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美少女作家のクソラノベを編集したら依存されていた  作者: 夏目くちびる
文芸部結成編

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002 処女作とかいう言葉の罪深さ

 花朔太郎。



 17歳、酉島高校の2年生、文芸部所属、恋人なし。以上が、模範的パンピーであるところの俺のプロフィールである。



「あははっ、そんなんじゃないよ〜」



 一方、牧野アメリ。



 17歳、酉島高校の2年生、剣道部所属。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。

 普通、どれか一つでも紹介しようと思えばエピソードを語るために一話分くらいは使うだろうに、彼女は幾つも持ち合わせているため、ここは敢えて割愛させてもらいたい。



 まぁ、関わりのない俺だから、そこまで彼女を知らないだけなんだけど……。



 そんな属性盛り過ぎキャラの牧野だが、しかし、それでいて尚、彼女の最も優れた点はそのコミュ力にあると俺は分析している。



「でも、また先輩に告られたんでしょ? バスケ部のエースの芹沢(せりざわ)さん!! 凄いよね〜」



 本当に誰とでも別け隔て無く笑顔で接し、必ずと言っていいほど相手を満足させてしまう様は、見てるだけの俺でも舌を巻くほどだ。



 一体、どこで何を会得すればあそこまで周囲を和ませ、会話を弾ませることが出来るのだろう。それだけは少し気になる。



「違うってば〜。てか、なんでみんな知ってんだよ〜」



 そんな牧野アメリが、小説を書いている。俺は、この事実が甚だしく疑問であった。

 小説なんて、文字だけの不完全な表現に拘らなくても、彼女なら幾らでもやりようがあるだろうに。



「なぁ、サク。ちょっといいか?」



 牧野の趣味を知った次の日。



 机でぼんやり考えていると、同じクラスの友人である浅井寛(あさいかん)が四角い純日本人面を引っ提げ、いつも通り妙に真剣な声をかけてきた。



「なんだ」


「借りてた本を返しに来た。この小説、俺も面白いと思った。お前の感想を聞きたい」



 寛には、どんな話でも必要以上に真面目な声と表情で伝えてくる特徴がある。



 本人曰く、昔から顔の筋肉を動かすのが苦手らしいが――柔道部に相応しいその巨躯と、古豪みたいな顔つきも相まって、周囲からは勝手に恐れられている可哀想な男だ。



「探偵役のキャラが秀逸。

 推理小説ってのは、『風が吹けば桶屋が儲かる』の理屈を如何にドラマティックに描写するかが人気の秘訣だからな。

 いい本だと思うよ」



 しかし、この人造人間八号みたいな悲しきモンスターも、一皮剥けばなんてことはない。

 ただ腕っ節が異常に強いだけで、中身は普通の男子高校生なのである。



 勝手に恐れられて孤立している寛と、人と関わること自体が好きじゃなくて孤立している俺。



 そんな日陰者同士だから、俺たちは自然と馬が合い、結果、互いに学内唯一の友人同士として過ごしているのだった。



「なるほど、助かる。他にも、面白い小説を教えてくれ」


「まったく、好きな女子が図書委員だからって感想を語るために小説を読むってのは短絡的過ぎやしないか?」


「仕方ないだろ、彼女に柔道の話をしたって仲良くなれるわけがないんだから。ずべこべ言わず、次の面白い小説を教えろ」



 ピュアな奴だ。



 ぶっきらぼうなのに嫌味のない口調も相まった、シュールなこいつの喋りが俺は存外嫌いではない。



「一応忠告しておくけどよ、寛。俺の批評、そのまま使ったら怪しまれるからな。

 ついこの間まで『ぐりとぐら』しか読んだことのなかったお前の口から妙な知識が出てきたら、読書家なんて生き物は必ず怪しむだろうぜ」



 ここだけの話、俺は『その本は昔読んだことある』とか言って内容を語れない知ったかぶりのこと、内心見下しまくってるのだ。



 もちろん、誰にも言わないけれど。

 


「分かってるよ、サク」


「なら、いいんだ。それと、次のレコメンドにあたってだが、先にその図書委員の――」


宮崎桃奈(みやざきももな)


「……先に、宮崎とやらの趣味をリサーチしてから俺にオススメを聞いた方が効率がいいんじゃないか」


「なるほど、そうする」



 深く頷くと、寛は自分の席へ戻って行った。どうでもいいが、あいつの先祖は間違いなく町奉行だろうな。



 さて、俺も一服つくために自販機にでも行こう。

 昼休み中の教室内はザワザワしていて、あまり居心地のいいものではない。



「ねぇ、浅井君と何話してたの?」



 立ち上がった瞬間、寛と入れ替わるように牧野が俺の元へやってきた。

 彼女が先程まで中心に居たクラスの陽キャグループに視線を移すと、彼らはこっちを見てニヤニヤと笑い、ヒソヒソと話を始めている。



 嫌な連中だ。一体、暗い奴の何がそんなに面白いんだか。



「……小説の話だよ」


「小説って、その本?」


「あぁ。寛の奴、最近になって読書にハマったらしくてさ。だから、奴の好みが固まるまで面白い本を勧めてやってる」



 俺は、適当な嘘をついて早くこの場を去ろうとした。



「ふぅん。花って、浅井君と仲良いんだ」


「まぁ、悪くはない」



 体育の授業のペアとか、いつも寛と一緒だし。



「なに、寛のラインIDでも欲しいの?」


「そうじゃないよ。だって、知ろうと思えばクラスラインで知れるもん」



 ほーん。俺、普通にハブられてるじゃん。



 ……別に、悲しくなんてないけどさ。



「私が言いたいのは、花ってやっぱり小説に詳しいんだなってこと」


「まぁ、普通の高校生よりは知ってるかもな」


「そこで、私から花にお願いがあるんだけどぉ……」


「その先は聞きたくない」


「なんでよ!? 私の処女、受け取ってくれたじゃん!!」


「ど――」



 どうしてそこだけ声を大きくするんだ!



 牧野のあり得ない一言で、クラスの雰囲気が一変した!



「だから、花だけなんだよ? 私が頼れるの」


「バカ!! お前、なんてことを言うんだっ!!」


「本当のことじゃん。初めてだったのに、凄く嬉しかったのに、そんなつっけんどんにしてさぁ」


「やめろってば!!」



 『作』が抜けてるんだよ!! 『作』が!! あと、その切ない表情はなんなんだ!!



「私の処女にはエネルギーがあるって――」


「わざとだろお前!! つーか、それ以上は何も言うな!」


「どうして? だって、花が言ったんだよ。処女が好きって」


「言ってねぇよ……。頼むから、その言葉を連呼しないでくれ……」


「意味分かんない」



 涙目になりながら懇願すると、牧野は小首を傾げて俺を見る。こいつ、都合の良い時だけハーフ設定を発揮してきやがって……っ。



 ――ヒソヒソ。



 というか、本格的にマズい。



 周囲の空気が、不穏を通り越して殺気に変わってきている。

 ひょっとすると、いや、間違いなく俺はここで殺されるんじゃないのか?



 ――ユルサナイ。



「ひえぇぇ!!」



 チクショウ!



 俺が衆目の面前で喋ることが出来れば何とかなるのかもしれないのに現実は残酷だ。

 普段から苦手な喋りが、緊張と焦りでいつも以上に口を出ない。



 なぜ。なぜ、本当になぜ。よりによって、なぜ牧野なんだ。

 こいつじゃなければ、幾らか救いようはあったはずなのに。



 というか、クラスメートが書いてる小説に偶然行き当たって、それを読んでるところを偶然見られる確率って、一体どれだけだよ。

 あまつさえ、それがクラスの人気者である可能性ってなんぼのもんだよ。



 なぁ、俺の前世よ。



 お前、神でも殺しちまったのか?



「ねぇ、花。どうしたの? 顔、青いよ? 大丈夫?」


「……持病の片頭痛が突然襲ってきたみたいだ。俺、保健室に行くよ」


「そっか。じゃあ、連れてってあげるね。ごめん!! みんな!! 私、花と一緒に保健室行くから!!」



 ……あぁ、やめてくれ。



 そんな思いと一縷の希望を乗せて寛を見た瞬間、俺の目に飛び込んできたのは――。



「アーメン」



 初めて見る、奴の笑っている顔だった。

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