はじめてのX'mas
☆merryX'mas☆
今日はとても寒いです。
寒いですが、少しでもほっこりして頂けたらなとそんな気持ちで、短い話を書いてみました。
子供たちははじめてのクリスマス。
去年のクリスマスは、まだこの子達はいなかったというのに。
そんな不思議な気持ちで由梨はようやく眠って、ベビーベッドで寝息をたてている由貴と透哉を見つめた。
やはり双子の育児は想像以上に大変で、この3ヶ月というもの、双方の母親とそれから、夫である貴哉の母の手配してくれたお手伝いの高坂さんがいなかったら、とうにばったりといったに違いない。
クリスマスツリーは由梨は初めて見たけれど、生木のツリーにゴールドのオーナメントを飾っている。これは貴哉が、実家から貰ってきたものだ。
生木の良い香りがして、慌ただしいそんななかでもホッとするようで少し癒される。
玄関扉にはグリーンと赤のシックなクリスマスのリースを飾ってあり、由梨の感覚ではとてつもなく立派なプロヴァンス風のたたずまいの家にはそんなアイテムがとてもよく似合う。
この年末のシーズンで貴哉の仕事は接待と忘年会とでとにかく忙しいようで、帰宅も遅いので、近頃は心配性の彼が高坂さんに時間延長を頼んでいたけれど、今日ばかりは家族との約束もあるだろうと由梨は早くに帰ってもらっていた。
が...。
一人になってからというもの、由貴と透哉は、交互に起き、そしてお腹が空いたの、お尻が汚れたの、抱っこして欲しいだの。
服が汚れたから沐浴をして、着替えをさせて...。
そんなこんなで、気がつけば他の家事なんて全く出来ずに夜を迎えてしまっていた。
見ればキッチンには洗えていない食器たちと、それから全く出来上がってない料理と、山積みのままの洗濯物。
つまり...何が言いたいのかと言えば、全くお祝いなんて出来るムードではないと言うこと。
すでに時計は夜の7時。
「私って...むのう...」
ガクッと肩を落としてしまう。
(世の双子のママはこれを一人でこなしてるんだよね)
何より、貴哉へのクリスマスのプレゼントすらまだ用意できてない。出産と育児に終われていたというのと、何せこの数ヵ月初宮参りに、100日のお食い初め等イベントが目白押し。
そして予防注射のスケジュール...。
はじめての、それに双子だと言うことで、赤ちゃんとの暮らしはこれまでの環境をガラリと変化させた。
それに、養われているこの身でお金をどう使うべきか分からなかったのもあった。今では全て貴哉のお金で暮らしているからだ。
「ただいま」
「あっ...」
途方に暮れていたそんな時に帰宅を告げる、その声に由梨は泣きそうになってしまった。
「おかえりなさい」
「どうした?泣きそうな顔をして」
「...ごめんなさい。貴哉さん、何も準備が出来てなくて」
疲れて帰って来た貴哉にこんな出迎えで申し訳ない。
「仕方ないだろ?」
ため息が聞こえた気がして思わず落ち込んでしまう。
「由梨、今日は高坂さんもいなかったんだろ?落ち込むな」
抱き寄せて、額にキスをされて由梨はそっとその恐ろしく整った綺麗な顔を見上げた。
「貴哉さん...」
「ご飯は、テイクアウトしてくるから由梨は、片付ける所からしようか」
「はい」
てきぱきと動き出す貴哉は、途方に暮れていた由梨の起爆剤となり、ようやく動けるようになる。
仕事着である、隙のないスーツのまま貴哉が再び外へと出掛け、少し片付けに手をつけた、そんな時に、いち早く目覚めた透哉が泣き声を上げて由梨は由貴を起こさないように素早く駆け寄って抱っこする。
「透哉~もう、起きちゃった?」
赤ちゃんは、たくさん眠るというのはウソだ...。
透哉は少し眠ってはすぐに起きるし、挙げ句にベッドに寝かせれば、背中スイッチがついているのか置くと駄目なのだ。
おむつを変えて、そして授乳をして、げっぷをさせて、それから0ヶ月から大丈夫だという抱っこひもを身に付けて、透哉を抱っこして続きを。...としていたら貴哉が帰宅したのだ。
片づけは全く進んでいない...!
「透哉、ただいま。お前は俺の奥さんをちっとも休ませないな?」
ご機嫌で抱っこされている透哉を笑顔で指先でその額をツンとつつく。
彼は由梨以外には...。かなりダークな人であると由梨は知っているけれど。そんな彼は子供たちには、きっと、周囲からはとても意外だろうけれど!父らしく慈しみの表情が浮かべる。
「着替えたら、変わるから少し待って」
笑顔で言われて、頷いていそいで片付けの続きをする。
貴哉の買ってきたのは、クリスマスらしくチキンとそれからオードブル。それにバケットだった。
これだけあればクリスマスらしい食卓になる。
ノンアルコールのシャンパンがあるのは、授乳中の由梨が少しでもクリスマスを味わえるようにという貴哉の気遣いなんだろう、それに由梨の好きなアイスクリーム。
着替えとそして、シャワーを済ませてきたらしい貴哉が濡れた髪のまま、透哉を預かりに来た。
「透哉、おいで」
にこにこっと透哉は笑って貴哉の腕に納まる。
近頃笑みを見せるようになった双子は本当に可愛い!
彼が抱くと本当にまだまだ小さくて頼りなくて可愛い。そして、なんと彼にそっくりだ...!つまりは超絶美形な赤ちゃんである。
ちなみに男女であり、二卵性であるのに、由貴もそっくりだった。
そんな、微笑ましい父子の姿にようやく由梨の顔にも笑みがもれた。
そうこうしていると、今度はまた泣き声が...
「あ、起きちゃった」
由梨が行こうとすると、
「いいよ、俺が行くから、由梨はバスルームでも使っておいで」
「でも...」
「大丈夫だ」
電動のバウンザーに透哉をきちんと寝かせれば
「少しくらい、泣いても我慢しなさい」
と額に指先を当てて言い聞かせ、当然ながらふえぇと泣く透哉を置いて貴哉はベビーベッドの由貴を世話に向かう。
「行っておいで」
「はい、じゃあ、お願いします」
おろおろとしつつも、貴哉の言うことを聞いて由梨は急いでバスルームに行き、手早く洗って髪を乾かす。
そうして、戻れば双子はそれぞれにバウンザーで揺られていて、透哉の方は泣きつかれたのか眠りに落ちそうで、由貴の方はご機嫌に手足をパタパタとさせている。
クリスマスソングではなくて子守歌が貴哉のスマホから流れている。
「あ...すごいです。透哉が寝そう...」
それにまた落ち込みそうになる。自分は母親なのに手際が悪過ぎるのではないかと。
「こいつもママには甘えるんだよ。俺しかいないと諦めるんだろ」
クスッと笑う
「食べよう。お腹すいただろ?」
「はい」
散らかってても呆れたりしないで、言葉と態度に労りが感じられて由梨は泣きそうになる。
「去年みたいには、過ごせないけど...」
貴哉は由梨を見て、それから双子を見ると
「家族と幸せに過ごすのが、クリスマスの正しい過ごし方だろ?」
シャンパンで乾杯をすると、子守歌が静かに流れて、買ってきて並べただけのディナーを食べるクリスマスの夜が始まった。
去年は二人でホテルのディナーと、そしてそのスイートルームでの一夜を過ごしたのだ。
翌朝には指にプレゼントのリングが納まっていて...。
「クリスマスのプレゼント、今年は何が良いか、わからなくて...。今日は夜も俺がこの子ら見てるから、由梨はゆっくり寝て。それがプレゼントになるかわからないけど」
「ええっ!?」
「でも、私も何も無くて...」
「俺はもう、貰ってるよ。一番すごいプレゼント」
これ、というように視線を向けた先には二人の子供たち。
「由貴と透哉は私にとっても最高のプレゼントですよ...」
「そうか、奇遇だな。やっぱり俺たちは気が合うね」
そんな風に言われて、やっぱり泣きそうになってしまう。出産してからというもの涙腺が弱いのだ。
多少...。部屋が散らかったままでも、ご馳走が並んでなくても、由梨にとっては今までで一番最高のクリスマスの夜になった。
そして...。
由梨は翌朝、キッチンにはたくさんの哺乳瓶と、ソファに両手に双子を抱えたまま寝てしまっている貴哉を発見したのでした。
「ありがとうございました、私だけのサンタクロース」
目の下にクマの出来た、彼のその唇に由梨はそっとキスをして、寝ていうるちにと急いで片付けをはじめた。
一晩ひさしぶりにゆっくり眠れて、とても元気なのでした!
お読み下さりありがとうございました!
小さい赤ちゃんは可愛いですけど、とても育児は大変ですよね。紺野家もまだまだ大変なようです...!
皆さま、いいクリスマスを過ごせますように( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆