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ネコとわたし  作者: まめご
第Ⅰ部 ネコとわたし
12/37

カイドウとリンドウ

さて、昔っから散々わたしに振り回されているお付き二人である。

物心ついた時から、傍にいた同い年の男と女は、その時からうるさかった。

「ヤン・チャオさま。講師の椅子にいたずらはいけまてん」

「ヤン・チャオさま。食べ物で遊ぶと罰があたりまつよ」

舌っ足らずな声で、一著前に注意をされたものだ。

「違うよ、カイドウ。これは講師に対する試練だよ。我が尊敬する講師さまがどんな反応をするか興味深いじゃないか」

「遊んでなんかない、リンドウ。純粋なる好奇心だ。何故うまいものとうまいものを合わせてみると、まずいものになるのだろうね」

対しわたしは、舌先滑らかだった。適当に言い訳をすると、二人は涙をこらえて黙りこんだ。

カイドウは北のチャルカに近い部族の出身だ。中流貴族の息子で同い年ということで、わたしに宛がわれた。

その地方独特の訛りは、普段抑え込んでいるものの、怒り狂うと暴言と共に飛び出してくる。

「どんだけ無責任に育ったんや、おんどれはー! おれらの苦労もちったあ汲まんかい!」

「また城から抜け出しよって! 滅茶苦茶探したっちゅーねん! 脳みそに虫わいとんかいボケぇ!!」

真っ赤な顔して、机をバシバシ叩きながら怒鳴る。

見た目は涼やかで冷静を装っているカイドウは、女官や貴族の女たちから「冷の君」と呼ばれ人気がある。が、中身はこんなもんである。

その落差が面白くて、からかうことが多々あった。

根は真面目なカイドウは、いつも引っかかってくれた。

リンドウも地方の貴族の娘だった。カイドウと同じ理由で、城に召しあげられた。

こちらも四角四面な性格で、カイドウと共にキャンキャンとよく吠えた。

「あまりにも口うるさいと、嫁の貰い手がなくなるぞ」

「お嫁になんていかないもん」

幼いリンドウは、プイと横を向いた。

「母さまと同じ苦労をして、泣くぐらいなら、あたしは一生一人でいるもん」

聞けば、リンドウの父は女好きで有名な人物らしく(英雄色を好むというが、凡人でも男は色を好む)、母親はさんざんに苦労しているのだそうだ。

「男の人なんて大嫌いです」

「わたしもカイドウも男だが」

するとリンドウは腕を組んで考えた。

「ヤン・チャオさまは父さまと同じ匂いがするけど、カイドウは別」


「……と、いうような事を、その昔いわれたな」

スズを膝にのせながら、思い出話をすると、お付き二人は苦笑した。

「まあ、当たらずとも遠からずではないですか」

「城の中で浮名を流していた時期もありましたからね、ヤン・チャオさまは」

「あの時はさすがに、セリナさまに同情しました」

「節操無さ過ぎて、呆れを通りこして感心していましたからねぇ。おれたちは」

「あんなもの、ただの遊戯ゲームだ」

そうか。そういう時期もあったな。麻疹のようなものだ。

お年頃となれば、異性に興味を持つのは当たり前のことだろう。

好みだと思った女に適当な美辞麗句を並べると、つまらないほどよく釣れた。

そしてすぐに飽きてしまった。

人妻だろうが、箱入り娘だろうが、結局はどの女も一緒だった。

彼女らの頭の中はあんでできている。

わたしは饅頭相手に恋愛する気はない。

「こらこら、スズ。痛いだろう」

スズが不機嫌な顔でガジガジと腕を噛んできた。

甘噛みなんてものではない、本当に痛い。

「昔の話だ、今はお前だけだよ」

どうだか、と鳴いた。

「ああ、わたしのネコが機嫌を損ねてしまった。お前たちが余計なことを言うから」

お付き二人のせいにすると、生意気にも鼻を鳴らした。

「自業自得とは、こういうことをいうのですね」

「人の性格は中々変わらないといいますからね」

スズの目が見開いた。

慌てたのはわたしである。

「おいおい、お前たち。煽るんじゃない」

カイドウ、リンドウは、ニヤニヤと笑ったままだ。

わたしはスズに関しては、めっぽう弱くなってしまう。

それに気が付いた二人は今までの恨みを込めてか、度々このようにチクチクといじめてくる。

全く。主を苛めるなど不届き者め。

とはいえ、わたしもそれを楽しんでいることも否めない。

ところで膝の上のスズは、ツンと怒ったままだ。

カイドウ、リンドウを追い出して、そのご機嫌取りをする。

「スズ」

右を向いているスズを覗き込むと、今度はプイと左を向いた。

「スーズ」

そして、この機嫌取りの行為を楽しんでいる事も、これまた否めないのだった。



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