魔女と弟子《一年目》
朝食後、これからの事を説明するため、みんなでリビングへ移動する。
ラピスは、朝食後に帰ろうとするのをお土産のクッキーで誘導して、今は私の隣で美味しそうにクッキーをパクパク食べている。
私の向かいに居るレントは、俯き加減で座っている。朝食の時は少し表情も和らいでた気がするけど、今は…緊張してるのかな。
昨日から、色々と怒らせちゃったり、不機嫌にさせちゃったりで、私に対しての印象って最悪だろうな。
何とか挽回して、少しでも頼れる信用できる人ってところを見せないとね。頑張るぞ。
「えー、まずは、これからの事を話す前に、自己紹介は…昨日したけど念のため、私はルーナです。ルーナでも、ルーナさんでも、ルーナお姉さんでも好きに呼んでください。」
少しでも雰囲気が良くなるように、明るく言ったのに、なぜか、レントの眉間に皺が寄る。
「…それと、隣に居るのが、水龍のラピスです。普段は龍の姿で湖に住んでいて、遊びにくる時は、今のような人型になります。ラピスって呼んでください。いいよね、ラピス?」
クッキーを食べ終え、次はケーキに手を伸ばすラピスは、「しょうがないから、許す」と了承してくれた。
「それで、あなたのことはレントって呼んでもいいですか?仲良くなりたいので、もし良ければ敬語も無しで、どうでしょうか?」
レントは、小さく頷いて、「それでいい」と短く言っただけだった。
それからは、3年間で魔法使いになるための修行をする事、私が作る薬をレントに引き継ぐこと、期間が限られるため明日から修行を初める事など説明していく。
その間、レントは黙って聞いていたが、薬作りの話になると、難しい顔をして何か考えているようだった。
「大体は説明したんだけど、何か聞きたいことはあるかな?」
私の問いかけに、初めて顔を上げたレントと視線が合った。
「薬作りの事だけど、必ず習得しないといけないのか?結界を張ってるだけでも国に貢献してるし、わざわざ薬作りまでって嫌なんだけど」
えっ?まさかの質問。確か…ルドからは、全て覚えないといけないって言われたような。
それなら、薬作りもそうだよね?私が居なくなったら、レントが薬を納品しないと。
「私の持つ全てを、次の魔法使いに伝えるので、魔法だけじゃなくて、薬の調合や、いずれは薬の納品もレントが引き継ぐことになるよ。」
その言葉に、ラピスが反応する。
「それは、ちょっと違うぞ。必要なのは魔力の高い魔法使いって事だけで、薬作りは関係ないだろ。」
その言葉に、私の方が混乱する。500年近く前の事だから、何か間違って記憶してたの?
困惑してる私を見て、ラピスは1人納得した顔で説明する。
「ルーナの記憶は多分間違ってない。ルドがそう説明したんだろ?それなら、それはお前の為だよ。」
余計に疑問が浮かんだ私に、続けてラピスが説明する。
「まず、結界を維持するには魔法使いが必要だが、別に魔法を使う必要はないだろう。ルドも最後の時に、''ほとんど時が止まった状態で魔法使いの寿命を使って結界を維持する''って言ってただろう。」
言ってた…ような気がする。じゃあ、ルドはどうして魔法だけじゃなくて薬の知識まで教えたの?
「あいつは過保護だったからな。お前が少しでも辛くないように、役割を与えたかったんだろう。ただ1人で何も無く生きるより、お前なら誰かの為にっていう方が、楽しく過ごせると思ったんじゃないか。それに、薬を渡すことでルーナはみんなから感謝されてただろ。ルーナの存在が悪くならないようにって考えもあったのかもな。」
国からは定期的に生活に必要なものが届く、その中に、薬で回復した人達から感謝の手紙が届くこともあった。それを読むと嬉しくて、また頑張ろうって前向きに考えることができた。
私が辛かったり、寂しくないように考えて…。自分が居なくなった後の事も考えてくれてたの…。
500年越しに知ったルドの想いに、胸の奥がジーンと温かくなる。
「あいつは、昔からお前の事だけ…だったからな。」
ルドを思い出しているのか、ラピスの表情も少し寂しそうに見えた。
「…だから、別に何もしたくないなら、それでいいんだよ。ただそこに居るだけでも、結界には問題ないしな。ただ、500年も何もしないで1人で居るのは、地獄だぞ。」
その言葉に、レントは考え込んでしまった。
「じゃあ、やっぱり魔法を覚えるのがいいかもね。せっかく魔力があって、魔法が使えるんだし!魔法があると生活も楽になるよ。」
「わかった。魔法習得ならやる。」
レントは不機嫌な顔で、ラピスの方を見て言った。
「魔法は私が教えるね。あと、2階に歴代の魔法使いの書記があるから、読んで欲しいけど、読み書きは出来る?」
「孤児院で、読み書きは習ったから、少しは分かる。その…できれば魔法はラピスから習いたい」
えっ、ラピスから?確かに私よりもラピスの方が、魔力の扱いも魔法の発動も上手いけど、私が教えたいのに、そこまで嫌われてるの!?
「面倒くさいから嫌だ!」
すぐに拒否したラピスに私は安心したが、レントはずっとラピスを見続けている。
弟子を取られては堪らないと、慌てた私は、自分をアピールすることにした。
「私も、魔法はちゃんと使えるよ。上級まで使えるから大丈夫だよ。読み書きだって、難しい言葉は教えられるし……。だから、私じゃダメかな。ラピスじゃなくて私を選んで!」
「…ッ」
レントが急に真っ赤になって、こちらを凝視している。カタカタ震えてるように見えるけど、まさか私の言葉に怒ったの。
その様子を見てたラピスは、溜め息をついて、可哀想な子を見るような目で私を見てる。
「お前な…無自覚に誘惑するな。やっぱり俺が魔法は教える。明日から午前中湖まで来い。」
「ええー!なんで!」
「なんでって、お前のせいだろ。」
訳が分からず抗議する私を無視して、ラピスは「帰る」と部屋を出ていった。
ラピスが部屋を出ると、我に返ったレントも続いて部屋を出ようとする。
「待ってレント。魔法の件は、しょうがないけど、読み書きは、分からないことあればいつでも聞いてね。それから、今から家と周囲の案内するから、ついてきて。」
レントは、一瞬嫌そうな顔をしたけど、黙って私の後をついてきてくれた。
それからも、私とレントの関係は改善することなく、私が声をかけても短い返事のみで、避けられているように感じる。
何も変わらないまま月日だけが過ぎていく。




