら……なんて考えている。


「!!……なんだ、あの影は!?でかいぞ!」


その言葉にバッと俺たち三人は顔を上げる。

まさか本当に来てくれたのか!そう思ったから。

けど現実は非常だった。


「どうなってんだよ!エリートだぁ!!敵増援でエリートがソルジャーどっちゃり連れてきたぞ、わっひゃっひゃっひゃ!!」


もはや前線の奴は発狂している、それもそのはずだ。

実質アント族の最高戦力の登場だ、ソルジャー以上の化け物がきたんだからな。

やつは小高い丘で、俺たちを不敵に見下ろしている。

ほとんど奴らが諦観の表情を浮かべていた、勝てるわけがないと。

だけど俺たち三人は、まだ未練がましく希望を信じて諦めていなかった。

例えソルジャーたちが波のごとく迫ったとしても……。


「お願い……!」

「もう、縋るほかないのである……!」

「来てくれ、黒いのおおおおおおおお!!」


瞬間エリートが上空へ吹き飛んだ。

巨体が宙を舞い、追撃とばかりに何かが浴びせかけられる。

それは跳ねてあちこちに拡散し、周囲のアント族を襲う。


「え?」


固まる人間とアント族。

一方で落ちてきたエリートは、衝撃からなのか苦し気にもがいている。

新たに丘に見えたその姿は……。


「あれって……!」

「おや、まさかのであるな」

「あの子は……!」


以前より巨大な身体で、立派な角まで生えた漆黒のリザード。

それに跨るのは……あの時俺とカルパにあのリザードの存在を確かめた獣人族の子。

白く長い髪、凛とした青い瞳でこちらを見ている。


「(まるで、天使だ……)」


そう表現せざるを得なかった。

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