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美少女作家のクソラノベを編集したら依存されていた  作者: 夏目くちびる
文芸部結成編

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009 嵐の前の静けさ

「「「お兄ちゃん!! お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!!」」」



「……んぁ」



「「「ごはんっ!!」」」



 三時間ほどの仮眠を得て、俺はいつものように妹たちに叩き起こされた。



 鏡の前で歯磨きをしていると、代わる代わるに俺のケツを引っ叩いてケラケラ笑う小悪魔たち。

 追い払おうと手を振り「やめろ」と言うと、憎たらしい表情で真似をして――。



「やめっ。だって!! あははっ!!」


「ママーっ!! お兄ちゃんが泡吹いてる!! 泡っ!!」


「キモ!!」



 吹いてねぇよ。バカ。



「こら、お兄ちゃんの邪魔しない!!」



 どうやら、朝食の準備が終わったらしい。



 母さんの声を聞くと、クソガキ共はピタリと騒ぐのをやめて、なぜかジトっと俺を睨んでから静かにリビングへ向かった。



 俺も後を追って席につくと、妹たちは実に行儀よく手を合わせ、正しい形で箸を持って「いただきます」を元気よく発声してから、まるで教育テレビのお手本のような仕草で食事をするのだった。



 こういうところがムカつくんだよな。



 父さん、何とか言ってやってくれよ。洗面所の声、聞こえてただろ?



「今日もお行儀よくて偉いぞ、お前たち。流石、父さんの娘だ」



 ……。



「サク、今日も頼むぞ。安全にな」


「はいよ」



 てなわけで、俺は妹たちと家を出ると、まずは嘗ての俺の学び舎であり、三姉妹の現学び舎である初浜小学校へ向かう。



 我が家は通学路から少し離れているため集団登校に参加出来ず、俺が途中まで送ることになっているのだ。



「お兄ちゃん。祭ねー? 運動会で50メートル走るんだよ? 祭が一番速いからっ!!」


「へぇ、そりゃ凄い」



 今日のお兄ちゃん係は祭らしい。衣と霞は、俺たちの二歩先で手を繋いで歩いている。



 母さんの教育のお陰で、こいつらは危険のある場所や人の目がある場所では騒がないように出来ている(この手を繋ぐルールも母さん考案のもの)。

 そんな側面もあるせいか、聞くところによると、学校でも割と成熟した生徒として立場を任されることも多いらしい。



 ならば、なぜその落ち着きを俺の前では見せてくれないのか。甚だしく疑問ではあるのだが――。



「あれ」



 なんか、似たようなことを最近経験してるような。気の所為か?



「なに? お兄ちゃん」


「いや、なんでもない。それより、運動会があるのか。いつだ?」


「えー? 来るのー?」


「じゃあ行かない」


「ダメ!! 来なかったら怒るからっ!!」



 さいですか。



「応援してよねー!!」


「「いってきま~す!!」」



 商店街手前で最寄りの地域の隊列と合流したのを確認し、付き添いのおじさんと会釈を交わしてから、俺は一人初浜駅へ向かう。



 初浜から酉島までは電車で三駅。この通いやすさこそが、俺が酉島高校を選んだ最たる理由なのだ。



「よぉ、サク。お前のオススメ、どうやら宮崎も好きだったみたいだぞ。ありがとう」



 学校に着くなり、寛がいつもより少しだけ嬉しそうな声色で話しかけてきた。

 どうやら、恋のお陰で感情が芽生え始めているようだ。



 しかし、未だにこいつが恋に落ちたって事実が信じられんな。今度、こっそり図書室を覗いてみるか。



「そうか、それはよかった」


「……眠そうだな」


「まぁ、うん。徹夜しちまってな。悪いけど、今は放っといてくれ」


「分かった」



 流石、俺の周りにいる人間で最も話の分かる男、浅井寛。

 友人の気分を察して身を引いてくれるなんて、実に気持ちの良い奴じゃないか。



 やはり、真の陰キャ同士は惹かれ合うのだ。そう、まるでスタンド使いのようにな。



「おはよう!! 花っ!!」



 ……クラスがざわついた。



 このマドモアゼルは、本当に俺には気を使ってくれないらしい。



 大して目立たないような奴のところにクラスの中心人物が駆け寄ってきたら、そりゃ誰だって眉をひそめるに決まっているだろうに。



 お前さんはもう少し、自分の影響力というものをだな――。



「昨日は朝までありがとねっ!!」


「……え?」



 ――アサッテ、ナンダ?



「てか、私のせいで寝不足になっちゃってるよね。大丈夫? 肩とか腰とか、痛くない?」


「待て、その言い方だと――」



 ――コシガ、イタイ?



「まぁ、楽しんでくれてたみたいだし大丈夫か。んふふ、今日もいっぱいしようね」


「だから――」



 ――スルッテ、ナニヲ?



「てかさぁ――」


「なんで一つずつ丁寧に地雷を踏みながら歩くんだよ!?」


「なっ!? えっ!? 急に何!?」


「それはこっちのセリフだアホ!! お前さん、どういうつもりなんだ!? 本当に俺をどうしたいんだ!?」


「ど、どうって。んもぅ、みんなの前では言わない約束でしょ? 恥ずかしいなぁ」



 言って、牧野はなぜか頬を赤らめると前髪をチョイチョイと弄ってそっぽを向いてしまった。

 なんでだ。なんでそんな反応になる。話を振っておいて恥ずかしいってのは、一体どういう了見なんだ。



 というか、そんな顔したら……。



 ――ブッコロス。



「あぁぁぁぁぁぁっ!!」



 クラスの声が殺害宣告になったのを聞いて怖くなった俺は、教室を抜け出すと一目散に保健室へ向かった!!



 マズい、これは非常にマズい!! 昨日もそうだったが、どうしてあのバカは周囲に誤解を生むような言い方ばかりをするんだ!!



 意図を隠すなら、もう少しやりようってものがあるだろ!! というか、ライン知ってるんだからそれで話せば済むだろうがっ!!



「矢代先生!! 助けて!! また牧野がやらかしま……した……っ」



 勢いよく扉を開いた先には、なぜかブラウスのボタンを全開にして黒い下着を顕にしている先生の姿があった。



「触ってみる?」



 俺は、自分のブレザーを無言で矢代先生に投げつけると、一度廊下に出て大きなため息をついた。



「ごめんね、しゃがんだ時に飛んでっちゃったの。まったく、大き過ぎるのも考えものだわ」



 俺のブレザーを羽織ったまま、矢代先生はブラウスのボタンを縫っている。

 この人がソーイングセットを持ち歩いているだなんて甚だしく意外だ。家庭的な一面もあるんだな。



 痴女だけど。



「あれ、白衣はどうしたんですか?」


「そこに掛かってるわよ。でも、せっかく花ちゃんが貸してくれたから……ね?」


「返せ、バカタレ」



 というわけで、俺は矢代先生に朝の出来事を報告した。



 人望のない俺では、こんなギャグ漫画の住人みたいな人にしか相談出来ないのだと改めて思い知ると、情けなくて涙が出そうになった。



「まぁ、大丈夫なんじゃないかしら。若者は今を生きるのに精一杯で、過去なんて振り返ってる暇はないもの」


「大丈夫なわけないでしょ!? というか、なにいい感じにまとめようと――」



 大丈夫だった。



 一限目の途中に戻った俺だが、特に注目を集めること無く授業は進み、中休みに入っても俺が殺される様子は微塵も感じられなかった。



「こんなん、『牧野が陽キャだから』で説明つかねぇだろ」



 ……そもそも、さっきの声は現実のものだったのか? それとも、被害妄想にビビった俺が一人で勝手に盛り上がってるだけだったのか?



 真相は分からないが、俺が無事ならオッケーなので別に分からなくて大丈夫です。



 いや、マジで。

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俺じゃなければ誤解しているところだってやつ(ちょっと違う)w
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