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美少女作家のクソラノベを編集してたら依存されてしまった  作者: 夏目くちびる
文芸部結成編

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10/16

010 才能と理屈の融合

 激動の朝から始まった一日だが、終わってみればなんてことのない、いつも通りの平和な日常だった。



 やはり、振り回されるキャラが俺ではプロットに推進力が足りないのだろう。

 もっとノリの良い男子だったら、或いは一章分くらいは引っ張れたのかもしれないな。



「やれやれ」



 部室に到着した俺は、ルーティンを済ませてからデスクについた。

 いつもと違うのは、途中で牧野もやって来たため、水色の湯呑にも茶を注いだことくらいだろう。



「それでさ、どうだった? 私の小説。も〜う、授業中もずっと気になっちゃって!!」



 牧野は、天下統一目前の織田信長のような鼻息の荒さで俺に詰め寄った。



「そ、そうだな。では、まずは俺が面白いと思った小説について語らせてもらおう」


「ぃやったぁ〜!!」



 俺は、改めて『初恋絶対成功委員会』について話す。



「最たる長所は、他作品と比べても圧倒的にテンポがよくて読みやすいことだ。

 その理由、分かるか?」


「え、なんだろ。分かんない」


「答えは単純。この小説には、恐らくプロットが存在したからだ」


「プロット?」


「起承転結の構成や物語の骨組みを決める設計図のようなもののことだ。これがあると、創作の迷いが無くなる」



 ……らしい。



「ふ〜ん。言われてみれば、これだけ書くことのメモをしてた気がする。眠かったから覚えてないけど」



 はいはい、天才天才。



 もう、牧野が無自覚に正解へ辿り着く展開には飽きてるっつーの。



「てか、なんで分かるの?」


「読書に長い時間を費やした者にだけ働く、第六感のようなものがあるんだよ」


「あははっ、嘘っぽ〜い」



 牧野は、からかうように上目遣いで俺を見つめた。



「ゴホン。つまりだな。この物語は、非常に合理的なんだ。

 なぜ、キャラクターたちがそのような行動を起こしたのか、読者が納得しやすい形になっている。

 行動と目的にズレがない方が、作品としての完成度が高くなるという好例だな」



 なにより、俺の好みでもある。



「なるほど〜」


「加えて、短編であることも功を奏した。というか、この作品が面白い理由のほとんどは、そこに集約されていると俺は考えてる」


「どゆこと?」


「長編小説は、せっかくのアイデアの推進力をダラダラした展開で殺しかねないってことさ」



 勿体ぶる作者の気持ちは分かるが、そのせいで主人公の行動に一貫性が無かったり薄っぺらなストーリーになったりして、結果クソラノベに着地するパターンは珍しくない。



 しかし、この作品は七千文字程度でコンパクトに纏っていて、依頼→行動→解決→結末がシームレスに繋がり無駄がなかった。



「だから、俺はキャラの活躍を最後まで飽きずに読むことが出来た。

 言うなれば、俺はお前さんの小説で初めて『追体験』を楽しめたんだよ」


「ん〜っ!! それは私にも分かるっ!! めっちゃ嬉しい〜!!」



 喜ぶ時はとことん喜ぶ彼女の天真爛漫さに、思わず目を焼かれそうになる。



「とにかく、この小説は投稿するべきだ。

 今の牧野の実力がフルに発揮された、ベンチマークのような指標になってくれるだろう。

 ……個人的に、読者評価に興味もある」


「うんっ!!」


「次に、ノベハウで流行りそうな作品を分析していこう」


「え? どゆこと? 花が面白いと思った小説と流行りそうな小説は違うの?」


「……順を追って説明しようか」



 スコアを見る限り、今のウェブ小説界隈で一番分かりやすく数字を取るのは『復讐』だ。



 主人公を酷い目に合わせた敵役を叩き潰して没落させる物語こそが、インスタントな快楽を求める多くの読者の欲望にフィットする。

 そこが、趣味としてのコスパが良いと評価されているからだ。



「……それ、ぜんぜん私の書いてるやつと違うじゃん」


「そうでもない。

 お前さんの書いた小説群の中にもあったよ。『虐めてくる叔母様が諦めるくらい明るく振る舞っていたら、いつの間にかみんな幸せになってた』がな」


「これ? 花が言ってたのと違くない?」


「いいや。これ、実は復讐の発展系になってる。言ってみれば、一周した読者向けの作品なのさ」



 流行りの小説に敏感な読者は、同系統の小説に対して食傷を患っている可能性が高い。

 ウェブ小説サイトは、ひとたび新たな作品が日の目を浴びると、同ジャンルの作品がランキングを埋め尽くしてしまうものだからだ。



「そういう目の肥えた読者に対して刺さるのが、『諦めるくらい明るく振る舞う』という変化球だ。

 誰も傷つかない方法で敵をやっつけるのが珍しく、それでいて復讐物の面白さはしっかり担保されている。

 故に、俺はタップされる可能性が高いと踏んだ」


「お、おぉ。私の小説って、そんなふうになってたんだ。知らなかったぁ」



 牧野は、目をパチクリさせながら拍手をしていた。やはり、理屈の話は疲れるみたいだ。



「少し、休憩するか?」


「いい、聞きたい」



 牧野は、湯呑のお茶をゴクリと飲み干すと俺をまっすぐに見つめて言葉を待った。



 緊張するから、頬杖でもついて聞いてくれた方がいいんだけどな。



「俺は、更に面白さを尖らせるために、各小説の面白い展開や素材を集めて最強のキメラを作ることを提案したい。

 物語の大筋に『叔母様』を採用し、ディテールで他作品の光る部分を差し込んで――」


「え〜、やだな〜。せっかく生まれてきてくれたのに、体がバラバラになっちゃうなんてさ〜」



 即否定であった。



「い、嫌か?」


「うん、イヤ」



 そうですか、嫌ですか。



「まぁ、このままじゃ絶対に結果が出ないってわけでもないか。

 今回は、今言った二つを加筆・修正して投稿しよう」


「因みに……さ」


「ん?」


「花の言うキメラって、どんな感じなの? 一応、聞いてあげてもいっかなーって思ってたりして」



 ……。



「俺が考えたのは、主人公に別のキャラの人格をインストールする方法。

 具体的には、こいつと、こいつと……後はこいつだな」


「ふむふむ」


「こうすることで、天然だった主人公が明るさを演じている頭のいい女になる。

 属性的にも人気なパターンだし、ここまで個性の強いキャラなら展開の方から勝手についてくるだろう」


「た、たしかに」


「復讐は、本来なら主人公が物語に振り回される形だが、ここでは物語が主人公に振り回されて形を変えてくれるわけだ。

 そこに、整合性の取れる素材を当てはめれば、俺の構想したキメラは完成する」


「……そっか」



 まぁ、俺だって説明したから聞き入れてくれるとは思ってないさ。

 ここは大人しく引き下がって――。



「花は、そういうのが読みたいの?」


「……ん? あ、あぁ。そうだったら、もっと面白くなるだろうな、と」 



 それから、二分くらい考えていただろうか。



 牧野は、急にスマホを握り、ポチポチとテキストを入力する作業に没頭し始めた。



「書いてる、のか?」


「今、集中してるから」



 ……そうか。



 なら、俺の仕事は終わったようなものだ。

 あとは、出来上がった後で細かいところを修正して完了。

 今のうちに『初恋委員会』の方を手直ししておくとしよう。



「……あれ」



 なんだよ、朔太郎。



 あんなに悩んでた割に、お前、結構楽しんでるじゃん。



「出来たっ!!」



 牧野が声をあげたのは、まもなく活動終了時間である18時頃。牧野にしては、かなり時間を使った印象だ。



 まぁ、もう部室は使えなくなるし、チェックは家でやって、感想は電話で言うなり明日以降で伝えるなりすればいいと俺は思うのだが――。



「今読んでっ!!」



 ということで、俺たちは駅近くのファミレスへ向かった。母さんには、少し遅くなると伝えておこう。



 俺は、三十分強で、改稿版『虐めてくる叔母様が諦めるくらい明るく振る舞っていたら、いつの間にかみんな幸せになってた』を読み終わった。



「……いいね、凄くいい」


「きゃあ!!」



 読み終わった感想を伝えると、牧野は飛び上がって喜んだ。

 彼女のグラスがテーブルに転がって、緑色の液体がシュワシュワと広がっていく。



 読後感を楽しむ間もなく慌てて持ってきた台拭きで片付けながら目をやると、牧野はニヤニヤしながらスマホを眺めていた。



 お前が片付けろよ。



 そんな悪態をつく気にもならない、ピカピカで純粋な笑顔だった。



「よし……と。

 まぁ、俺の好みに近づいたって理由もあるけどな。一番は純粋に面白さが増したからだ。やっぱ、お前さんは凄いよ、認める」


「まぁねっ!! ……って言いたいところだけど、今回は流石に違うかな」


「ん? どういうことだ」



 訊くと、牧野は俺の右手を素早く奪う。



「ありがとう、花。花のお陰で、私、凄く面白い小説が書けたよ」



 牧野は、えらく真面目な顔をしてそう言った。



 こんな牧野の顔、初めてだ。



「か、買い被るなって。俺のお陰じゃない、牧野が――」


「花のお陰だよ。花がいなければ、これは絶対に書けなかった」



 ……。



「ま、まぁ、お前さんがそう言うなら感謝は受け取っておく。

 でも、マジで俺のお陰なんかじゃないからな。そこ、勘違いするんじゃないぞ」


「じゃあ、二人のお陰だねっ!!」



 そして、いつものような、眠たい猫みたいな笑顔とハツラツな声。



 牧野アメリは、果たして俺の気持ちをどう察したのだろう。

 その頬には、僅かながら赤色が差していて、まるで彼女も照れてしまっているような印象を受けた。



「……反則だ」


「お互い様にねっ」



 何がお互い様なんだ? そんな疑問を置き去りに、繋がれた右手がゆっくりと離れる。



「んふふ、もっかい読もっと」



 そう呟いた牧野の興味は、既に自分の書いた小説へと戻っていた。

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― 新着の感想 ―
自分の書いたものを満足して何度も読み返せるというのは、幸せなことだなあ。書いたものが黒歴史にはならないのだな。 最後の小説、タイトルはしっかりなろうしているw
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