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ネコとわたし  作者: まめご
第Ⅰ部 ネコとわたし
4/37

ハヅキ

夜。何年かぶりに旧友に会った。

宿の一階で共に酒を傾けている。

スズもついてきた。

ご機嫌で小さく卓を叩いて遊んでいる。

「まさか、女づれで旅しているとは思わなかった」

ハヅキはクツクツ笑っている。

「女扱いされたよ。良かったな、スズ」

茶色い髪をかき上げてやると、にっこり笑った。

「ハヅキは変わらないね。いや、顔つきが少し変わったかな」

なんだかうっすらと闇を纏っている感じだ。

「ティエンランにもどったのだろう。どうして、またジンに来たんだ? 例の女捜しか?」

「君に話があってさ」

ハヅキが笑った。腹に一物の笑い方だった。

敏感に察したのだろう。スズが遊ぶのをやめて、わたしの腕に抱きついた。

チリンと音がした。

落ち着かせるため、頭をなでてやる。

「話とは?」

「ここじゃなんだし、ぼくか、君の部屋にいこう」

そしてわたしの部屋でハヅキは言った。

「美貌の女王とその国を手に入れる気はないか」

「ないね」

それならばお前がやればいいじゃないか。

今のこの自由気ままな生活をわたしは気に入っている。

膝の上で、よだれをたらして寝ているネコと、ブラブラ旅をする日常を。

もうすぐあの城へと帰らなければいけないが、用事がすめばまたさっさと抜け出せばいい。

「つまらないな」

ハヅキは落胆するでもなく、ただ笑った。

「ジンの人間は貪欲だと聞いていたのに」

「どうやらわたしは異端児らしい」

まだ、スズも連れず一人で旅をしていたとき。

相席が縁で、目の前のこの男と知り合った。

話が盛り上がり、酒場から宿の部屋へと場所をかえてひたすら飲んだ。

「ぼくのね」

赤い顔してろれつの怪しい口調でハヅキが言った。

「妹がティエンランの王なんだ」

「それはすごい」

わたしもめずらしくベロベロだった。

「わたしもこの国の王子なんだ」

「それはすごい」

ハヅキも言った。

いつもはそんな馬鹿げた事を吹聴しない。

だがしかし、この時は心の澱を吐き出してしまいたかった。

きっとこの男もそうだったのだろう。

一通り吐き出してしまえば、似た者同士だった。

家族から浮いたような疎外感を感じて育った境遇。

ただし、その周囲を見下し差別化を図り、挙句の果てには城を抜け出したわたしに比べ、ハヅキは理解者を求めた。

唯一出会った理解者はこの国の女で、その女を探して旅をしていると目の前の男は言った。

「強く思えば願いは叶うんだ。きっとまた会える」

世の中、そんなに甘いものではないと鼻白んだが、なにも言わなかった。

案の定、探し人とは会えなかったようだ。

「美貌の女王とその国とやらは、ティエンランだろう。妹と祖国を売る気か」

「ああ」

ハヅキがゆっくりと笑う。

いやいや、本当に黒くなってしまった。

「ぼくはあの国を滅ぼしてしまいたいんだ」

「そうか」

スズの髪を撫でる。

「だが、それはがんばって自分でやってくれ。人を頼るんじゃないよ」

「可能性のある人物に賭けたかったんだけどな」

肩をすくめた。

「まあ、ティエンランに帰ることはもうないから、何かあったったら声をかけて」

じゃあ、元気で、とハヅキは部屋を出て行った。

ブシュッとスズがくしゃみをしたので、寝台に横たえる。

わたしも横になると、意識はすぐに落ちていった。



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