魔女と弟子《出会い》
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ありがとうございます。
「ラピス、私の格好変じゃない?大丈夫かな?」
声をかけられたラピスは、チラッとこちらを見て、はぁと溜め息をつく。
「お前それ聞くの何回目だよ!別に変じゃないって言ってるだろ。いい加減落ち着けって」
朝、外出用のワンピースに着替えて、何度も確認のために鏡の前から動かない私に、ラピスは呆れたように目を向ける。
今日は、初めて弟子に会う日。
あれから14年。この日をずっと心待ちにしていた。顔は見えなくても、魔力を感じる事はできる。傍にいなくても、存在を感じるだけで、私にとっては喜ばしいことで、自分の誕生日はどうでもよかったけど、弟子の誕生日には、毎年欠かさずお祝いした。
どんな表情するのかな、身長はどのくらい?性格は優しいかな、それとも恥ずかしがり屋?おしゃべり好きかな。
弟子の事を考えるだけで楽しくて、まるで親にでもなった気分で、弟子の成長を楽しみにしていた。
「ルドも、私の事をこんな風に思ってたなら、嬉しいな」
「ルドはもっと凄かった。引く程ヤバいぞ。」
引く程なのは気になるけど、それだけ私を大切に思ってくれてたなら素直に嬉しいと思う。
「そろそろ出た方がいいんじゃないか」
時計を確認すると、すでに13時。今日中に帰ることを考えて、早めに迎えに行かないと間に合わないかもしれない。
突然やって来た見知らぬ女に、「あなたは魔法使いの弟子です。」なんて言われても混乱するだろうし、全てを捨てて知らない女に着いてきてって言われても嫌だろう。
気持ちを整理して考える時間も必要だろうし、大切な人との別れの時間も必要だろう。
「それじゃあ、いってきます。ラピス留守番よろしくね」
私は、ラピスに向かって手を振ると、そのまま転移魔法を使った。
普段なら、転移しても途中で魔法が弾かれ、森の端までしか移動できない。目の前には、外の世界が見えるのに先に進めない。
でも、弟子を迎える日だけは、1日限定で弟子の所へ転移することができる。
なぜ、その日だけ特別に出られるのか原理は不明で、歴代の魔法使い達も分からなかったらしい。⦅因みに逃げたら死ぬほどヤバい罰が下るらしい。⦆
目を開けると、そこは小さな教会の前だった。辺りを見渡すと、隣には更に小さな建物が見える。弟子の気配は、その小さな建物の中にあった。建物を覗いて見ると、シスターらしき人と、小さな子供数人が外で遊んでいる。
此方に気づいたシスターが、私の元に近づいてきた。
「こんにちは。何かご用ですか?」
シスターは笑顔で話しかける。
「突然すみません。私は、結界の魔女でルーナと申します。人を探しているのですが、ここは教会ですか?」
結界の魔女という言葉にシスターは驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔を見せる。
「隣が教会で、ここは孤児院になります。人探しなら、町役場やギルドとかの方がいいかしら」
ここは教会併設の孤児院らしい。まさか、弟子は、孤児ということ?
「えーと、人探しは大丈夫です。ここに居ることは分かっているので、その人に会いたいのですが、会うことはできますか?」
シスターは、「確認してきます」と、一度中に戻ったが、しばらくすると「どうぞ」と案内してくれた。
孤児院の中に入ると、弟子の気配が更に近くなった。奥に進むにつれて、気配はどんどん強くなる。
期待と不安で、私の心臓はバクバクと鳴り続け、(このままでは心臓が壊れる)と思った時、ある部屋の前で私の足は止まった。
私と同じくらいの身長で痩せ細った身体。ダークブロンドの髪に、赤い瞳の綺麗な男の子と目が合った。
私は、目が合った瞬間、嬉しさで身体が震えた。
そのまま、男の子の前に進む。
「こんにちは。私は、結界の魔女。名前はルーナと言います。あなたを迎えに来ました。私と一緒に来てくれませんか?」
やっと出会えて、いろんな感情が溢れだし、自然と笑顔になる。気持ちを抑えきれず、目の前の男の子に手を伸ばす。
「はぁ!?普通に嫌なんだけど!初めて会ったおばさんに着いていく程、俺は、バカじゃないんだけど!」
パシンと、伸ばされた手を払われ、一瞬何が起こったのか分からず、私は唖然とする。
「レント!なんて事を…、すみません。すみません」
シスターが必死に頭を下げて謝っているが、当の本人は、謝るどころか、私を睨み付けている。
「一体何の騒ぎですか?」
騒ぎに気づき、奥の部屋から年配のシスターが出てきた。
「院長先生、すみません。レントが結界の魔女様に失礼なことを言ってしまって…」
院長先生と呼ばれた年配のシスターは、私とレントと見比べて、何も言わず、そのまま奥へと案内した。
彼は、嫌がっていたが、院長先生の言うことには逆らえず、不貞腐れた顔で部屋に入ってきた。
私は、さっきの出来事のショックで、しばらく放心状態だったが、シスターの入れてくれたお茶を飲み、少し心が回復したところで、訪問の理由を説明した。
「つまり、レントが次代の結界の魔法使いということですか?」
院長先生もシスターも驚いてレントを見た。
「そうです。これは、決定事項で拒否することは出来ません。王命と同じようなものです。」
王命という言葉に、全員が反応する。
「断れない代わりに、残される家族には国から報奨金がもらえます。レント君の家族は…」
「そんなのいない!!」
私の説明の途中で、彼は話を遮り、怒鳴り声をあげる。
「レント落ち着いて下さい。魔女様の話を遮ってはいけません」
院長先生に言われて、ハッとした彼は、そのまま俯いてしまった。
「えーと、それなら、報奨金は、孤児院への寄付ということでも大丈夫だと思います。」
その言葉に、彼が勢いよく顔を上げて、先程とは違って落ち着いた物言いで話す。
「それなら、俺は結界の魔法使いになる…なります。だから、一緒に行くから、孤児院に寄付して…ください。」
そう言うと、彼は私に向かって頭を下げた。
「頭を上げてください。こちらこそ、突然の提案に話を聞いてくれて、ありがとうございます。」
私も、家族の為ならばと魔法使いになることを決めた。彼も孤児院の為に…。
初めは、乱暴な子で恐かったけど、実は優しい子かもしれないと、彼の気持ちが少し分かった気がして嬉しかった。
「改めまして、皆からは結界の魔女と呼ばれています。名前は、ルーナです。よろしくお願いします。」
「俺は、レント…です。よろしく」
手を差し出すと、戸惑いながらも握手してくれた。
お別れの時間も必要だろうと、時間ギリギリまで待つつもりだったが、院長先生とシスター達に軽く挨拶をして終わりだった。
荷物も、ボロボロの洋服が2枚だけだったので、必要な洋服や靴など買い足してから戻ることにした。
本当は、待ってる間にラピスへのお土産を買いに行く予定だったが、レントから一定距離を離れると、ピリッと身体に電気が流れたので、逃走防止の何かが発動してるのかもしれない。ちょうど買い物付き合ってくれて良かった。
全ての準備が整い、いよいよ森に帰ることにする。
「森に転移すると、もうここには戻って来られないけど、心残りや会いたい人はいませんか?」
私の問いかけに、少し考えると、行きたい場所があると言う。近くにあると言うことなので一緒に歩いて向かうと、そこは広い丘の上だった。
「まだ時期が早かったな。」
「ここは、何か…思い出の場所ですか?」
私の問いに、少し表情が和らいで懐かしむように、レントが頷いた。
「まだ、幼い頃に来たことがあるんだ。その時は、ここら一体に花が咲いていて…綺麗だったんだ。」
花の時期ではなく残念だったが、しばらく静かに景色を見てから、満足したように私に向き直り、優しい顔で、「行こう」とその場を離れた。
その後、すぐに転移魔法を使って森の我が家に帰ってきた。
私が、初めて森に来たときに、ルドがしたように、扉の前に転移して、中に入るとパンッと手を叩いて部屋を明るくする。
初めての魔法に驚いた顔のレントに、気分を良くした私は、夕食を作ってご馳走した。
「…不味い。どうやったら、こんなに不味くなるんだ。食材がかわいそう。」
食事を食べたレントからは、散々な事を言われ続けて、私は半泣きで初日を終えたのだった。
次の投稿まで時間がかかるかもしれませんが、
完結まではいきたいので、最後まで読んでくれると嬉しいです。




