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俺は強くなった、それは間違いない。

この森周辺で戦闘になったとしても、俺は問題なく生き残れるだろう。

……あくまで“俺だけ”ならの話だ。

甘かった、と言えばそれまでなのだろうが……いつの世も、現実は残酷だと思い知らされる。


「ねえちゃん!おい、ねえちゃん!!」

「しっかりして!薬草食べなきゃ!」

「ア、グ……」


たまには狩りを休んで拠点でゆったりしようと提案した俺に、全員賛同したため狩りには出ていなかった。

近場で食べられそうな植物を取ってくると、プランちゃんが拠点からほんの少し離れた時……直ぐ様悲鳴が聞こえた。

焦って俺達が駆けつけた時には、傷だらけで血塗れのプランちゃん、そしてアリが十数匹いた。

奴等はプランちゃんを嬲って弱らせてから、巣に持ち帰るつもりだったのだろう。

それを見た瞬間弾けたように俺は突撃し、アリの群れを一方的に殺戮した。

……だが俺が出来るのはここまでだった。

今必死にアニーとイモトが彼女に呼び掛けたり薬草を差し出したりしているが、全く動ける様子ではない。


「これはもう、どうにもならん……」

「オーさん……!」

「事実じゃ、あの娘の傷を癒す術はわしらにはない……分かっておるはずじゃ」


そう……オーさんの言う通りなのだ。

リザード族に傷を回復するスキルはないし、俺が得た魂にも回復のスキルは刻まれていない。

そして薬草を食めたとして、効果などたかが知れている。

かと言って今の重症の状態であれば、放っておくと死んでしまう。

詰んでいた。


「(俺はバカだ……自分が強くなったからと、浮かれて、油断して……!)」


結局群れを作っておきながら、自分の事ばかり考えて生きていた俺の失態だ。

誰かと共に生きるという事は、責任が伴う。

自分より力が小さいものとならば尚更だ。


「ブラック……さん……」

「----ッ!プランちゃん!無理はするな!」


まだ息はあるが、最早風前の灯火だろう。

それにも関わらず、彼女は俺に何かを伝えようとしているようだった。


「あなたに会うまで、いつどこで死んじゃうんだろうと……怯えて生きてた……それはきっと……他の、皆も……」

「「「……」」」

「でもね、今は不思議と……怖くはないよ……それは、ブラックさんに……群れに入れてもらえたから……」


……。


「でもね、後悔はある……その……あなたとの子供が、欲しいって……思ってた、の……」

「!?」

「えへへ……高望みした、罰だったのかもね……」


違う、俺はそんな大層なもんじゃない……俺はただ偶然龍王様に眷属にしてもらえただけの、人間の魂だ。

運が良かっただけの、ちっぽけな魂なんだぜ。


「……ブラックさんは……これからまだまだ強くなるよ……そんな気がする……だから、私なんて気にせず……前に進んで……ね……」

「ねえちゃん!」

「ダメだよぉッ!!」

「わしは……無力じゃ……」


強くなる、同意。

前に進む、同意。

だが、君を失う事には同意しないッ!

何か、何か手は……。

……そうだ、あったじゃないか!

たった一つだけ、方法が。


「アニー、イモト、どいてくれ」

「あ、あんちゃん……」

「お兄さん……?」

「……お主、何を?」


俺は今にも事切れそうなプランちゃんに近づき、尻尾を叩き付けて殺した。


「「「!!!?」」」


死んだプランちゃんを除き、全員が後ずさる。

そりゃそうだ、いきなり仲間だった奴を……挙句死に際に告白まがいの事をしていた異性を殺したんだ。

自然界に介錯があるかは知らんが、恐れるに十分足りる行為だろう。

しかし、これは必要な行為なのだ……。

俺がプランちゃんを殺さないと、彼女の魂を得られない。

意識を自分の中に集中する、周りが色々声を上げているが段々薄れる。


『ようやく己が眷属を増やす気になったか、愚か者め』

『龍王様……』


監視していたらしい龍王様が、心に語り掛けてくる。

……俺はドラゴンになる野望を持っている、だが同時に人間の部分を捨てられないようだ。

以前人間三人組を見逃したのがそうだ。

龍王様が同じ立場なら迷いなく殺して眷属にするなり、魔力に変換していただろう。

プランちゃんを失いそうになって、学んだ。

生きる為に、時には甘さを捨てないといけないのだと。


『お前は正しく人間だ……甘っちょろく、脆弱……同時に失敗から学べる』

『はい、俺はきっと人間を捨てられません……けれどその上で、人ならざる力を受け入れて……“強くなり、前に進みます”』

『ふん、好きにせよ』


龍王様の気配が消えた。

そして目の前には、並んだ魂たち。

アリたちの魂をかみ砕き、魔力に変換。

そして、プランちゃんの魂を見据える。


『大丈夫、これからも共に生きよう』


そう言うとプランちゃんの魂は笑った気がした。

俺は彼女の魂に、先ほど得たばかりの魔力と少々余分に自分の魔力を流し込む。

共に戦ってもらうのだ、ある程度力を得てもらわないと困る。

プランターリザードとしては余りある魔力を得た、プランちゃんの魂が光って消える。

すると……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


Bブラック・グランドホーンリザード【龍王の眷属】


スキル<自前>

ホーンストライク 尻尾で強烈な攻撃を加える

ホーンバニッシュ 頭部で猛烈に突き上げ、吹き飛ばす

念話       他者の心と直接語ることが出来る


スキル<魂>

胞子の息吹    大量の胞子を吐き出す、主に目くらましに使用 【キノコの魔物】

ブーストタックル 自身の瞬発力を引き上げて突進をかます 【猪の魔物】

強酸液      強めの酸性の液体を吹きかける 【アリの魔物上位種】


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


スキルとして念話が使えるようになった。

恐らく眷属を得たことで、上位な存在になったという証なのだろうか?

何にしても、これで生きる上での手札が増えたわけだ。

意識を戻すと、アニーとイモトとオーさんが固まっている。

その視線の先にいたのは、少々大きくなったプランちゃんだ。


「ブラック、さん……」

「おかえり、そしてこれからも……よろしく」


俺はプランちゃんに近づき、頬に頬で擦りつける。

リザード流愛情表現だ、するとプランちゃんも俺に頬を擦り付ける。


「はい!」

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