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異世界転生?ありきたりな物語

作者: sora
掲載日:2026/08/19

 目を覚ますと、知らない天井があった。


 窓の外には、見たこともない街が広がっている。


 高層ビル。空を走る車。見慣れない文字。


 「……異世界?」


 最後に覚えているのは、事故だった。


 トラックのクラクション。


 身体に走った衝撃。


 そして、誰かの声。


 『もう一人のお前を、絶対に見つけるな』


 それだけだった。


 俺は自分の名前すら思い出せなかった。


 病院を出ると、少女が待っていた。


 「やっと起きたんだね」


 「俺を知ってるのか?」


 「知らない。でも、あなたを待ってた」


 少女はミナと名乗った。


 俺が記憶喪失だと知ると、彼女は妙なことを言った。


 「あなたは、向こうの世界から来たんだよ」

 

 「向こう?」


 「この世界とは別の世界」


 ミナはスマホを見せた。


 そこには、俺がいた世界とそっくりな街の写真が映っていた。


 ただ、一つだけ違う。


 写真の東京には、俺の知っている建物がなかった。


 「世界は二つあるの」


 ミナは言った。


 「あなたは事故で死んで、こっちに来た」


 なるほど。


 いわゆる異世界転生というやつか。


 俺は妙に納得した。


 それから俺は、この世界で暮らし始めた。


 ミナと過ごすうち、少しずつ記憶も戻ってきた。


 俺には妹がいた。


 名前はユイ。


 毎朝、俺を起こしてくれた。


 そして、事故の日。


 俺はユイと一緒に歩いていた。


 横断歩道。


 赤信号。


 クラクション。


 そこで記憶が途切れている。


 「妹は?」


 俺が聞くと、ミナは黙った。


 「死んだの?」


 「……違う」


 「じゃあ、生きてる?」


 ミナは答えなかった。


 代わりに、古い新聞を見せた。


 そこには事故の記事が載っていた。


 『少年、交通事故で死亡』


 写真を見る。


 そこには俺が写っていた。


 そして、その隣に――ユイ。


 だが、記事にはこう書かれていた。


 『死亡者は一名。妹は現場にいなかった』


 「……おかしい」


 俺は頭を抱えた。


 ユイはいた。


 確かにいた。


 なのに、なぜ?


 その夜、夢を見た。


 白い部屋。


 ベッドの上に誰かがいる。


 俺だった。


 そして、ベッドの横にユイが立っている。


 『お兄ちゃん』


 ユイが泣いている。


 『起きてよ』


 俺は飛び起きた。


 汗で服が濡れていた。


 ミナが部屋に入ってくる。


 「思い出した?」


 「……俺は、二つの世界を行き来してる」


 ミナの顔が強張った。


 「違う」


 「違う?」


 「世界は二つじゃない」


 ミナは鏡を指差した。


 「二人いるの」


 鏡を見る。


 そこには俺がいる。


 当たり前だ。


 「何を言って――」


 「あなたは事故のとき、頭を強く打った」


 ミナの声が震える。


 「その瞬間、あなたの意識は二つに分かれた」


 俺は鏡を見る。


 鏡の中の俺が――笑った。


 俺は笑っていない。

 

 「……誰だ?」


 鏡の中の俺が口を開く。


 『やっと気づいた』


 声は、俺自身の声だった。


 『俺たちは同じ人間だ』


 世界が歪む。


 ビルが消える。


 ミナも消える。


 代わりに、白い病室が現れた。


 ベッドには俺が寝ている。


 その横で、ユイが泣いている。


 そして鏡の中には、もう一人の俺。


 『お前が生きるために、俺が死んだ』


 「……じゃあ、今までの世界は?」


 『全部、お前の中にあった』


 「ミナは?」


 鏡の中の俺は答えなかった。


 代わりに、背後から声がした。


 「私?」


 振り返る。


 そこにミナがいた。


 彼女は泣きながら笑っていた。


 「私も、あなたの記憶だよ」


 俺は息を呑んだ。


 ミナが手を伸ばす。


 「だから、もう戻って」


 「どこへ?」


 「あなたが生きている世界へ」


 その瞬間、全部を思い出した。


 事故の日。


 俺は一人だった。


 ユイはいなかった。


 ミナもいなかった。


 俺は事故の瞬間、死を受け入れられず、自分の中に「もう一人の自分」と「妹のいる世界」を作った。


 そして今まで、そこを異世界だと思っていた。


 目を開ける。


 白い天井。


 病室。


 母親が泣いている。

 

 「……お兄ちゃん?」


 ベッドの横に、ユイがいた。


 俺は手を伸ばす。


 「ユイ……」


 「うん」


 「俺、異世界に行ってた」

 

 ユイは泣きながら笑った。


 「夢でも見てたの?」


 俺も笑った。


 「たぶん」


 その夜。


 眠る直前、ふと窓に映った自分を見る。


 鏡の中の俺が、こちらを見ていた。


 そして、小さく口を動かした。


 『また明日』


 俺は目を閉じた。


 ――その瞬間、病室の外からミナの声が聞こえた。


 「おやすみ」


 俺は、もう一度目を開けた。


 誰もいなかった。

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