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「いやぁ、一時はどうなるかと思ったよ~」
「だよなぁ、オレなんか次自分がこうなるんじゃないかって恐怖が止まんなかったぜ」
すまなかったな二匹とも、俺もあんな感じに進化するなんて想像できなかったんだ。
なんかバッて光ってパッて終わるとか、そんなだと思ってた。
知ってたらもっとタイミング選んでたよ……龍王様はやはり邪龍だった。
「……グスッ」
「驚かせて、ごめんな」
「い、いえ……勝手に私が勘違いしただけで……グスッ」
前世でも泣かせたことがなかった異性を、意図せず泣かせてしまった。
今度何かしらでお詫びしよう……。
「……ブラックさんは身体、大丈夫なんですか?痛みとか……?」
「ん?いや、それはないかな……」
「そうですか……だったら、良かったです」
心配してくれたんだな、オス冥利に尽きる。
ただ次からはもう少し場所やタイミングを考えてだな。
とりあえず腹は膨らんだ、自分の中に意識を集中すると新たにスキルが追加されている。
“ホーンストライク”、トゲトゲの尻尾により強烈な力で相手をブッ叩くスキル。
人間に置き換えるとモーニングスターで敵にフルスイングするって感じかな?
……途端に殺意が満ち溢れたスキルだって認識になるなぁ。
アニーもイモトもプランちゃんも、落ち着いてきている。
向こうも疑問が尽きないだろうけど、日が落ちる前に一回試しをしたい所存。
「なんじゃこりゃああああ!!?」
「どうなってんのよおおお!?」
「分からんのであるううう!!」
「今の……人間の声です」
「人間?ってヤバいよそれ!」
「お兄さん、どうしよう!?」
ふむ、やはり他のリザードの面々には人間の声は理解できてないっぽい。
だったら俺も相手側の声が理解できるだけで、会話は出来ないんだろうなぁ。
……危険かもしれない、かと言って放っておくのも元人間の部分が引っ掛かっている。
しょうがねぇなぁ……十体分以上もあるアリの魂を魔力に変換してっと……。
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昨日受けた特別依頼で黒亜の森に来た俺のパーティー。
俺とカルパとシャーウッドさんは今全力で周囲に注意を張り巡らしている。
まだらのリザードの捕獲、何としても達成して街に帰り咲くんだ!
「でもさ、リザードの子供なんてどうやって見つけるの?」
「策はあるのであるか?」
「あるある、任せとけよ!」
正面切って探すのは愚行、ここは秘策であるトラップを使用する。
相手はリザードだしな、単純な罠でも引っかかるだろう……エサ系の罠で、虫を寄せ付けないように薬草をまぶした安価な鶏肉を利用する。
それを狩りでリザードを頻繁に見かけたポイントにあちこち仕掛けておけば……勝機はある!
俺たちは決意を胸に進んでいた……勝って帰るという希望に満ちた決意だ。
だがそれは……早くも揺れた。
「ッ!スカウトアントである、数にして三体……」
「うわ、めんどくさ……」
「三対三か……骨が折れそうだぜ」
シャーウッドさんは魔物の気配が分かる探知のスキルを持ってるらしく、狩りのたびに魔物に遭遇しそうだとこうして教えてくれてた。
複数の魔物が相手ってだけで面倒だけど、アント系ってそう言うの慣れてる方な魔物らしいからな。
負けはしないけど、出来るなら相手したくはない存在だ。
――――それだけならどれだけ良かったことか。
「うっ!?」
「おっ、シャーウッドさん?」
「……レンジャーアント、である!」
「「は?」」
いやいやいや、待ってほしい。
この黒亜の森だとスカウトアントを目撃することは珍しくない、けどレンジャーアントとなると隣の森が行動範囲の魔物だ。
つまりいるはずがない魔物なんだ。
「レンジャーアントまでいるとか、勝てるわけないでしょ!」
「三対一でやっとくらいな相手……そこにスカウトも含めると……!」
「ば、場所を変え……あっ」
「「何!?」」
「こっちに向かってるのである!!」
「「逃げるのである!!」」
金欲しさに命を落とすわけにゃいかんだろ!
それに今日のここは何かおかしい、とにかく戦力的撤退を!
だがそうは問屋が卸さなかったようだ。
俺たちが後ろへ逃げ始めた時、その先の茂みが揺れて出てきたのは……スカウトアント、二体!!
な、な……ッ!
「なんじゃこりゃああああ!!?」
「どうなってんのよおおお!?」
「分からんのであるううう!!」
「「ギチチチチチッ!」」
混乱しながらも急いで武器を取り出して構える俺たち。
しかし背後からもアントたちはやって来た。
完全に挟まれた!!
「「「「「ギチチチチチッ!」」」」」
「……ギギギ」
「……絶対、絶命である……」
「怖い、怖いよランド……なんとかしてよぉ……」
「まだ……どっかに突破口はきっと……!」
考えろ考えろ考えろ!!
何か、何か秘策を……。
ん?秘策……これしかない!
「ふはははは!これを見ろ……お前ら虫系モンスターが苦手な薬草をまぶしてるんだぜ!!」
罠に使うはずだった鶏肉達、まさかこんな形で役に立つとは……!
どうやら効果はなくはないようで、アリたちも一定の距離から近づいてこなくなった。
「流石ランド!大好き!」
「ははは、全く敵わんのであるなぁ!」
二人も少し希望が見えたようだ。
そう、簡単にあきらめちゃいけないんだ……!
必ず、生きて帰って見せるんだ!!
と考えていた刹那、何かが飛んできた。
「ギャアッ!!?」
「ランド!?」
「ランド殿!」
それは俺が鶏肉が入った袋を持つ手にかかった、猛烈な熱と痛みが襲う。
その正体は強酸、レンジャーアントが放ったもののようだ。
手が爛れ、鶏肉も強烈な酸で匂いが飛んだ。
アントたちは再び進軍してきた。
……もう、ダメだ。
そう思った瞬間カルパが俺を抱きしめる、後ろでシャーウッドさんがダメもとで矢を放ったけど震えた手で狙いが逸れてしまった。
俺はカルパを抱きしめ返した……助けられなくて、ごめんよ……。
だがその時、不思議なことが起こった。
「あ、れ?」
カルパが困惑した声を出す。
俺が目を開けると、アントたちの動きが止まっていた。
振り返ると唖然としたシャーウッドさん、その視線の先にはスカウト達の死骸。
そして……。
「黒い、リザード……?」
俺たちが見てきたフォレストリザードに比べると、一回りは大きくてスカウトアントが小柄に見える。
黒い鱗に、一際立派な尻尾が凶悪なまでに棘に覆われている。
こんな奴見たことがない、だが間違いなくリザードだった。
そのリザードがこちらに歩いてくる、まさか俺たちもスカウトアントの様にぐしゃぐしゃに……。
なんてことはなく、何と俺たちを守るようにアントたちに立ちはだかったのだ。
「何、で……?」
カルパが漏らした言葉だ。
俺も同感だった、俺たちはリザードを自分の欲の為に好き放題狩ってた側の人間だ。
なのに、知ってか知らずか……俺たちを助けようとしている。
「バアアアァァァァァァ!!」
……俺は夢を見ているんだろうか、リザードが“ブレス”を吐いてる。
どうやら相手の視界を奪うつもりだろう、実際奴らには効いている。
と思ったら凄い速さで突進していった、あの威圧感バリバリのレンジャーアントが吹っ飛んだ。
一方でスカウトたちは視界が晴れたが、撹乱されていた。
理由は突如現れた俺たちの依頼のターゲットだったはずである、まだらのリザードの子供二匹にあちこち動き回られているからだ。
圧倒されていると、横から深緑のリザードがやって来て何やら植物を置いた。
それは傷を癒す効能のある薬草だった……。
「何で……何でだよ……」
涙が止まらなくなってきた、それは死の恐怖から解放されたからなのか……或いは、彼らの優しさゆえか。
滲んだ視界に、黒いリザードに引きずられた挙句ブン投げられるレンジャーアントが映る。
それを見たスカウトアントが、子供のリザードを一旦無視して走り出す。
一対三、しかし黒いリザードは憮然としている。
一斉に飛びかかったアントたち、がダメッ!!
強烈な尻尾の一撃でバラバラにされてしまった。
「強い……あれが、本当にリザードなのであるか?」
シャーウッドさんが俺の隣にやって来た。
しかし視線は黒いリザードにくぎ付けであった。
勿論、俺もカルパもそうだ。
黒いリザードはゆっくりとレンジャーアントへ近づき、頭を踏む。
生死の確認をしてる……?
しかし判別がつかないと見たのか、全く躊躇せずに踏みつぶしてしまった。
「シャガアアアアアアア!!」
勝鬨を上げる黒いリザード、そこへまだらの子供たちと深緑のリザードが近付いていく。
彼らは群れ……なのだろうか。
リザードは群れる魔物じゃないはず……だとしたら、あれは一体……?
どんどん自分の中の常識が崩れていく中で、俺は誓った。
――――これからリザードは狩らないようにしよう、と。




