弟子と水龍
【レント視点】
「こんにちはぁ。あなたもこっち側に出てきたの?」
声のする方へ振り返ると、そこには以前会った精霊達がいた。
「なんだ?精霊…か?レントそいつらを知ってるのか?」
ラピスの声を聞いて、精霊達がビクッと体を硬直させ、更に顔面蒼白になったかと思ったら、次の瞬間、辺りを飛び回り慌て出した。
「キャー!あれは、水龍じゃないのぉ!?」
「ひゃあ!なんでここにいるのぉ?」
「うぇ!ヤバい。早く早く隠れなきゃ。ボクたちは普通の鳥さんですよぉ。ピチチチ」
鳥の姿をしているが、話していた時点で鳥でないのは分かっているし、既にラピスは''精霊か''と口にしているのだから、今さら隠しても無駄なのだけど、精霊達は「ピチチ」と鳴きながら、俺の肩に頭に止まった。
「おい!今さら何を言っている。お前らが精霊なのは、分かりきったこと、何故、お前らがレントを知っている。今すぐ正直に話せ。」
ラピスが苛つきながら、こちらを威圧してくる。このままでは、俺にまで被害がきそうだ。
「ラピスちょっと待って。この精霊達はルーナの友達だって言ってた。以前からの知り合いらしい。俺も最近紹介されたんだ。」
ラピスの眉間の皺が深くなった。
「わぁぁ、ちょっと勝手に話さないでよ。内緒って言われてるのにぃ。」
頭に止まってる精霊が、嘴でコツコツと俺の頭をつつく。普通に痛いからやめて欲しい。
「内緒…だと。誰に言われた。全て話さないと湖に沈めるぞ。今すぐ言え!」
ラピスの怒りに当てられて、精霊達はブルブル震えて今にも気絶しそうだ。
「ラピス落ち着いてくれ。そんなに恐い顔してると、話したくても萎縮して話せない。」
取りあえずラピスを宥めて、怯える精霊達に、なるべく優しく声をかける。
「その、君たちが精霊なのは、知られると何かマズイ事があるのか?」
右肩に止まってる精霊が、少し元気を取り戻し説明する。
「あのねぇ、内緒にって言ったのは、黒い人だよぉ。水龍に知られると駄目だって言ったのぉ。バレたら壊されちゃうかもってぇ」
それに反応して、左肩の精霊も説明する。
「そうだねぇ。森の外に誰かが出てくるまでは、精霊の事は内緒って言ってたぁ。」
最後に頭の上の精霊が話す。
「あっ、この子が外に出てきたから、内緒じゃなくていいんじゃなぁい。」
黒い人って誰だ?その人が精霊であることを隠すように言ったのか…。何のために?
「…ルド…か。ルドがお前達に接触してるなら、他にも何か言っていなかったか?」
ラピスは、黒い人がルドだと直ぐに気づいたようだった。
「そうだねぇ。ルドって名前だったかも。ルーナをよろしくって言ってたぁ。」
「それからぁ、外に出てきた人に何か聞かれたら、教えてあげてって言ってたよぉ。」
「ボクたちに、何か聞きたいことがあるのぉ?」
何か…聞きたいこと…。
そうだった。精霊が来たことで、本来の目的が頭から抜けてた。
ルーナの所へ行くために、俺は森の中へ戻らなければならないんだ。
「…中に、森の中に戻りたいんだ。ルーナの所へ行きたい。何か方法を知らないか?」
そもそも、精霊達は、何で外にいるんだ。前は森の中で会ったのに。
結界があって外には出られないはずなのに、今、外に居るのはおかしいだろう。
「わかったよぉ。入り口教えるねぇ。こっちだよぉ」
(入り口って、何処かに出入りできる場所があるのか?)
飛んでいく精霊達の後に、急いでついていくと、神殿の真後ろの位置まで移動してきた。
「ここに黒い人が作った入り口があってね。誰かに聞かれるまで教えちゃダメって言われてたの」
パッと見は分からないが、触れてみると確かに結界に精霊が通れるくらい小さい穴が開いている。
これをルドが作った?ラピスでも壊せなかった結界に穴を開けるなんて、一体どんな魔法使ったんだ。
「この穴はねぇ、引っ張れば大きくなるから大丈夫よぉ。やってみてぇ」
精霊に言われるまま小さい穴に両手を差し入れて、左右に思い切り引っ張ると穴が大きくなり、人が通れるほどの大きさに広がった。
「ここから中に戻れるよぉ。どうぞぉ」
俺は、緊張しながらも、穴をゆっくり通る。結界に拒絶されることなく、森の中に入ることが出来た。
「も…戻れた。よかった…本当に…」
精霊達は、俺の後について中に入ってくる。
「よかったねぇ。」
「それじゃあ、ボクたちはルーナに会いに行くね」
「またねぇ。」
そのまま飛び去ろうとする精霊の一人を、ラピスが無言で、鷲掴みにする。
「ぐえぇ…な、何する…の…」
ラピスは、物凄い形相で精霊達を睨んでいる。
「そのまま、行かせると思うか。いつからルドやルーナを知っている。それにこの穴は何だ?いつからある。神殿の事にも、お前らは関係してるのか?知ってる事、他に黙ってた事、全て話せ。…でないと、こいつを潰す。」
目の前に突き出された仲間を見て、精霊達が絶叫する。
「やめてよぉ!消えちゃうよ!ちゃんと話すから、優しくしてあげてぇ。びぇーん」
はぁ、本気で怒ったラピスは、俺では止められないんだが…。以前、ラピスを怒らせてボコボコにされた記憶がよみがえる。
正直、怒りのラピスに関わるのは遠慮したいが、このままでは、ルーナの元へ行けない。
「…ラピス、ちょっと待って、怒るのは分かるけど、今はルーナを優先にしないと…だろ?」
ルーナの名前に、ラピスが反応する。
「わかった。だが、ルドの事は話せ。他にも何かあるはずだ」
掴んでいた精霊をラピスが離すと、精霊三人で抱き合って、「ピチチチ」と、鳴いている。あまりの恐怖に鳴き方が鳥になってしまっているぞ。
「精霊さん達、ルドのことで知ってることがあれば全て教えて欲しい。ルーナの為なんだ。頼むよ」
怯える精霊達に、笑顔で優しく声をかける。すると、ルーナの名前に、精霊達も反応する。
「ルーナの為なら話すよ。ルドとは、前から知り合いだよ。ルーナの為に魔法陣の呪いを解きたいって言うから、手伝ってたのぉ」
「ルドは、ルーナと仲良くしてねって言ってたけど、でもね、水龍には仲良くしてるの内緒って言われた。内緒じゃなくなるのは、ルーナの大切な人が外に出た時か、ルーナが外に出た時だって」
「ボクたちは、ホケンって言ってたの。だから、穴のことも内緒ねって。ルーナにいつもと違うことがあったら、誰かを手助けしてって…?あれ?それって君のことかなぁ?」
それって…ルドは、この状況を知っていたってことなのか?予知能力があったのか…。
「ラピス、ルドは予知能力があって、未来が視えてたのか?」
俺の問いに、ラピスは首を横に振る。
「そんなものはない。あいつ…。一体いくつの結末を考えてたんだ。それを全てルーナの為に…。それ程想っているのに、それなのに、何故あいつは…」
ラピスの顔が怒りから悲しみに変わる。ルドが、ルーナの為に動いていたのは明白だ。そして、実際、ルドのお陰で前に進めている。
過保護ってレベルではないな。ルドはそれほど、ルーナの事が、好きだったのか…。
「どうするぅ?何か困ってるなら助けてあげるよ。」
精霊の声で我に返ると、いつもの調子を取り戻した精霊達が、俺の周りをパタパタと飛び回る。
「そうだな。ぜひ、ルーナを助けるために力を借りたい。お願いします。」
精霊達が俺の肩や頭に止まる。もう、そこが定位置みたいだ。
「よし、それじゃあ、ルーナの所に行こう」
これで、やっとルーナの元へ行ける。どうか無事でいて、ルーナ…。




