13
俺は強くなった、それは間違いない。
この森周辺で戦闘になったとしても、俺は問題なく生き残れるだろう。
……あくまで“俺だけ”ならの話だ。
甘かった、と言えばそれまでなのだろうが……いつの世も、現実は残酷だと思い知らされる。
「ねえちゃん!おい、ねえちゃん!!」
「しっかりして!薬草食べなきゃ!」
「ア、グ……」
たまには狩りを休んで拠点でゆったりしようと提案した俺に、全員賛同したため狩りには出ていなかった。
近場で食べられそうな植物を取ってくると、プランちゃんが拠点からほんの少し離れた時……直ぐ様悲鳴が聞こえた。
焦って俺達が駆けつけた時には、傷だらけで血塗れのプランちゃん、そしてアリが十数匹いた。
奴等はプランちゃんを嬲って弱らせてから、巣に持ち帰るつもりだったのだろう。
それを見た瞬間弾けたように俺は突撃し、アリの群れを一方的に殺戮した。
……だが俺が出来るのはここまでだった。
今必死にアニーとイモトが彼女に呼び掛けたり薬草を差し出したりしているが、全く動ける様子ではない。
「これはもう、どうにもならん……」
「オーさん……!」
「事実じゃ、あの娘の傷を癒す術はわしらにはない……分かっておるはずじゃ」
そう……オーさんの言う通りなのだ。
リザード族に傷を回復するスキルはないし、俺が得た魂にも回復のスキルは刻まれていない。
そして薬草を食めたとして、効果などたかが知れている。
かと言って今の重症の状態であれば、放っておくと死んでしまう。
詰んでいた。
「(俺はバカだ……自分が強くなったからと、浮かれて、油断して……!)」
結局群れを作っておきながら、自分の事ばかり考えて生きていた俺の失態だ。
誰かと共に生きるという事は、責任が伴う。
自分より力が小さいものとならば尚更だ。
「ブラック……さん……」
「----ッ!プランちゃん!無理はするな!」
まだ息はあるが、最早風前の灯火だろう。
それにも関わらず、彼女は俺に何かを伝えようとしているようだった。
「あなたに会うまで、いつどこで死んじゃうんだろうと……怯えて生きてた……それはきっと……他の、皆も……」
「「「……」」」
「でもね、今は不思議と……怖くはないよ……それは、ブラックさんに……群れに入れてもらえたから……」
……。
「でもね、後悔はある……その……あなたとの子供が、欲しいって……思ってた、の……」
「!?」
「えへへ……高望みした、罰だったのかもね……」
違う、俺はそんな大層なもんじゃない……俺はただ偶然龍王様に眷属にしてもらえただけの、人間の魂だ。
運が良かっただけの、ちっぽけな魂なんだぜ。
「……ブラックさんは……これからまだまだ強くなるよ……そんな気がする……だから、私なんて気にせず……前に進んで……ね……」
「ねえちゃん!」
「ダメだよぉッ!!」
「わしは……無力じゃ……」
強くなる、同意。
前に進む、同意。
だが、君を失う事には同意しないッ!
何か、何か手は……。
……そうだ、あったじゃないか!
たった一つだけ、方法が。
「アニー、イモト、どいてくれ」
「あ、あんちゃん……」
「お兄さん……?」
「……お主、何を?」
俺は今にも事切れそうなプランちゃんに近づき、尻尾を叩き付けて殺した。
「「「!!!?」」」
死んだプランちゃんを除き、全員が後ずさる。
そりゃそうだ、いきなり仲間だった奴を……挙句死に際に告白まがいの事をしていた異性を殺したんだ。
自然界に介錯があるかは知らんが、恐れるに十分足りる行為だろう。
しかし、これは必要な行為なのだ……。
俺がプランちゃんを殺さないと、彼女の魂を得られない。
意識を自分の中に集中する、周りが色々声を上げているが段々薄れる。
『ようやく己が眷属を増やす気になったか、愚か者め』
『龍王様……』
監視していたらしい龍王様が、心に語り掛けてくる。
……俺はドラゴンになる野望を持っている、だが同時に人間の部分を捨てられないようだ。
以前人間三人組を見逃したのがそうだ。
龍王様が同じ立場なら迷いなく殺して眷属にするなり、魔力に変換していただろう。
プランちゃんを失いそうになって、学んだ。
生きる為に、時には甘さを捨てないといけないのだと。
『お前は正しく人間だ……甘っちょろく、脆弱……同時に失敗から学べる』
『はい、俺はきっと人間を捨てられません……けれどその上で、人ならざる力を受け入れて……“強くなり、前に進みます”』
『ふん、好きにせよ』
龍王様の気配が消えた。
そして目の前には、並んだ魂たち。
アリたちの魂をかみ砕き、魔力に変換。
そして、プランちゃんの魂を見据える。
『大丈夫、これからも共に生きよう』
そう言うとプランちゃんの魂は笑った気がした。
俺は彼女の魂に、先ほど得たばかりの魔力と少々余分に自分の魔力を流し込む。
共に戦ってもらうのだ、ある程度力を得てもらわないと困る。
プランターリザードとしては余りある魔力を得た、プランちゃんの魂が光って消える。
すると……。
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Bブラック・グランドホーンリザード【龍王の眷属】
スキル<自前>
ホーンストライク 尻尾で強烈な攻撃を加える
ホーンバニッシュ 頭部で猛烈に突き上げ、吹き飛ばす
念話 他者の心と直接語ることが出来る
スキル<魂>
胞子の息吹 大量の胞子を吐き出す、主に目くらましに使用 【キノコの魔物】
ブーストタックル 自身の瞬発力を引き上げて突進をかます 【猪の魔物】
強酸液 強めの酸性の液体を吹きかける 【アリの魔物上位種】
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スキルとして念話が使えるようになった。
恐らく眷属を得たことで、上位な存在になったという証なのだろうか?
何にしても、これで生きる上での手札が増えたわけだ。
意識を戻すと、アニーとイモトとオーさんが固まっている。
その視線の先にいたのは、少々大きくなったプランちゃんだ。
「ブラック、さん……」
「おかえり、そしてこれからも……よろしく」
俺はプランちゃんに近づき、頬に頬で擦りつける。
リザード流愛情表現だ、するとプランちゃんも俺に頬を擦り付ける。
「はい!」